第545話
木嶋は、家にある掛け時計で時間を確認した。
「午後7時か…!今から出歩くのも、明日、仕事だし…《かったるい》な。帰り道に、本屋で、雑誌でも立ち読みしよう。」そう考えていた。
はるかは、毎日…横浜駅周辺にいる。
用事がないと、木嶋に連絡をしないのである。
その点、かれんさんは、木嶋に好意を抱いている。
その好意を無駄にしたくないのである。
最近、はるかと会う機会が少なくなっている。
木嶋から見れば…精神的に、追いつめられる不安がない。
逆なことを言えば、はるかと会えない…寂しさはある。
麻美は、
「いつまでも、はるかさん…《オンリー》から脱皮しないと…ね!」小言のように、木嶋に話している。
木嶋は、決まって
「はるかさん以上の人を見つけます。」と、言いながらも…川の流れのように、ここまで来てしまった。
翌日になり…
木嶋は、普段と変わらない朝を迎えていた。
内心は、昨日の…かれんさんの回答に、笑みを浮かべたいところである。
人は、喜怒哀楽が、激しい。
しかし…感情を表に出すと、周りが萎縮するのではないか?と、疑心暗鬼になるものである。
いつもと同じように、駅までの道のりをいて行く。
勝負師は、自分の直感を信じている。
木嶋に、その直感があるかは…分からない。
本来なら…X'masイヴは、富士松さんと過ごしたいのが本音である。
木嶋は、富士松さんと面と向かって話しが出来ない…苛立ちがあるのも事実なのだ。
その穴埋めに、かれんさんを利用したと思われたくない。
自分に素直にならないといけない。
最寄り駅に到着。
【Kiosk】で、スポニチを購入した。
木嶋が情報を入手するのに、最適な方法なのかも知れない。
スポーツ新聞も、隅々(すみずみ)まで読めば、どこかに、ヒントが隠されている。
そのヒントが、なかなか見つからない。
年配の人の意見は、
【どこかの居酒屋で…酒を飲めばいいだろう。】
木嶋から見たら、お洒落な店で、好きな女性と食事をしたくなるのだ。
X'masまで、あと1ヶ月。
時間の猶予も、あまりない。
【人気の店は、予約がいっぱいだろうな…どこに行けばいいのかな?】悩みは更に深くなる。
「カラオケボックスにしても、無理だな!」
「ここから先は、会社の女性社員に聞かないとダメだな。そう言えば、今日、イベントのミーティングがある。その時に、話してみよう。」木嶋は、そう思っていた。
電車に乗り、いつもの座席に座った。
毎日…同じ習慣がついているので、違う位置に座ると、違和感を感じてしまうものである。
電車が、横浜駅に着いた。
「さあ~乗り換えだ。」
寒さを気にしながら、両手を…ジャンパーのポケットに入れて歩いていた。
改札を通り抜け…乗り換えの電車に乗ったのである。
発車ベルが…
【プルー】と、駅構内で、鳴り響いていた。