第447話
木嶋は、どの球種のバッターボックスに、立とうか悩んでいた。
【ストレートと…変化球!】
《タイミング》を取りやすいのは、変化球である。
いくら変化球でも、少し《タイミング》が、ズレてしまうと、全球が、空振りの危険性を孕んでいる。
「ここ数年…バッティングセンターで打ったことがないから、バットに当たるのかな?」不安に駆られるのも当然である。
木嶋が、まだ小学生の頃…
バッティングセンターで、プロ野球のスカウトに出会って…ドラフト外で入団して選手もいるらしい。
しかし…大成出来ずに、退団してしまったのだ。
プロ野球のドラフト会議で指名されて、入団する人もいれば、力が落ちて退団する人もいる。
どこのプロスポーツは同じだが…結果が全てなのである。
【どの世界も厳しいな。】
過酷な現実を突きつけられた。
悩んだ末にバッターボックスに入ったのは、ストレートである。
木嶋の家には、木のバットが置いてある。
金属バットは、芯からズレても飛ぶ…。
木のバットは、芯に当たらないと飛ばないのである。
『カキーン、カキーン』と良い音を出して打っている人がいた。
《随分…若いな!》木嶋は、そう感じていていた。
見た目は、高校生ぐらいであった。
木嶋も負けじと、飛ばしたくなる。
普段…使い慣れていない筋肉を使うと筋肉痛になる。
逆転の発想をすると、明日休みなので…翌日、筋肉痛になっても我慢が出来るのである。
Gパンのポケットから財布を取り出した。
「200円か!これが普通かな?か木嶋は、そんな感覚になっていた。
投入口にお金を入れた。
「キュイン、キュイン」アームが回っている音が聞こえる。
しかし…まだ、ボールは来ない。
「キュイン」
ボールが飛んできた。
一瞬、目を離してしまった。
「こんなに速かったかな?」
木嶋が戸惑うのは当然である。
さらに…息つく暇もなく、次々(つぎつぎ)とボールが投げ込まれる。
バットが出ない。
ただ、呆然ボールを見送るだけである。
「マズイ。振らないと…」
バットを振るが、当たらない。
《タイミングの取り方が悪いのかな!》
【 負のスパイラル】に陥りそうな気配が漂っている。
結局…このバッターボックスで、前に打球が飛んだのは皆無であった。
木嶋の闘争心に火こ着いた。
「もう一回…チャレンジしよう。」
再び、Gパンのポケットから財布を取り出した。
コイン投入口にお金を入れた。
先ほどと同じ球種くなので、ボールが前に飛ぶはすである。
バッターボックスの前に立った。
『カキーン、カキーン』金属バットに当たる音。
またも前に飛ばない。
木嶋は、バッターボックスの後方に下がった。
すると…さっきまで打ち倦んでいたボールが、バットに当たり出した。
「気持ちがいいな!」
心地良い汗が出てきた。
周りを見渡すと、バッティングセンターにいるのは、木嶋…一人であった。