第41話
木嶋は、富高さんとクラブ『H』に飲みに出かけてから数日が経過していた。
いつもなら、はるかから次の日にお礼のメールが来るのだが、木嶋は、連絡がないのに不安を感じていた。
「何か…あったのだろうか…?」木嶋の胸に、動悸が始まっていた。
「ドキッ、ドキッ、ドキッ」心臓の鼓動が高まって行く。
「こんなことは、あまりないのに…どうしたのだろう?」
木嶋は、そう感じていた。
中学、高校と陸上の中、長距離走をやっていた木嶋は、スタートラインに立つと、緊張感から心臓が、
「ドキッ、ドキッ、ドキッ」することはあったのだった。
その緊張感とは違う…!
木嶋は、その日、何回か…はるかの携帯に電話をしたのだ…。
「プルッ、プルー、プルー」呼び出し音だけは鳴り響いていた。
10回ほど呼び出しては見たが、電話に出なかった。
木嶋の不安は、募るばかりである。
会社の休み時間に、再度、電話をしたが呼び出し音が鳴るだけで出なかったのだ!
電話は諦め、メールをして返信を待っていた。
仕事をしていても、はるかのことが、気になっていた。
はるかは、何処かに旅行や出かける時は、木嶋に話していた。
今回は、そんなことは話していなかったのだ。
午後の休み時間や、残業開始前の時間にメールや着信履歴を見ても、履歴がなかったのだ。
木嶋は、その日は、家に帰って自分の部屋にいても、不安感が増して行く。布団の中で寝ていても、夜中に起きてしまったのだ。
翌日、会社に出勤したとき、木嶋の様子が、いつもと違う雰囲気が漂っていたので、上司の溝越さんが声を掛けてきた。
「木嶋、いつもの元気がないがどうしたんだ。」
木嶋は、
「最近、飲み屋の若い女友達と良く遊んでいるのですが、先日、そのお店に、富高さんと飲みに行ったのですが、いつもなら営業でもメールか電話があるのですが、それがないから不安なんですよ。」溝越さんに話していた。
溝越さんは、
「何処かに、遊びに行っているんじゃないのか?便りがないのが元気な証拠だ。心配する気持ちは分かるが、仕事に身が入らないぞ。ケガだけはするなよ!何かあったら言って…自分で良かったら相談に乗るから…。」木嶋に伝えたのだ。
木嶋は、
「言う通りですね。便りがないのが元気な証拠ですね。何かあったら相談をさせて頂きます。その時は、宜しくお願いします。」溝越さんに頭を下げた。
溝越さんは、
「分かった。」理解を示し、木嶋の元から離れて行ったのだ。
木嶋は、
「溝越さんに迷惑をかけてしまったかな?携帯を置いて遊びに行くのかな…?」複雑な気持ちになっていた。
夕方になり、木嶋の携帯が、
「ピローン、ピローン、ピローン」はるか専用の着信音が鳴り響いている。
木嶋は電話に出た。
「私です。はるかです。何回も電話やメールを頂いて申し訳ございません。ご心配をおかけしました。」はるかの元気な声だった。
木嶋は、
「はるかさん、どうしたのですか?いつもならメールとか電話がくるのに来ないから心配しましたよ。」はるかに尋ねたのだ。
はるかは、
「クラブ『H』から家に帰る時に、携帯をタクシーの座席に置いてきてしまったのです。そのために連絡が出来なかったのです。」木嶋に話したのだ。
木嶋は、
「タクシーの中に忘れてきて携帯の中にある個人情報は大丈夫だったのですか?」はるかに、問い掛けた。
はるかは、
「着信は鳴りますが、他人が、操作出来ないように、キーロックをしてあり、暗証番号を入れないと作動しないのです。」
木嶋は、
「それならいいですよ。携帯には、個人情報が入っているので次から気をつけてね。それにしても良くタクシー会社や携帯が有ったね。」木嶋は、はるかに聞いていた。
はるかは、
「乗車したタクシー会社とナンバーを記憶していたので、直ぐに電話をしたのです。もちろん、携帯会社に連絡をしようにも出来なかったのです。」木嶋に説明したのだった。
木嶋は、
「あまり、心配を掛けさせないでね。不眠症になりそうだったよ。」はるかに伝えたのだ。
はるかは、
「申し訳ない。次から携帯の管理は気をつけますね。木嶋さん、今週か来週中に空いている日にちはありますか?」
木嶋は、
「今週か来週中でしたら、どちらも週末の金曜日ならいいですよ。金曜日なら残業はないですから…。」はるかに話したのだ。
はるかは、
「分かりました。今週か来週中に、空いている時間を調べて連絡をします。」
木嶋は、
「了解しました。」はるかとの会話を終え、電話を切ったのだった。
何はともあれ、無事だと分かったことに安堵の表情をするのであった。