第348話
木嶋の会社は、不況の真っ只中である。
溝越さんは、7月に、夏ボーナスを渡すとき…
「ボーナスじゃないぞ。これは給料だ。」木嶋に告げたのだ。
木嶋は、その言葉に頷いた。
ふと…我に返った。
「高価な物を、ねだれた対応が出来ないな!」一人で呟くことしか出来ない。
例え…はるかに、本当のことを話しても…
「木嶋さん、都合が悪いと逃げるんだから…」言われてしまう。
言葉を返しても…そう思われるのが辛いのである。
木嶋は、逃げているのではない。
真実を話している。
携帯が…
「ピローン、ピローン、ピローン」と鳴っていた。
すかさず…Gパンのポケットから取り出した。
木嶋が電話に出た。
「もしもし…木嶋です。」
「はるかです。木嶋さん、まだ…待ち合わせ場所であります…コーヒーショップ『Y』にいますか?」はるかは、木嶋に問いかけた。
木嶋は、
「もちろん…まだいますよ。待ちくたびれて…麒麟のように…首が長く伸びてしまいました。」はるかに伝えた。
はるかは、
「木嶋さん、お待たせして申し訳です。麒麟のように…首が長くなっているのでしたら《ピコピコハンマー》を東急ハンズで購入してから行きますよ!」木嶋に答えていた。
木嶋は、
「東急ハンズへ寄らずに、直ぐに来てね!」はるかに話し、電話を切ったのだ。
いくら何でも…はるかが…《ピコピコハンマー》を買ってくるとは思っていない。
もし…買ってきたら、冗談で叩かれてみようと…
新聞を読みながら…
5分、10分と時間だけが経過していく。
腕時計を見るたびに…
「ハー」とため息が出てしまうのだ。
更に、待つこと20分が経過。
「カッ、カッ、カッ」階段を上がってくる靴の音。
木嶋は、振り返った。
はるかである。
「木嶋さん、お待たせしました。」木嶋のいるテーブルに来たのだ。
「良かった!一安心だよ。」木嶋は、《ホッ》と…胸を撫で下ろし、席を立ったのだ。
反対側の席に座り…
はるかは、木嶋が、先ほどまで座っていた座った。
「随分遅かったから…《ピコピコハンマー》を買って来たんじゃないの?」はるかに尋ねていた。
はるかは、
「買ってきませんよ。冗談で話したのです。」笑いながら…木嶋に答えたのだ。
男性店員さんが、
「いらっしゃいませ…こちらがメニューになります。」はるかに渡した。
はるかは、
「ありがとうございます。」男性店員に話したのだ。
男性店員さんは、
「ご注文が決まりましたら…声を掛けて下さい。」はるかに伝え、テーブルを離れて行った。
はるかは、
「今の店員さん…格好良かったと思いませんか?」木嶋に問いかけていた。
木嶋は、
「そうかな?自分は、普通に思えるよ!」はるかに答えていた。
「木嶋さんには、普通に見えるんだ…」はるかは、不満な表情を見せていた。
はるかは、クラブ『H』に…2年近く、バイトをしていた。
色んな男性と話す機会があった。
木嶋は、その中の1人に過ぎない。
不特定多数の人と、付き合っていても不思議ではない。
夜の世界の人たちは、一度、入ってしまうと…
【中々(なかなか)抜けられない。】と答えている。
それは、麻美、玲、ちさとさんにも同じことが言えるのであった。