第302話
木嶋は、はるかからのメールを開いた。
「木嶋さん、お久しぶりです。今、どちらにいますか?」
この内容のメールは、はるかが横浜にいることを意味していた。
たまには、《スルー》して帰りたい気分でもあるが…
さすがに、そんな…冷たい仕打ちをすることは出来そうにない。
「今は、まだ会社です!これから残業をしてから帰宅する予定です!」はるかに、メールを送信した。
残業の始まりを告げる予鈴のチャイムが…
「キーン、コーン、カーン、コーン」と鳴っていた。
慌てて…作業エリアに戻り、携帯を、いつもの場所に入れた。
仕事をしているときは、携帯を持ち歩いていない。
現場作業をしていると、薬品などで故障をしてしまう。
自分の職場内で携帯を所持している人は、数えるくらいである。
年配の人も、持ち歩いているが、使い方が解らずに、四苦八苦している。
残業を終えた…木嶋は、携帯を覗いた。
メールの着信を知らせる…サインがあった。
「何か…読むのが怖い!」木嶋が、珍しく弱気になっている。
木嶋は、ロッカーに向かいながら、返信メールの内容を思案していた。
その状況の中で、
「はるかに、文体のリーダーの話しをするべきなのかな?」疑問心を抱きながら…
「来月から、組合の文体リーダーをやることになりました。」はるかに送信した。
左腕にしている腕時計で時間を確認している。
「まだ、午後7時を回ったばかりか…後輩の職場に行こう!」木嶋は、勇んで歩き出した。
それだけ…気合いが入っている証拠である。
仕事場の階段を一段ずつ…上がって行く。
「田港、元気でやっているか?」木嶋が、田港に声を掛けた。
「先輩…珍しいね!自分の職場に来るなんて…何かあったの?」田港さんが、木嶋に問いかけた。
木嶋は、
「一度くらい…田港の現場に来ないと…!実は、話しがあるんだ。」田港さんに答えたのだ。
田港さんは、
「やっぱり…そんな気がしたんだ!話しは、何かな?」木嶋に尋ねていた。
木嶋は、
「今度、自分は、組合の文体リーダーを引き受けることになったが…こちらの工場では、田港しか知らないんだ。引き受けてくれないか?」田港に伝えたのだ。
田港さんは、木嶋と、一年間…夜間高校で生徒会活動を一緒にやってきた。
また、自分の会社に入れたのも、木嶋であった。
田港さんは、
「先輩、マジで言っているの?」木嶋に聞いていた。
木嶋は、
「マジで話している…」田港に伝えた。
田港さんは、
「考える時間を下さい!」木嶋に話し…
木嶋は、
「分かった。急いでいるから…明日、回答を下さい。」田港に伝えた。
田港さんは、
「分かりました。明日、回答します。」木嶋に話したのだ。
木嶋は、田港さんがいた現場をあとにした。
ロッカーに着き、着替えを終え、リュックを右肩に担ぎながら、送迎バスに向かって行く。
はるかから…メールが返ってこない。
「内容に関心がないのかな?まっ…いいか?」木嶋は、落胆の表情になっていた。
翌日…。
大貫さんが、木嶋の元に歩いてきた。
「木嶋、富士松さんから、《文体は無理》と回答があった。残念だが仕方ない。若い女性社員に、こちらからアプローチをしてみるよ。」木嶋に伝えたのだ。
木嶋は、
「昨日も、話しましたが…富士松さんがダメな以上は、大貫さんに一任致します。」大貫さんに答えたのであった。