第286話
小室さんが歌い終わった…。
達成感なのか…?
両腕を天に突き上げた。
クラブ『U』の各テーブルのソファーに座っていた人たちも…
《良かったよ!》声を掛けられ…照れ臭そうに、ソファーに座った。
小室さんの世代の多くは、石原裕次郎に憧れ…共感していた。
【夜霧よ…今夜も有難う】のフレーズが、多くの人たちに感動を与えたのかと思うと…
後に、歌う準備をしている…
木嶋と富高さんに、目に見えない《プレッシャー》になってしまう。
それでも、めげずに…
《チャレンジャー精神》を持つことが、この場を、和ますことが出来るなら、それが、最善策である。
木嶋は、
「では、みゆきさん。小室さんが、歌って…周りの人たちが感動したばかりで、自分たち…若手が、間髪入れないで、曲のオーダーをしてもいいのかな?」みゆきさんに問いかけていた。
みゆきさんは、
「みなさんに感動を与えた…石原裕次郎さんの曲の後に歌う…木嶋さんも、相当な《プレッシャー》じゃあないですか?大丈夫ですか?誰の曲でしょうか?」木嶋を心配していた。
言う曲名を興味津々(きょうみしんしん)に聴き入っていた。
木嶋は、
「曲名は、チェッカーズで【涙のリクエスト】でお願いします。」みゆきさんに話したのだ。
みゆきさんは、
「チェッカーズですか?…【涙のリクエスト】ですね!」木嶋が伝えた…曲名を興味津々(きょうみしんしん)に聴き入っていた。
カラオケのリモコンを右手に取り、曲名から入力した。
先に入っている曲がなく…すぐに…
【涙のリクエスト】のイントロが流れてきた。
「いきなり…ですか?準備が出来ていないよ〜!」木嶋は、ボヤきながら…慌てて…小室さんの前に置いてあったマイクを右手に持ち、歌い始めた。
麻美は、
「懐かしいな…」ポツリと…言葉を呟いていた。
みゆきさんが、
「麻美さん、懐かしいなんて…どうしたのですか?」麻美に尋ねていた。
麻美は、
「私の青春時代そのものだね…この【涙のリクエスト】は…!」みゆきさんに話したのだ。
みゆきさんは、
「木嶋さんと一緒に、青春時代の思い出があるのですか?」麻美に聞いてみた。
麻美は、
「みゆきさん、木嶋君と一緒に青春時代を過ごしていたら…お互いが違う人生を生きていたかも知れないと考えてしまう!同じ年代だからこそ…共感出来ることがあると思っているの!」みゆきさんに答えたのだ。
みゆきさんは、
「麻美さん。本当は…木嶋さんのことが好きなのではないですか?」麻美に伝えたのだ。
麻美は、
「みゆきさん、木嶋君には、【素敵な恋人…はるかさん】がいるからね!」みゆきさんに話したのだ。
木嶋は、間奏の間に、携帯の着信履歴を見た。
一瞬…血の気が引いた。
はるかからの着信が、5回もあったのだ。
「はるかは、今日、富高さん、小室さんと一緒に、麻美さんのクラブ『U』に来ることは知っているのに何だろう?」困惑していた。
「あとで、電話をすればいい!」半ば開き直っていた。
サビの部分を歌い終え…
右腕を上に上げ、《グルグル》振り回している。
これが…
【涙のリクエスト】の《パフォーマンス》である。
最後まで歌い切り…一汗掻いた。
目の前のグラスには、焼酎の水割りが作ってあった。