第261話
木嶋は、送迎バスに乗り込んだ。
「バタン」
バスのドアが閉まった。
どうやら…バスの発車間際みたいである。
一歩間違えば、乗り遅れる寸前であった。
乗り遅れたら、
《30分のロスタイム》が発生してしまう。
このバスに乗ることが出来れば、現場に着いてから、気持ちに余裕が出来るのである。
会社への道のりは、普段と変わらずに空いている。
早ければ…5分で着くこともあれば、雨が降れば…10分掛かることもある。
【不思議である。】
木嶋が、思っていた通り、バスが、所要時間も掛からずに、会社に着き、所定の停留所に止まった。
少しばかり…急ぎ足で、ロッカールームに向かって行く。
《何故?急いだのか…?》
小室さんが、この時間に、ロッカールームで着替えている可能性が高いのである。
ドアを開けた。
すると…小室さんが着替えていた。
木嶋の予感は、的中していた。
「小室さん、おはようございます!今日、どちらに飲みに連れて行って頂けるのでしょうか?」木嶋は、小室さんに即答を求めた。
小室さんは、
「木嶋、今、この場では、答えることは出来ないよ!これから、食堂に行って…朝食を食べるから、そうだな〜8時頃…自分のいる現場に来てくれるか?どこで飲むか?そのときに話しをした方がいいだろう?」木嶋に問いかけたのだ。
木嶋は、
「了解しました。後ほど…大森さんと一緒に伺います。」小室さんに伝えたのだ。
小室さんは、右手を挙げ、ロッカールームを出て、食堂の階段を上って行く…
木嶋も、私服から作業服に着替え、スポニチ、おにぎりを右手に持ち、現場に向かって歩いて行く。
毎朝、木嶋は、点火作業を行っていた。
設備に、トラブルが付き物で、祈るような思いである。
「今日も、何事もなく着いたかな!穏やかに、一日が終わればいい!」木嶋の今の心境である。
木嶋が、プロ野球を観に行こうとしたり、はるかとデートしたり、陸上仲間と飲みに行ったりするときに限って…
【トラブル】が付いて回るのだ。
「損な星の下に生まれたものだ!」たまに、ボヤきたくなるのである。
木嶋は、財布を取り出し、現場の近くにある…自動販売機で、缶コーヒーを購入した。
「サントリーか…まっ…いいかな?」
木嶋は、コーヒーに、こだわりがあるのだ。
毎日、飲み慣れているメーカーならいいが、全く…知らないメーカーのコーヒーは飲まないようにしている。
缶コーヒーなら、【ポッカ】、【ダイドー】、【UCC】,【キリン】、【アサヒ】、【サントリー】、【ネッスル】である。
それ以外のメーカーは、値段が安くても、飲まないように努力していた。 缶コーヒーを右手に持ち、現場の休憩所に歩いて行く。
スポニチを読みながら…先ほど購入した、
缶コーヒーのプルタブを
「プシュ」と開け、母親が作ってくれた…おにぎりを食べていた。
会社で、朝、おにぎりを食べないと、昼休みまでのパワーが出ない。
現場の中には、パン党の三谷さんもいる。
《人…それぞれである。》
おにぎりを食べ終え、腕時計で時間を見た。
「今は、7時55分。大森さんを迎えに行こう!」
木嶋は、休憩所から立ち上がり、大森さんがいる場所に向かって行く…。
「あっ…大森さん。おはようございます。これから、今日のことで…小室さんのいる現場に向かいますが、一緒に行きませんか?」木嶋は、大森さんに聞いていた。
大森さんは、
「うん、いいよ。自分も…今日、飲みに行く場所について聞いてみたかったんだ!」言葉を返し、
木嶋と一緒に、小室さんの職場に歩き出したのであった。