第253話
夕刊紙を、何度も目を通していると読むところがなくなってくる。
木嶋が、興味があるところは、《政治、経済》である。
取り立てて、政治家や経済評論家になろうと言う気持ちはない。
年齢的に、他の会社の人たちと会うときに、少しでも知識を入れていないと、人付き合いが出来にくくなるのである。
一年に一度、両親の実家に帰ることがあるが、話題を持ち出すのに、苦労するのである。
今やインターネットが主流であるが、週刊誌や野球雑誌を購入、読むことで、活字に触れることも出来るのである。
「ガタン、ゴトン」揺られている。
タイミングが悪いときは、電車のドアが閉まってから…携帯の着信音が良く鳴っていた。
それも、はるかが、いたからである。
携帯も鳴らないと…
エゥ゛ンゲリヲンのストーリーにあるように…
《鳴らない電話》である。
木嶋は、淋しさを紛らわすために、携帯の中に登録されているメモリーダイヤルを眺めながら…
「気軽に遊べる女性は…今の自分にいない。モテる男と、モテない男の差かな?」
「フー」と、ため息まじりに呟いた。
「結局、はるかと会うことを優先し、遊んでいた時間が多かったから、失った友人たちもいたのかも知れない!」
そう考えると、自分が、如何に愚かな人間であったのだろう。
まだ…
【取り戻せるもの】
【取り戻せないもの】があるはずである。
「そう言えば、夜間高校の仲間と連絡を取っていないな!」
【思い立ったら吉日】と言う言葉があるが、近況報告を聞きながら、話しをしてみるのもいい機会だと思ったのである。
「地元に着いたら、電話しよう!」
携帯を一度、発信して切ったのだ。
《いわゆるワン切り》である。
ふと、京浜東北線の窓を覗くと、木嶋の降りる駅の一つ前である。
木嶋が、夜間高校を卒業して、高校の卒業の思い出アルバムを制作していたとき、
当時、付き合っていた彼女が降りていた駅である。
楽しい思い出と、苦い思い出が、交錯して、たくさん出てきてしまう。
今、やり直すことが出来るなら、一言でいいから謝りたい心境である。
彼女は、木嶋の一つ年下であった。
手先が器用で、編み物や料理が得意。
そんな彼女に惚れて交際をしたが、ボタンの掛け違いから、些細なことで、喧嘩してしまった。
その喧嘩が元で別れてしまった。
彼女は、この地球の中で、結婚して…子供や旦那さんと一緒に暮らしているはずである。
もうすぐ、木嶋の降りる駅に近づいていた。
「ガタン、ゴトン」
鉄橋を渡る音が聞こえる。
見慣れた景色。
最寄り駅に着いた。
「プシュー」ドアが開いた。
木嶋は、携帯を持ち、先ほどの発信した番号に、リダイヤルした。
「プッ、プッ、プッ、プッ、プルー」呼び出し音が鳴り響いていた。
電話に出た。
「もしもし、林崎だけど…。」
久しぶりに聞く…林崎さんの声であった。
「もしもし、木嶋です。林崎さん、お久しぶり。」林崎さんに話したのだ。
林崎さんは、
「おう…木嶋か?随分、連絡がなかったが元気か?」木嶋に聞いていた。
木嶋は、
「元気ですよ。林崎さん、仕事の方は順調かな?」林崎さんに問いかけていた。
林崎さんは、
「仕事は、順調だ。それより…木嶋は、彼女は出来たのか?」木嶋に聞いていた。
木嶋は、
「彼女と今日、別れたんだ。」林崎さんに話したのであった。