第243話
「何かあれば…はるかから電話をしてくるはず…それまで、待ちの姿勢を貫くようにしよう!本当に別れるなら仕方ない。」木嶋は、そう覚悟を決めたのであった。
相鉄線の乗り換え駅に着いた。
「会社では、《ポーカーフェース》していないと、みんなに勘ぐられて余計な心配をかけてしまう。顔に出やすいから気をつけないといけないかな?」心の中で、注意を促していた。
乗り換えてから、会社の最寄り駅まで、およそ…20分ぐらいである。
木嶋が、電車の中で寝るタイミングを計るには、【ジャスト】の時間であった。
「会社の最寄り駅は終点。電車は、各駅停車だし、寝過ごすこともない。いざとなれば…車掌さんが起こしてくれると思う…。」木嶋は、そう考えながら…
リュックを両手で支え、座席の壁に、もたれ掛かるように…目をつぶっていた。
電車の中で、鼾をかいている人もいる。
木嶋も、目をつぶっているときも、鼾をかいている可能性があるのだ。
会社の最寄り駅に、電車が着いた。
「プシュー」と、エアーが止まる音が聞こえていた。
毎日のことながら、エスカレーターを、極力使わないで、階段を一段置きに上っていく。
「木嶋、何で…《エスカレーター》を使わないんだ?」良く会社の先輩たちに聞かれることがある。
その度に、
【健康維持】と先輩たちに話していたが、
本来の目的は、
【体力の低減防止!】が、希求の課題であった。
もちろん、階段を一段置きに上がるよりは、会社の周囲を走った方がマシと言う意見が多数を占めている。
木嶋も、
「走るのを辞めた訳でもない。」
目標を見失ってしまうと…見つけるのが難しい。
走らなくなってから…もう、どれくらい経っているのか判らない。
少なく見積もっても、3年は経過している。
陸上仲間との交流も、2年以上飲み会や各種大会の応援に行かなくなってしまった。
会社の先輩たちの中で、【体力維持】を目的に走っている人もいる。
木嶋は、会社の先輩たちの話しに入っていくのがやっとと言う状況なのであった。
大会に出場すれば、タイムを上げることが最大の目標なのである。
毎年、同じ大会に出場していたので、タイムが落ちたことは一度もなかった。
いつかは、タイムが落ちることもある。
引き際も大切なときもあるのだ。
階段を上がり、改札を出て会社の送迎バスに乗車した。
まだ、誰も、木嶋の表情に変化を見た人はいなかった。
ドアが閉まり、送迎バスが会社に向かった。
空いている座席を見渡したがなく、手摺りに掴まっている。
通勤で、ずっと立っているのではないので、会社に着くまでは我慢が出来るのだ。
会社に着き、送迎バスから降りた木嶋は、ロッカールームに向かう途中で携帯を覗いたが、
「はるかからの電話も、メールもないのか?」落胆しながらも、
「当たり前か!」納得していた。
ロッカールームで着替えを終えて職場に向かった。
職場の休憩所でスポニチを読んでいた。
溝越さんが、
「木嶋、昨日は、胡蝶蘭…彼女に渡せたのか?」木嶋に聞いていた。
木嶋は、
「溝越さん、おはようございます。彼女に、胡蝶蘭を渡すことが出来ました。お手数おかけしました。」溝越さんに頭を下げた。
溝越さんは、
「無事に渡せたならいいんだ。富高と何時まで…居たんだ?」木嶋に尋ねていた。
木嶋は、
「夜10時30分ぐらいには帰りましたよ。富高さんは、日付が変わったかも知れません!」溝越さんに答えたのであった。