第242話
木嶋は、
「さよなら」を告げても、何が…何だか訳が分からずにいた。
朝の食事をしながら、はるかと過ごした日々を回想していた。
「後腐れなく…綺麗に別れよう…。」そう考えていても、
「自分には、はるかが、いないとダメな人間になってしまう。」
木嶋の会社の先輩たちが危惧していたように…
はるか依存症に陥っていた。
会社に行く身支度を、簡単に済ませ…
家から最寄り駅までの間に、
「直接…はるか本人に…確認の電話をしよう!」木嶋は、思い立ったのだ。
電撃攻撃するには、
「朝、電話をしてみようかな?」
携帯の着信履歴から、はるかの番号をスクロールした。
一度、躊躇しながらも、
「プルッ、プルー、プルー」呼び出し音が鳴っている。
木嶋は、3回コールしたが、電話を切ったのだ。
「こんな朝早くから、電話しても意味がない!」心の中で、《ジギル》と《ハイド》が出て来て、バトルを始めてしまった。
《ジギル》は、
「相手のことを考えるな!今、電話をするのだ。」ハイドに攻撃していた。
《ハイド》も、
「はるかの気持ちを尊重して…温かく見守るべきだ。」ジギルに負けじと反撃していた。
勝負が付かない状況の中で、最寄り駅に着いてしまった。
木嶋は、
「ジギルの言っていることもそうだが、今回は、ハイドの言っていることを尊重するぞ!」心の中で絶叫していた。
さすがの《ジギル》も、
「ハイドの意見を聞くなら仕方ない。」そう言って、木嶋の心の中から消えて行ったのであった。
「何かあれば、はるかから連絡があるはず…」木嶋は、開き直ったのだ。
今まで、張り詰めていた緊張感から解放された。
いつものように…
『KIOSK』でスポニチを購入して、改札を通り京浜東北線に乗車した。
「ガタン、ゴトン」
電車の揺れ具合が丁度良かった。
普段、何気なく通っているルートも、
ふと周囲を見渡すと、意外と新しい発見があるのだ。
一人でいるときは、スポーツ新聞が愛読するのが日課になっている。
電車の中で、小説を読んでいる人。
ウォークマンを聞いたり、PSP、DSのゲームをしている人もいる。
定番と言えるのは、電車の中で寝ている人もいる。
電車が、横浜駅に着いた。
「横浜駅で降りることもなくなるかな?」虚しさが込み上げてくる。
「昼休みに、富高さんの職場に行こう!」木嶋はそう考えた。
乗り換えるために、JRの改札を出て、相鉄線の改札に向かった。
階段を、一段ずつ…上がって行く。
足取りが、軽快なステップになっていた。
木嶋が、まだ若い頃…。
彼女にフラれたときは、ショックが大きく、仕事が、手に付かないこともあった。
今回は、意外と言えば意外で、サバサバとしていた。
麻美が、木嶋に良く言う言葉は、
「はるかさんが、全てではなく…他の女性を見る目を養わないと…社会勉強をしたと思わないとね!」それを思い出していた。
麻美は、色んなタイプの女性を見ていただけに、アドバイスが的確であった。
木嶋の理想のタイプは、芸能人ではいる。
あくまでも、理想と現実のギャップがあるのは、理解をしている。
どこかで、妥協しないといけないのであった。