第232話
木嶋は、
「お待たせしました。」富高さんに声を掛けた。
「木嶋君、早く行こうよ!」富高さんは、木嶋に伝えた。
木嶋は、
「そうだね。早く電車に乗りましょう!」
階段を、一段ずつ降りて行く。
「間もなく…あざみ野行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意下さい。」ホームのアナウンスが聞こえた。
「プルー」発車ベルが鳴り響く。
「ピコン、ピコン」と、音を立てながら、ドアと転落防止柵が閉まった。
転落防止柵を、設置している路線は、数少ない。
これからの時期は、花見や歓送迎会シーズンなので、酔っ払って…ホームに転倒する人があとを絶たない。
それが契機となり、設置されていたのだ。
木嶋の通う…会社の最寄り駅は、最初から転落防止柵があったのだ。
良く…【駆け込み乗車】する人も、これでは…一たまりもない。
「ブーン」電気の流れる音。
電車が少しずつ、走り出して行く。
「ガタン、ゴトン」吊り革が…揺られている。
先ほど、売店で買った…スーパードライビールを、富高さんから渡された。
木嶋は、
「ありがとうございます。」富高さんにお礼を述べたのだ。
富高さんは、
「そんなに…畏まらなくてもいいよ!」木嶋に伝えたのだ。
人は、礼儀を重んじるものである。
今の時代…その礼儀が出来ない人もたくさんいる。 挨拶も、出来ない人もいるのだ。
毎日、色んな人たちとすれ違っている。
家の中で、《引きこもる》人。
行動的な人。
色んなタイプを上げたらキリがない。
《プシュ》
プルタブを開けた。
【つまみ】の柿の種を、左手に少し分けてもらう。
飲む人の【つまみ】は、木嶋には、解り兼ねる。
木嶋は、
「富高さん、普段、小室さんと一緒に帰るとき、酒の【つまみ】は、どんなのを買っているの?」富高さんに、問いかけた。
富高さんは、
「どんなのを買っているのかと…言われても…答えようがないよ。その時々(ときどき)で違うからね。酒は、すきっ腹で飲むと、酔いが廻るから…腹に溜まればいいよ。」木嶋に話していた。
木嶋は、富高さんの言葉を理解していた。
富高さんは、先ほど…購入したスーパードライビールを飲み干した。
「いつも…小室さんと一緒に《ノミニケーション》しているから、飲むペースが早いね!」木嶋は、富高さんに話したのだ。
富高さんは、
「ビールは、一本で物足りないときは、『KIOSK』で、もう一本買うんだ。家に着くまで、距離が長いからね!」木嶋に答えていた。
千葉の船橋から、毎日、通勤で2時間掛かっている。
何もしないと、退屈してしまう。
携帯を所持していれば、《Eメール》で、色んな人たちと話しが出来るのに…ふと、木嶋は、そう感じてしまうことがある。
新聞も、長時間、読んでいると、
【目が…ショボショボ】してしまう。
木嶋は、両手で、胡蝶蘭の鉢植えを持ち、
電車が、乗り換え駅に着いた。
「ピンポン」電子音が鳴り、ドアが開いた。
富高さんの右手には、木嶋の飲みかけのビール缶を持っていた。
エスカレーターに乗り、改札口に向かう。
木嶋は、キップを定期入れから取り出し、改札から出た。
富高さんも、木嶋のあとから出てきた。
JRの改札に行くには、もう一度、エスカレーターに乗らなければならない。
手前のエスカレーターより、奥のエスカレーターが空いていた。
富高さんは、
「木嶋君、奥のエスカレーターに行こうよ!」声を掛け…続けて、
「胡蝶蘭の鉢植え、重たかったら…替わるよ!」木嶋に伝えた。
木嶋は、
「大丈夫だよ!電車に乗れば…一安心するよ!それまで、頑張るよ!」富高さんに話したのであった。