第231話
胡蝶蘭の鉢植えを持ちながら、送迎バスのステップを上がった木嶋は、富高さんが来るのを待っていた。
バスに乗っていた人たちの視線が、一斉に木嶋の方に振り向いた。
木嶋は、一躍時の人になった。
「花を持っていれば、みんなが注目するのは、当たり前。《どこに…持って帰るのか?》気になっている人がいても、不思議ではない。」心の中で葛藤をしていた。
バスの車内には、富士松さんが乗車していた。
木嶋のターニングポイントになるときは、
富士松さんが、バスに乗っている。
【よりによって…はるかのラストインの日に…これこそ…間が悪いのだ。】
木嶋は、頭を抱えてしまっていた。
富高さんも、バスに乗るのは、《ギリギリ》である。
発車まで、あと…2分。
富高さんが、バスに乗り込んだ。
木嶋は、奥の座席に座っていた。
富高さんから見れば、解りに場所であった。
前方に空いていた座席があり、木嶋のいる後方を確認せずに座ったのだ。
バスが定刻通りに発車した。
会社から最寄り駅まで…およそ10分ぐらいである。
いつもより、道路が空いているみたいである。
木嶋の逸る気持ちを察していたみたいに、最寄り駅に…7分ぐらいで到着した。
前方に座っていた富高さんが、先に降りて、木嶋を探し待っていた。
木嶋は、最後から2人目であった。
バスの運転手さんに、
「ありがとうございました。」
ステップを降りる直前に声を掛けてたのだ。
「富高さん、お待たせしました。」木嶋は、富高さんに声を掛けた。
富高さんは、
「木嶋君が、バスに乗っていないんじゃないかと不安に駆られていたよ。」木嶋に、ジョークを言っていた。
その言葉を聞いたとき… 《ズルッ…》と、
前のめりに、コケかけていた。
真面目な表情をして、ときには、富高さんも、ジョークを飛ばしていた。
木嶋は、
「富高さん、今日は、時間も遅いので、横浜市営地下鉄経由で乗り換えて横浜に向かいましょう。」富高さんに提案していた。
富高さんは、
「そうだね。平日だし…明日、会社もある。横浜に早く着けば…はるかさんが、木嶋君のとなりに来て、金銭面の負担も軽減される可能性が高いよね!」木嶋に答えていた。
最寄り駅の階段を、一段ずつ下がって行く。
歩きながら…木嶋は、右手を顎におき、
「確かに…そうなれば一番、最高のステータスだよ!クラブ『H』に、はるかさんのファンが何人かいるはず…。そのファンの人たちも、今夜でお別れ…。自分も、今夜が最後なんて考えていないから…」富高さんに伝えたのだ。
富高さんも、首を縦に振り、
コンコース内にある…売店へ向かう。
そうならないように、願掛けではないが、そんな心境に違いないのだ。
木嶋は、
「ビールを飲みながら、クラブ『H』に向かいたい気分だよ。」富高さんに話していた。
富高さんは、
「木嶋君も、ビールを飲む?」木嶋に聞き、
「じゃあ…言葉に甘えて…飲みましょう。」富高さんに答えたのだ。
「アサヒのスーパードライでいいかな?」富高さんは、木嶋に尋ねた。
木嶋は、
「スーパードライでいいよ。」富高さんに伝えた。
木嶋は、家で、ビールを飲む機会がない。
富高さんは、小室さんと毎日飲んでいる。
雰囲気で、かなりの量を富高さんも、飲むときがある。
はるかのクラブ『H』は、周りが若い女性たちで、話しの話題を探そうにも、難しい一面がある。
富高さんは、一足早く、改札を通り、木嶋を待っていた。
木嶋は、キップを購入するため、駅の自動販売機の前に立ち、金額を確認した。
「ここから、乗り換え駅まで、260円か?」財布からお金を出し、キップを購入して、改札内で待つ富高さんと合流して、ホームの階段を、一段ずつ降りて行ったのであった。