第221話
木嶋は、東海道線で帰ることにしたのだ。
性格上…早く帰りたいと思うのが当たり前である。
はるかからの待ち合わせの電話はない。
待つ人がいないのに、
横浜駅で、《フラフラ》歩いていても、ただ、虚しさが残ってしまう。
東海道線を待つ時間を考えた場合、京浜東北線で帰宅した方がいい場合もある。
稀に、京浜急行で帰るときもあるのだ。
木嶋の最寄り駅に、最短時間で、到着するのは、京浜急行の『快速特急』がベストの選択である。
しかし、会社から支給されている交通費は、
横浜駅からの乗り換える相鉄線ルートであった。
東海道線のホームに上がる階段を、一段ずつ上って行く。
どうやら…電車が行ってしまってから、5分ぐらい経過していた。
人も、そんなに多くはない。
東海道線の終点は、東京駅だが、品川駅止まりの電車は、人が乗らないことが多い。
品川駅止まりを乗車するよりも、
横須賀線で、東京駅に向かうルートを選択する人。
品川駅まで行くのに、大きく迂回していく。
もちろん、富高さんも、横須賀線で帰宅している。
東京駅で、乗り換えてもいいが、東海道線のホームを下りて、乗り換えるまでに、時間が掛かってしまう。
会社の最寄り駅から、横浜市営地下鉄で、戸塚駅まで行き、横須賀線に乗車して、
「KIOSK」で、ビールとつまみを買い…小室さんと人生談議を交わして帰るのが日課になっている。
木嶋も、その中へ入ることもあるが、小室さんは、酔いが廻ると、人の頭を叩く癖がある。
「間もなく…『快速アクティー…東京行きが参ります。』危ないですから…黄色い線の内側に下がってお待ち下さい!」ホームのアナウンスが聞こえていた。
木嶋は、黄色い線の内側に下がり、電車が、到着するのを待っていた。
「パーン」クラクションを鳴らしながら、電車が到着した。
「プシュー」エアーを響かせ、ドアが開いた。
「いつも、自分が通勤している方面は、空いていて座れるから、身体も楽だ!」木嶋は、そう感じながらも電車に乗った。
急いでいるときは、最寄り駅の階段付近に乗るが、考えごとをしたり、新聞を読んだりするときは、後ろの車両に座る。
乗車したのは、3号車であった。
空いていたボックス席に座り、夕刊紙を広げ、先ほど…自動販売機で購入した…BOSSのカフェオレを、窓の内枠に置いた。
難しい顔をしながら、夕刊紙を読みはじめていた。
「プシュー」ドアが閉まり、
「ガタン、ゴトン」走り出した。
木嶋の携帯が、
「プルッ、プルー、プルー」と鳴り響く。
「誰かな?」
疑問心を抱きながら、電話に出た。
「もしもし、木嶋です。」
「木嶋君、元気ですか?郷田です。」
懐かしい声であった。
郷田さんと会話をするのは、一年振りであった。
「郷田さん、お久しぶりです。」木嶋は、郷田さんに感謝の言葉を伝えた。
「木嶋君、久しぶり。どう?最近、変わったことがあったかな?」郷田さんが、木嶋に問いかけた。
木嶋は、
「最近、変わったことはないですよ。郷田さんに、連絡が出来ずに申し訳ないです。」郷田さんに頭を下げた。
「気にしなくてもいいよ。まだ、あの店に行っているのかな?」郷田さんは、木嶋に聞いていた。
「まだ、行っていますよ。」木嶋は、郷田さんに答えたのだ。
「じゃあ…一人ぐらいは、いい女性と知り合えたかな?」
木嶋は、
「なかなか、巡り合えないですね!華やかな世界ですから、そこで、探すのが難しいかも知れません。」郷田さんに話したのだ。
「そうかもな!諦めずに…頑張れば…いいことがあるぞ。話しは変わるが、陸上の練習はしているのかな?」郷田さんは、木嶋に問いかけ、
木嶋は、
「長野の大会を最後に、出場していないので、練習すらしていません!仕事に追われていて…。」郷田さんに伝えたのであった。