第216話
木嶋は、昼休みになるのを待ち通しくて仕方なかった。
なぜなら…。
【久しぶりに、富高さんと会話が出来るのだ。】
同じ会社にいても、会う機会が少ない。
定時間は、夕方5時だが…職場が違えば、帰る時間が違う。
木嶋の職場は、比較的に残業はあるが、富高さんの職場は、有るときと無いときの差が激しい。
夕方5時で帰ることが多い。
富高さんは、一人で飲みに行くような行動はしない。
木嶋も、一人で飲みに行くほど…財政にゆとりがない。
もちろん、はるか、玲、麻美の店以外に行くほどの博打を打つ勇気はないのであった。
昼休みを告げるチャイムが、
「キーン、コーン、カーン、コーン」工場全体に鳴り響いていた。
木嶋は、自分の職場から食堂に向かった。
《腹が減っては…戦は出来ぬ!》戦国時代の武将が説いた言葉である。
富高さんは、普段から食堂に来ない。
自分の現場で食事をしているので、昼休みに入ったと言っても、木嶋も行きづらいのだ。
昼食を何にするかは、メニューを見て決めていた。
定食を食べれば、栄養のバランスは良いと思うが、短い昼休みを有効活用しないといけない。
今日の定食のメニューは、
【肉じゃが】、【回鍋肉】、【おでん】であった。
木嶋は、面を喰らったように、
【おでん】が…出るの?
【回鍋肉】?、【肉じゃが】?、【おでん】?、
《選択は、3つ…か!》
《悩むな…。》
最近、【肉じゃが】を食べる機会がなくなっているので、
【肉じゃが】にしよう。
定食側の階段に向かった。
並んでいる人は、多くない。
多いときは、階段下まで並んでいる。
おぼんを取り、
小鉢は、野菜サラダ。
【肉じゃが】
普通盛りのご飯に、味噌汁を取った。
会計を終え、給湯器コーナーでお茶を取り、いつもの指定席に座った。
富士松さんは、木嶋の右後方に座っている。
本音を言えば、富士松さんと一緒に食事をしたいし、会話もしたい。
現実は、難しい。
食事を終えた木嶋は、おぼんを両手で持ち、空の器を、シンクコーナーに投げ入れたのであった。
階段を下り、富高さんがいる現場に向かっていく。
「富高さん、お久しぶりです。」木嶋は、富高さんに声を掛けた。
富高さんは、
「あっ…木嶋君。昨日は、電話をくれてありがとう。」木嶋にお礼を述べていた。
木嶋は、
「昨日の話しですが、はるかさん、明後日が、クラブ『H』のラストインですが…富高さん、どうしますか?」富高さんに尋ねていた。
富高さんは、
「どうしようか?木嶋君は、どうするつもりなの?」木嶋に聞いていた。
木嶋は、
「ウィークデーだしね。正直、悩んでいるよ!」富高さんに伝えたのだ。
《ウィークデー》とは…。
平日のことを話しているのだ。
木嶋も、富高さんも、平日に飲みに行くのは、体調管理の面から考えて見ても避けるのが妥当だと思う。
飲むのが好きな人は、毎日のように飲み歩いている人もいる。
木嶋の場合は、毎日、飲みに行くよりも、はるかや玲、麻美の店で、週末の金曜日に時間を掛けて行った方が嬉しいのだ。
「木嶋君。はるかさん、水曜日で、クラブ『H』を卒業だよね?間違いないね?」富高さんが、木嶋に尋ねていた。
木嶋は、
「はるかさん、クラブ『H』を辞めるのは決定だと話していたよ!」富高さんにそう伝えたのだ。
富高さんは、
「もう…横浜のあの店に行くことは…ないんだね!分かりました。木嶋君、今週は、生産が多いから、水曜日、一緒に行こうよ!」木嶋に話したのだ。
木嶋は、
「富高さん、何か…無理を言って申し訳ない。」富高さんに頭を下げたのだった。
富高さんは、
「木嶋君、気にしなくていいよ!たまには、気分転換も大切だからね。」
木嶋は、
「ありがとうございます。詳細は、水曜日の昼休みに、決めたいので宜しくね。」
富高さんに伝え、その場を離れ、自分の職場に戻って行った。