第212話
翌日、朝、布団から出た木嶋は、日刊スポーツを右手に持ち、炬燵に入りながら、
はるかの《ラストイン》の日にちを聞いて…【行くか?行かないか?】悩んでいた。
【はるかのラストインのことで、麻美や玲、富士松さんに相談することでもないし、どうしようかな…正直…熟慮のしどころだ!富高さんに、今、電話をしてみよう!】
右手に持っていた…日刊スポーツを、炬燵の上に置き、
手元にあった携帯を、左手に取り、
電話帳は、
【あかさたな順】で、登録しているので、た行の列の電話帳から富高さんの番号を検索した。
富高さんの列は、最後からスクロールをした方が早いのだ。
サイドボードの上にある置時計で時間を見ると、
時刻は、日曜日の午前10時20分を過ぎたぐらいである。
「今、電話しても、釣りか?テニスで、家を留守にしているかも知れない。」木嶋はそう感じながらも…
「プルッ、プルー、プルー」呼び出し音をが鳴らしていた。
「もしもし、富高ですが…」どうやら、富高さんの母親が電話に出た。
「木嶋と言いますが、いつも、富高さんには、会社で、お世話になっています。今、家にいますか?」富高さんが、いるか?いないか?確認していた。
富高さんの母親は、
「今日は、朝、早くから出かけていて、帰って来るのが、夕方になるようなことを、話していましたが…帰って来たら、木嶋さんに電話を入れるように伝えましょうか?」木嶋に尋ねたのだ。
木嶋は、
「夕方ですか…?分かりました。明日、会社の昼休みに、自分が、現場に行って話しをします。」富高さんの母親に話し、電話を切ったのだ。
木嶋の心に、モヤモヤした物があった。
「何か…スカッとしないな。一個人としては、はるかのラストインを、クラブ『H』に行って見届けたい。だが、自分たちが座っている席に来てくれだろうか?不安をあげたらキリがない。」
このときの予感が、図らずもとも…当たるとは思ってもいなかった。
日も暮れて、夕方になり、木嶋の携帯が、
「プルッ、プルー、プルー」着信音が鳴っていた。
「誰だろう?」
不安になりながらも、携帯画面を覗くと…富高さんからであった。
木嶋が、電話に出た。
「もしもし、木嶋ですが…」
「富高です。昼間、電話が合ったみたいで…木嶋君、何かあったの?」富高さんは、木嶋に尋ねていた。
木嶋は、
「はるかさんのことで、話しをしたいのですが、今、時間は取れるかな?」富高さんに聞いていた。
富高さんは、
「いいよ。」木嶋に伝えたのだ。
「はるかさんが、クラブ『H』を辞める話しは、前にもしたと思いますが、今週の水曜日、ラストインなんだ。一個人としては行きたい気持ちはあるが、一人では行きにくい。富高さん、残業が終わってからでもいいので、一緒に行きませんか?」木嶋は、富高さんを誘っていた。
富高さんは、
「はるかさん、水曜日で、クラブ『H』を辞めるんだ。本当に辞めるの?」疑心暗鬼になりながらも、木嶋に問いかけていた。
木嶋も、はるかが、クラブ『H』を辞めるとは、額面通りに受け止めていない。
はるかは、20歳前後まで、普通に、アルバイトしている高校生や大学生などから比べたら、かなりのお金を稼いでいたのは、紛れも無い事実である。
金銭感覚が、ズレてしまっていることは、疑いようがない。
クラブ『H』から、完全に名前を抹消しない限り、辞めたと思わない。
【いつかは、戻る可能性がある。】
木嶋も、富高さんも、
いつかは、クラブ『H』に、《復帰》するだろうと感じていることは、確かである。
「辞めると言っているから、辞めるんじゃないの?」木嶋は、富高さんに言葉を返したのだ。
富高さんは、
「はるかさんが、クラブ『H』を辞めれば、自分たちも、横浜駅で途中下車することもないよね。」木嶋に聞いていた。
木嶋は、
「そうだね。横浜駅での途中下車はないが、関内には、麻美さんや玲さんが待っているよ!」富高さんに伝えた。
富高さんは、
「関内も、行かないようにしようか?」木嶋に尋ねながらも、言葉には、笑いと本音が隠れていた。
木嶋は、
「それもそうだね。」富高さんに答えていた。
「木嶋君、水曜日、残業が終わってから、クラブ『H』に行こうよ。」富高さんは、木嶋に答え、
木嶋は、
「ありがとうございます。詳細は、明日、会社に行ってから話します…と。」富高さんに話し、電話を切ったのであった。