第209話
市営地下鉄の改札口を出た木嶋は、目の前にある地上出口の階段を、一段、また一段と上がって行く。
出口の途中で、市営地下鉄の売店があったので、夕刊紙を購入した。習慣と言うのは、怖いものである。
自然と…いつものコーヒーショップ『Y』に、足が向いてしまう。
コーヒーショップ『Y』のドアが開けた。
2Fへ上る階段を、一歩ずつ、上がって行く。
はるかが、木嶋と、一旦別れて、買い物に出かけてから、30分以上経過していた。
関内に向かう前に、座った奥の席ではなく、上がって…すぐのイス席が空いていたので、夕刊紙を円形テーブルの上に置き、リュックを手前の座席に置いた。
木嶋は、反対側のイス席に座り、夕刊紙を広げ、近くにいた男性店員さんに、声を掛け、
「ホットのアメリカンコーヒーをお願いします。」オーダーをしたのだ。
男性店員さんは、
「ホットのアメリカンコーヒーですね。畏まりました。少々、お待ち下さい!」木嶋に伝え、離れて行った。
木嶋の携帯が、
「ピローン、ピローン、ピローン」鳴っている。
はるかからである。
木嶋が、電話に出た。
「もしもし、木嶋です。」
「はるかです。木嶋さん、今、いつもの場所にいるのですか?」はるかが、木嶋に尋ねている。
木嶋は、
「当然、いつもの場所にいますよ!買い物は、終わったの?」はるかに優しく問いかけていた。
はるかは、
「まだ、買い物途中ですが…木嶋さんが、どこにいるのか?把握したくて…」木嶋に答えていた。
木嶋は、
「自分のことは、気にしないで下さい。新聞を読みながら、ホットコーヒーを飲んで、寛いでいます!」はるかに伝えた。
はるかは、
「ありがとうございます。待たせてしまい…申し訳ありません。もう少し、時間を下さい。また、電話します。」木嶋に話し、電話を切ったのだ。
木嶋は、夕刊紙を読みながら、頭の中では、
【どこの回転寿司にしようか?】迷っていた。
回転寿司も、色んなタイプの店があり、選ぶ方も、どこにするかは、その人たちの嗜好次第である。
今、コーヒーショップ『Y』を起点で考えると、歩いて5分以内の場所にある回転寿司が有力である。
ポルタ地下街にも、回転寿司の店があるが、そこまで歩くのに、時間ロスが発生してしまう。
横浜駅から離れた場所にも回転寿司がある。帰る時の交通利便性などを考慮すると、駅に近いところを選びたいと考えていた。
木嶋は、寿司ネタで、一番の好物は、《マグロ》である。
小さいときから、《マグロ》の刺身を良く食べているので、まず先に、オーダーをするのであった。
寿司ネタの中でも、食べたことのないネタもある。
【所謂食わず嫌い】である。
家で、魚を焼くが、《ブリ》や《秋刀魚》が、食卓を飾ることが多い。
はるかの、寿司ネタの好みは、分からない。
はるかと、友達付き合いがあるとは言っても、食事をした機会が、両手で足りるぐらいなのだ。
木嶋は、はるかと食事をすることで、少しずつだが、
【食わず嫌い】がなくなっていた。
夕刊紙を読み尽くし、退屈気味になっていた。
「早く…ここから出たいな!」ボヤいていたとき、
テーブルの上に置いてあった携帯が…、
「ピローン、ピローン、ピローン」鳴り響いていた。
「もしも〜し、木嶋ですが…。」
「はるかです。今、買い物が終わりました。どこのお店にするか?決まりましたか?」はるかが、木嶋に聞いている。
木嶋は、
「この近くに、回転寿司の店があるので、そちらに行きましょう。」はるかに答えたのだ。
はるかは、
「あそこのお店ですか?」木嶋に尋ねた。
木嶋は、
「あそこと言われても…目印は、パチンコ店の並んでいる近くにありますよ!」はるかに伝えたのだ。
はるかは、
「分かりました。すぐに、そこのお店に向かいますので、木嶋さんも、来て下さいね。」木嶋に伝え、電話を切ったのだ。
木嶋も、会計伝票とリュックを持ち、階段を下り、会計して、ドアを出て行く。
はるかの元へ、駆け足で向かって行った。