第197話
頭を悩ましながら、
「玲に、どう言えば誠意が伝わるのだろう!」言葉を考えていた。
慌てるときは、なかなか思いつかない。
「そうだ。急用が出来たと言えば、玲も、納得するはず…。」木嶋は思いついたのだった。
「我ながら、名案だ…と。」自画自賛していた。
一時期、はるかのことが、疎ましくて…メールや電話が鳴っても、出るのが嫌なときもあった。
冷静に見れば、はるかにしたことも、玲に、これからしようとするも同じである。
はるかには、そんなことをしないと、心に決めていた。
いつかは、みんなと別れる日が、刻一刻と近づいているのも、否定は出来ない。。
それまでの時間ぐらいは、一生懸命、はるかを大切にしよう。
自分を振り返ったとき、若い頃から見たら、勢いが無くなっている。
悲観的に、なってしまいそうである。
先ほどまで、電車の中で通話をしていていたので、他の乗客に睨まれていた。
まだ、木嶋の乗っている電車は、支線であり、乗り換え駅まで、乗降客が少ないのだ。
《チラッ、チラッ、》
雪が降ってきた。
【この時期に、珍しいな!】
雪が降るのだから、気温が低いはずである。
どの電車に乗っていても、暖房が効いていて、外気温との差が判らない。
乗り換え駅に着いたが、今、乗っている電車で、そのまま横浜駅に向かった。
時間帯にもよるが、各駅停車しかなく、
木嶋が、私用で、会社を、午後半日有給を取得すると、家まで帰る時間が、いつもより、倍になってしまう。
電車に乗っているだけで、疲れてしまうこともある。
ゆったり帰るときは、はるかと待ち合わせの約束をしていて、
心が、嬉しくて、
『スキップ』している。
木嶋の性格を考えると、ゆっくりと、各駅停車で帰る選択肢はない。
一秒でも、家に着いて寛ぎたいと思っていた。
もう一つの悩みは、
「富士松さんを誘うには…どうするべきか…!」
木嶋のテーマは、これに決まったのだが、いつまでも、解決しないような気がしていた。
永遠のテーマなのかも知れない。
理想の人を、目の前にすると…立ちすくんでしまう。
木嶋の目に見えない…オーラが出ていた。
それを、改善しない限りは、進展がない。
雪の降り方が、降り始めよりも、強くなっていた。
これからの時期は、水分を多く、足元が滑りやすくなっている。
雪を見るたびに、仲間たちとスキーに出かけた記憶が蘇っていた。つかの間の青春時代だったと言っても、不思議ではない。
一度、スキーに行かなくなってしまうと、身体が、
【スキーに行こうと気持ちが失せてしまう。】
偽りたくなるようだった。
そんな気心知れた仲間たちと、スキーや陸上を始め、交流が出来たことは、木嶋の財産になっていると…一筋の光りが、輝いていたんだと思う。
元々、女性が数少ないので、一人、また一人と結婚をするたびに、
ため息と虚しさが、胸の奥底から込み上げていた。
木嶋の心の傷を癒すように、
玲、麻美、はるかが現れていたんだと…。
横浜駅からJRに乗り換えようと、
階段を、一歩、また一歩、慎重に降りている。
改札を通り、東海道線のホームに着いた。
横浜駅で、東海道線に乗り慣れているせいか、
【ホッ…と】安心感が出ていた。
まだ、雪が降り続いている。
都会の人は、雪に弱い。
テレビの中継で、雪に不慣れな様子が移し出されると、豪雪地方で生活している人たちから見れば、笑いたくなる光景であった。
「ガタン、ゴトン」
電車のスピードが、いつもより遅い。
木嶋は、携帯を取り出し、携帯のニュースを見ていた。
今夜は、降り続くみたいであった。
「明日の朝、通勤に注意して下さい。」盛んに、天気予報などで呼びかけていたのであった。
「朝、少し早く、家を出ないといけないな!」木嶋は感じつつ、最寄り駅に着いたのであった。