第188話
メールの着信に、木嶋は、気がついていたが、歩きながら、携帯を操作するのは苦手である。
盲目の人、介助犬を連れている人、車椅子の人、杖で歩いている人、走って電車に乗り換える人など…色んな人たちがいて、危険だと感じていた。
「ズッ、ズッ、ズッ」靴の音が響く。
階段を、一段ずつ上がり、東海道線のホームで、電車を待っていた。
電車が、ホームに到着するまで、あと3分ぐらい余裕がある
木嶋は、Gパンのポケットから携帯を取り出し、受信メールボックスから新着メッセージをスクロールした。
メールの送信者は、はるかからである。
「木嶋さん、今、成田空港駅の成田エクスプレスに乗りました!地元に着くのが、夜11時ぐらいになりそうです。また、メールします。」
木嶋は、
「夜11時か…正直、悩む…」
『どうしようか…?』呟いていた。
なかなか…答えを出せずに、いらだちを隠せない。
自分自身がもどかしく思うのだ。
「普段から、起きている時間だから大丈夫かな?」
はるかに、メールを返信しよう!
先ほど届いたメールから、アドレスを呼び出した。
「はるかさん、いつも、夜11時30分頃まで起きているので、携帯は、留守電にしてありますから、留守電に、メッセージを入れて頂ければ、折り返し電話をします。それを過ぎてしまうと、明日、会社なので、起きるのが辛くなってしまいます。ご理解下さい!」はるかに、メールを送信した。
直ぐに、メールが返信されてくる可能性は、ないだろうと思っていた。
ホームに入る直前、
「パーン」乾いたクラクションを鳴らしながら、電車が入って来た。
電車通勤を始めた頃は、いきなり…クラクションを鳴らされて、焦り…驚きの両方があった。
「自分は、何も悪くないのに…」そう思ったことがあった。
最近は、慣れてきたのか…鳴らされても、平気な顔をしていた。
「プシュー」エアー音を立てながら、ドアが開く。
横浜駅で乗り換える人が大勢いた。
木嶋は、東海道線に乗った。
「ピロー」発車ベルが鳴り、
「駆け込み乗車は、ご遠慮願います!」ホームのアナウンスが響く。
「ドアが閉まります。ご注意下さい。」車内にいる女性車掌の声で、アナウンスしていた。
家路に駆け足で急ぐ人。
木嶋もそうだが、帰宅するときは、1分1秒が重要である。
一本でも、電車を遅らせてしまうと、自分の自由な時間が少なくなってしまう。
休日は…別だが、自分の自由な時間は、多くても、3,4時間ぐらいしかないのが現状である。
毎日の日課になっているのが、夜のニュース番組などが主になっていた。
毎朝、日本テレビの『ズームイン』を家族揃って見ている。
朝早く、父母が、先に起きて新聞に目を通している。
木嶋は、寝ぼけ眼で、目を擦りながら見ているので、
情報が頭の中に入っているかは、微妙である。
家から出る頃には、天気コーナーを見ているので、頭が、少しずつ回転を始めている。
電車の中から景色を見ていると、バレンタインデーを過ぎたことに気がついた。
「そうか…バレンタインデー!今年は、はるかから、貰い損ねた…卒業旅行だから仕方ないか!」木嶋はボヤいていた。
最寄り駅に着いた。
「プシュー」エアー音を立てながら、ドアが開いた。
駅から家までの道を、一歩…一歩…はるかの笑顔を見れる日にちが、
いつになるのか…思案しながら歩いていた。
家のドアを開け、夕飯を食べながら、
朝、時間がなく、読めなかった《日刊スポーツ》を読んでいた。
一通り、記事を読み終え、テレビの電源を入れた。
この時期は、ドラマも多いが、
木嶋は、【スカイパーフェクトテレビ】の電源を入れた。
懐かしいアニメや刑事ドラマなどのチャンネルがあるので、番組表をスクロールしていた。
掛け時計を見ると、夜9時30分を過ぎていた。
「もう…こんな時間なのか?」
木嶋は、スカイパーフェクトテレビの番組表をスクロールするのを止め、
携帯を留守電にしたのだった。