第186話
はるかが、帰国する日まで、木嶋の精神状態が不安定になっている。
「一声、留守電でもいい…声を聞くだけでもいいから電話が欲しい…。それで、安心出来るのに…。」これが、今の木嶋の心境を表していた。
ハワイに、国際電話をしようにも、滞在先のホテルの名前、住所、電話番号も知らないのだ。
【滞在先のホテルを聞いておくべきだった…】反省の言葉ばかりが出てくる。
『カチッ、カチッ』と掛け時計の秒針が、一秒ずつ…時間が過ぎて行く。
木嶋は、仕事が手に付かず…帰国するときが待ち遠しい。
はるかが、帰国する火曜日になった。
成田空港に到着予定時刻は、夕方5時過ぎの予定である。
帰国の日にちと到着予定時刻は、はるかが、日本を発つ前に聞いていたのだ。
木嶋は、飛行機に乗ったのは、一度だけしかなく、到着が遅れるのも、理解はしているが、大幅な遅れは、想定外である。
昼休みや休憩時間になるたび、携帯の着信履歴を見ながら、
「ハー」
ため息をつきながら、鳴るのを待っていた。
気を取り直し、
「メールで来るのかな?電話かな?考えるだけで、ワクワクして、嬉しくなる!」
心が浮ついているのを、木嶋自身、自覚しながらも、淡々(たんたん)と仕事をこなしていた。
それを、溝越さんが見逃さずにいた。
「木嶋、何か…あったのか?落ち着きがなく、ソワソワしている感じだぞ!」木嶋に尋ねていた。
さすが…溝越さんである。
いち早く…木嶋の変化を見抜かれていたのだ。
木嶋は、
「そんなことは、ないですよ!」溝越さんに謙遜して答えていた。
溝越さんは、
「そうか?いつもの木嶋と違うんだよ!」木嶋に問いかけていた。
「そうですか?いつもと同じと認識していますよ!三谷さんに、聞いて下さい。」木嶋は、溝越さんに伝えたのだ。
「判った!木嶋が、そう言うなら…いいんだ。別に悪いことで話しているのではないから…ケガは、気をつけて…!」溝越さんは、木嶋に伝え、その場所から離れて行った。
木嶋は、内心驚いていた。
「そんなに、表情が違うのかな?」自問自答しながら、首を傾げていた。
仕事終わりのチャイムが、
「キーン、コーン、カーン、コーン」鳴っていた。
大急ぎで走りながら、ロッカールームに走り、着替えている。
会社の送迎バスに乗り、ラジオを聴きながら…最寄り駅に着いたので、送迎バスから降り、階段を下がりながら、コンビニで夕刊紙と缶コーヒーを購入して電車に乗った。
「ガタン、ゴトン」
揺られながら、携帯の画面を見つめていた。
まだ、メールも着信もない。
「フー」
一息入れていた。
先ほど、コンビニで購入した、夕刊紙を取り出し、読み更けていた。
今だに…着信がない。
「成田空港に着くのが、遅れているのかな?一か八か…電話をしてみよう!」
木嶋は、電車の座席から携帯を発信した。
『お客様のおかけになった番号は、電波の届かない場所におられるか?電源が、入っていないためかかりません!』
電話口から、そのようにテロップが流れていた。
木嶋は、
「電話が、繋がらないんじゃ意味がない!」ボヤいていた。
「まあ…はるかのことだから…一度は、電話をしてくるはず…!」確信めいた自信があった。
何故?木嶋が強気なのだろうか?
今まで、はるかと付き合っていて、プレゼントや食事をするたびに、あとから…電話か!メールのどちらかが来るのだ。
電車が、乗り換え駅に着いた。
携帯を、Gパンのポケットから取り出した。
画面を覗くと、メールの着信を知らせている…チャイムを確認していた。
木嶋は、メール受信ボックスを開き、新着メールの宛て先は、
《ディズニーリゾート》からであった。
「あらっ…」前に、コケそうになっていた。
「はるかじゃなかった!まあ、いいか?」木嶋は、楽観的な気分に浸っていた。