第175話
木嶋が、地下街からエスカレーターに乗り、最寄り駅の自由通路に出た。
家に戻る道の途中で、携帯を取り出すと、電話の着信を知らせるランプが点滅していた。
「誰かな…?」
恐る恐る携帯の着信画面を覗くと、はるかからであった。
時刻は、夕方5時30分頃であった。
「この時間は、搭乗手続きしているときかな?」木嶋は、疑問心を抱いていた。
「はるかは、成田空港で、自分に電話をしている余裕はないと言っていたはずなのに…?帰国したら聞いてみよう。明日は、同年代の麻美と久しぶりにデート気分を味わえる…」心は、曇り空のち晴れやかな気持ちになっていた。
家に、戻ってきても、高ぶる興奮を抑え切れずにいた。
木嶋が、こんな状況になるのは珍しい。
「チョット…ヤバイ!はるかとデートの時は、心臓が《バクバク》するだけなのに…何故だろう?」やはり不安になる。
【明日になれば、緊張も解れるのだろうか?】
木嶋は、そう思っていた。
「今…午後7時か…!土曜日でも、時間を持て余しているから、ゲームをやろうかな?」
部屋に戻り、ゲーム機を持ち出した。
「ゲームソフトは、《競馬の育成シュミレーションにしようか?》、それとも《野球のゲームにしようか?》悩むな…どれにしようか?」
頭のコンピューターは、《野球のゲーム》を選択した。
木嶋は、野球のゲームを取り出し、ゲーム機に差し込んだ。
《競馬の育成シュミレ-ション》も捨て難いが、終わりが見えずらい。
野球のゲームなら、そんなに時間が掛からずに終わるのだ。
木嶋が、ゲームに没頭すると、1.2時間は、経過していく。
今から飲みに行っても、お金を使うだけである。
木嶋は、いつも横浜や関内で、富高さん、三谷さんたちと飲む機会が多い。
地元で飲むには、何処にすればいいのか?考え悩んでしまう。
夜間高校の同級生や後輩に、携帯に連絡をして、
「今から飲もうよ!」と気軽に話しをすれば、
すぐに、行動出来る仲間はいるが、時間的なロスを考慮すると躊躇してしまう。
行きつけのクラブ『H』は、はるかが、いないので意味がない。
抜け殻になっている自分がいると思うと、怖くて行くのを、戸惑ってしまう。
クラブ『O』に、玲が…
クラブ『U』に、麻美たちがいるが…
仲が良くても、一人では行きにくいものである。
富高さん、三谷さん、小室さんたちも、いずれは、定年を迎える日が来る。
その人たちに、頼るばかりでは、人は進歩しないのだ。
麻美が、木嶋に、警告しているが、はるかへの依存度が高すぎるのも、考えなくてはならない。
野球のゲームを終えた木嶋は、夕ご飯を食べながら、明日(日曜日)の話題を探していた。
東京新聞を広げ、読み更けていた。
「新聞も、この時期は、大きなニュースはないのかな?」
2月は、プロ野球も、キャンプ中である。日本の国技である大相撲も、初場所が終わったばかりである。
木嶋の地元には、相撲部屋がある。
相撲部屋と言うと…
『チャンコ鍋』、『鉄砲』、『シコ』が有名である。
寒い冬の時期に行っている、【忘年会】や【新年会】は、温かい鍋を食べるのと身体が温まる。
一度で良いから、相撲部屋で作っている…『チャンコ鍋』を、目で追いながら、レシピをメモすれば、自宅でも作れるのでは…そう感じている。
最近は、相撲部屋にも、他のスポーツ選手たちが、トレーニングに訪れているのが、ニュースになっている。
あとは、相撲部屋の親方が頑張って、角界を盛り上げている。
若い親方さんたちが、レベルアップしないと、外国人力士の天下(てんかしないように、毅然とした態度を持たないといけないことなのである。