第134話
麻美と約束の金曜日になった。
木嶋は、朝、起きてから外の天気が気になり、窓を開け、空を見上げていた。
まだ、夜が明けきず、辺りが暗い。
冬至を境に、段々(だんだん)と、明るくなって行くのだ。
『太陽が、顔を出すまで、あと1時間ぐらい…か。』
木嶋は、ボヤき気味に
「麻美さんのクラブ『U』に出掛けるのに、天気はいいのだろうか?」更なる不安が助長していた。
帰る時に、雨が、
《ザァー、ザァー》降るのは、気が滅入ってしまう。
リュックの中に、折り畳み傘があるが、長い傘を持って行くのも、面倒なのだ。
木嶋が、掛時計を見ると、時間は、午前5時30分になっていた。
毎朝、日本テレビの『ズームインSUPER』を見るのが、日課になっている。
手元にあったリモコンで、テレビの電源を入れた。
【皆さん、おはようございます。今日は、1月、最後です。私、福澤も、今日がラストです。それでは、行きましょう!日本全国、金曜日の朝に、ズームイン!】
司会の福澤 朗アナウンサーの掛け声と同時に、大桃 美代子キャスターの右手が、ズームインシグナルを出していた。
木嶋は、朝、寝ぼけ眼で、ご飯を食べていた。
ご飯を食べ終わり、日刊スポーツを見開き、プロ野球のキャンプイン直前情報を読んでいた。
木嶋の応援しているプロ野球チームは、ジャイアンツである。
去年は、日本一を達成したので、ファンとしては、連続優勝を願うのは、当然であった。
木嶋は、《日本シリーズ》を、一度も観戦したことがない。
【プラチナチケット】みたいな物である。
どうすれば手に入るのだろうか?
いつも、思案していた。
富高さんも、プロ野球が好きである。応援しているチームは、あるはずである。
木嶋の記憶の中で、
『聞いたような?聞かないような?』素朴な疑問を投げかけていた。
《富高さんに、今日、聞いてみよう。》そう思いたったのだ。
置時計を見た。
時刻は、午前6時になろうとしていた。
《そろそろ、着替えるか!》
日刊スポーツを畳み、いつもと同じスタイルで、着替えていた。
厚手のシャツに、ダウンコートを羽織り、Gパンを履いたのだ。
リュックの中には、作業服とTシャツ、靴下を入れ、家を出たのだ。
木嶋の家から、最寄り駅までは、15分も有れば着く距離である。
冷たい北風が、ビルの真下から吹きおろしている。
「今日は、寒いな!」ダウンコートのボタンを、首元まで閉めていた。
最寄り駅まで着いた木嶋は、【KIOSK】で、スポニチを購入した。
日本経済新聞は、一面の見出しで、たまに購入していた。
駅の改札口を通り、東海道線のホームに、並んでいた。
電車が入り、発車ベルが、
「ピロン、ピロン、ピロン、ピロン」と鳴っている。
「プシュー」
エアー音を立てて、ドアが閉まって行く。
電車が、ゆっくりと走り出していく。
木嶋は、横浜駅までの距離を、通勤で東海道線を利用していた。
東海道線を利用するのには、違和感はない。
小さい頃から、どこに行くにしても、東海道線が一番早いと思っていた。
車内アナウンスが、
「まもなく、横浜、横浜です。相鉄線、横浜市営地下鉄、東横線は、お乗り換えです。」
電車が、横浜駅のホームに着いた。
ドアが、
「プシュー」と開いたのだ。
木嶋が、ホームに降り立つ。
東京方面は、朝、早い時間なのに、通勤ラッシュが始まっていた。
今から、5年ぐらい前だが、半年間、生産応援で、平塚の会社に、東海道線で通勤していた。
木嶋は、そこで初めて、夜勤勤務を経験したのだ。
夜勤明けの朝、平塚の会社から東海道線に乗り、帰宅するが、大船駅から通勤ラッシュが始まり、横浜駅で、更に混みだして行く。
毎日、通勤ラッシュの中で、通っている人の苦労は、並大抵ではないと感じたのだ。
普段から、シートに座れて、通勤出来る有り難みを、身に染みたのであった。
改札口に向かう階段を、一段、また、一段と降りて行く。
相鉄線の改札口を通り、いつもと変わらない時間の電車に乗って、会社に向かったのだった。