第101話
木嶋のいるフロアに、はるかが来たのだ。
「お待たせしてゴメンなさい!」
はるかに、そう話されると、先ほどまで、イラついていた木嶋の表情が緩んでいた。
「結構、待ったんじゃないの?」木嶋に尋ねていた。
木嶋は、
「うん、そうだね!待ったと言えば、待ったかも知れない!東急ハンズの中を見ていたから、時間は、気にはしなかった。さっき腕時計を見たら、30分ぐらい経過していたので、ビックリしたよ。」はるかに話したのだ。
はるかは、
「木嶋さんが、道工具のフロアにいるなんて意外と言えば、意外のような気がしますよ!」木嶋に質問したのだ。
木嶋は、
「そうかな?仕事で、使う物もあるから見ていて楽しいよ。自分が、見る場所は限られているよ!」はるかに答えていた。 「私は、システム手帳が売っている売場に行きたいのですが、一緒に上のフロアに上がって行きませんか?」木嶋に聞いていたのだ。
「いいよ。一緒に行こうか!」
「カッ、カッ、カッ」靴の音が鳴らしながら、階段を一段、また一段、
はるかが、一歩先に出て、木嶋が後から、追うように一緒に上がって行ったのだ!
システム手帳が売っている売場に着いたのだ。
木嶋は、システム手帳は使ったことなど一度もない。普通の手帳しか購入しないのだ。
手帳は、人によって使う種類も違う。長期的に考えると、システム手帳が便利なのだ。
中のシートを入れ替えれば、最低でも3年〜5年は使えるのだ。そう考えると、普通の手帳を使っていると、一年交換で変えるのは、コストが高くなるのだ。
はるかは、システム手帳に、こだわっていたのだ。
「何にしようかな?」種類が多く、目移りをしていた。
木嶋は、今、使っている手帳があるので、《サラッ》と、流すように見ていた。
木嶋の仕事は、生産現場なので、システム手帳を使う機会がないが、手帳には、残業や臨時出勤した時間を書き込んでいた。
営業や購買とかなら、もう一つあれば、いいとは思う。
「これにします。」システム手帳を取り、木嶋に渡したのだ。
木嶋は、
「これでいいの?」はるかに聞いたのだ。
はるかは、
「これでいいですよ。」ベージュ色の取り外しが出来る手帳だったのだ。
さすがに、ピンクやブラックを選ばなかったのが、はるからしい。
商品を選ぶセンスは、抜群だった。それは、洋服選びにも通じていた。
「木嶋さん、コーヒーショップ『Y』に先に行っているので、会計をお願いしていいですか?」はるかは、木嶋に尋ねたのだ。
木嶋は、
「いいですよ。」と、はるかに伝えたのだ。
その言葉を聞くのを待っていたかのようだった。
はるかは、安堵な表情を浮かべ、東急ハンズの階段で降りて行ったのだ。
木嶋は、会計をしながら呟いた。
「はるかが、もうすぐ成人式か…何だかんだと言っても一年間、交際出来たのか!我ながら拍手かな!」そう思っていた。
会計が終わり、はるかの待つ、コーヒーショップ『Y』に足を向けた。
「カッ、カッ、カッ」靴の音を出しながら、歩いていく。
いつものコーヒーショップ『Y』のコーナー席に、はるかが座っていた。
木嶋は、はるかと交際を始めてから一歩ずつ、歩きながらも若い女性との会話の仕方を学んでいた。
最初の頃は、どこのクラブやスナックなどで、女性が横に座っていても、仏頂面をしていて、満足に、女性と話しすら出来なかったことを思えば、進歩したのだ。
依然として、富士松さんには、話すキッカケすら探せないでいた。
木嶋は、はるかのいるコーナー席に行き、座ったのだ。
「はるかさん、さっきの買い物。」そっと、はるかに差し出した。
はるかは、
「ありがとうございます。木嶋さん、私、もうすぐ、成人式を迎えますが、その日が来るのを待ち焦がれていました。今は、凄く嬉しいのです!」はるかは、木嶋に話していた。
木嶋も、
「そうだろうね。自分が成人式を迎える日が近づくにつれ、テンションが高ぶってくるよ。学生時代の仲間と一緒に行った記憶が鮮明に残っているよ!もちろん、はるかさんも、誰かと待ち合わせしているよね?」はるかに聞いていたのだ。
はるかは、
「仲の良い友達と待ち合わせいます。会場も同じ場所なので、安心して行くことが出来るのです!」木嶋に答えたのだ。
木嶋は、
「差し障りないなら、場所は、どこなのかな?」
「アリーナですよ!」はるかが木嶋に言ったのだ。
木嶋は、目を丸くしながら、
「アリーナって…横浜アリーナ?」驚いた表情だったのだ。
「そうですよ。滅多に、アリーナの中には、入ることはないですよね?アリーナのセンター席に座れるなんて機会がないですよ。」はるかは、興奮気味に木嶋に話していた。
「センター席に、座れるなんて羨ましいな!」はるかが輝いて見えたのだった。