第100話
木嶋は、どんなに仕事が忙しくても、はるかと一緒に時間を共有したいのだ。
それが日常なのだ。
万が一、はるかが、木嶋の元から離れてしまった時、横浜駅で乗り換えている楽しみが無くなってしまう。
麻美が、木嶋に話しているように、《単なるお客さんとホステスの関係。過度の期待は禁物。》と言われても無理もない。
はるか以上の女性を探すとなると、少なくとも、一年以上の歳月が掛かると感じていた。
はるかから、富士松さんに、方向転換するのも次なる一手だ。
富士松さんに、告白をして、フラれた時のリスクを考えると反動が大きすぎる。
はるかの存在は、木嶋には大きい過ぎるのだ。蟻地獄に、落ちたまま、ハマって抜け出せずにいたのだった。
携帯が、
「ピローン、ピローン、ピローン」鳴っている。 木嶋は、電話に出た。
「もしもし、木嶋ですが。」
「はるかです。木嶋さん、今、どこにいるのですか?」はるかは、木嶋に尋ねていた。
木嶋は、
「今ですか?どこに行こうかと迷いましたけどね!東急ハンズにいますよ。」はるかに答えたのだ。
はるかは、
「東急ハンズですか!私も、買いたい物があるので、行ってもいいですか?」木嶋に聞いていた。
木嶋は、
「いいですけど、クラブ『H』の出勤時間は大丈夫なのですか?」心配になり、はるかに尋ねたのだった。
はるかは、
「私は、今日、クラブ『H』はお休みにしてあります。時間的にゆとりがあります。木嶋さんは、大丈夫ですか?」
木嶋は、
「いつも会う時間が短いので、今日は、遅くまでいいですよ。」はるかに話したのだった。
はるかは、
「分かりました。これから東急ハンズに向かいますので、待っていて下さい。」木嶋に伝えたのだ。
木嶋は、
「分かりました。東急ハンズで待っているので、着いたら連絡を下さい。なるべく早く来てね!」はるかに話したのだ。
はるかは、
「は〜い。」元気な声で木嶋に話し、電話を切ったのだった。
はるかが、クラブ『H』に出勤の日は、会う時間が限られている。
コーヒーショップ『Y』やカフェレストラン『F』に入っていても、短時間の間に、料理を出せるメニューが中心で、オーダーしているので、落ち着いて話しをする時間が少ない。
唯一あるとするなら、はるかと一緒に、クラブ『H』に行く時だけかも知れない。
もちろん、木嶋が一人で行く場合は、極まれである。
富高さんと一緒に行けば、木嶋も安心なのだ。
気掛かりなことは、富高さんが、携帯電話を持っていないのが難点なのだ。
携帯があると、便利なことに目を奪われがちになる。その反面、プライベートに干渉しすぎてしまう。
それが良いのか?悪いのか?人それぞれだと、木嶋は思うことも多々あるのだ。
木嶋は、東急ハンズの道工具フロアで、道具を見ていた。
はるかから、電話がきてから15分ぐらいが経過していた。
木嶋も、痺れを切らしていた。
段々とイラついている。
「いつものことながら、時間にルーズだな!」木嶋もボヤくよりも溜め息を出すしかなかったのだ。
木嶋の行動を察知していたのか?
着信履歴を覗くと、はるかからの着信が5件あったことに気がつかなかった。
慌てて、はるかに電話をしたのだ。
「プルッ、プルー、プルー」呼び出している。
「もしもし、はるかです。」はるかが電話に出たのだ。
木嶋は、バツが悪そうに、
「着信に気がつきませんでした!申し訳ありません!」はるかに謝罪をしたのだ。
「木嶋さん、何回も掛けたのに、気がつかないなんて…気をつけて下さい。」はるかが、電話口で木嶋に怒っていた。
「電波の状態も悪くて…。」はるかに答えたのだ。
「仕方ないですね。」はるかは理解をしたみたいであった。
続けて、
「今、何階のフロアですか?」はるかは、木嶋に聞いたのだった。
「道工具売場です。」
「そのフロアから動かないで下さい。」木嶋に伝えたのだ。
木嶋は、
「気長に待ちますよ。」木嶋は、はるかに答えるしかなかったのだった。