第10話
横浜駅から電車に乗った木嶋は、はるかから渡されたプレゼントを見た。
「何だろう…?」
包装を解きながら、チョットした期待感が脳裏によぎったのだ。
木嶋は、中身を見て驚いた。
それは、《香水》だった。意外な物だ。
木嶋自身、《香水》を使う機会がないので、通勤で使っているリュックの中に
『そっと』しまうのだった。
木嶋には、プレゼントを貰えたことが嬉しかったのだ。
家までの帰り道、思案しながら木嶋は、
「はるかに、どういったメールを送ろうか?」心の中で呟いていた。
家に着き、布団の中に入りながら、メールを送る内容を考えていたが、決まらずに寝てしまったのだ。
次の朝、冬晴れで酔いも覚めた。
木嶋は、
「昨日は、誕生日のお祝いとプレゼントをありがとうございました。《香水》は、大切に使わせて戴きます。」はるかに、メールを送ったのだ。
はるかからメールが来た。
「昨日は、ありがとうございました。来月は、バレンタインのイベントがありますのでお店に来て頂けると嬉しいです。」
木嶋は、メールを読みながら
「了解しました。検討します。」はるかに、メールを返信したのだ。
【バレンタインデーか…自分には、関係がない…】そう感じていた。
木嶋には、バレンタインデーに、本命や義理チョコさえも会社内外で貰ったことなどない。
「バレンタインデーに、チョコレートを貰ったこともないなぁ〜。はるかさんに、バレンタインチョコレートを手作りで貰えないだろうか…それまでは、何とか頑張ってみよう。」木嶋は、心の片隅で、そう決めたのだった。
はるかのいるクラブ『H』に、木嶋が行ってから数日が経過した。
会社から通勤バスを降り、最寄りの駅の改札口を通り、電車に乗った。
会社の先輩方と車内で会話していた。
木嶋の携帯が、
「ピローン、ピローン、ピローン」と、はるか専用の着信音が鳴り響くのだった。
はるかは、木嶋に
「クラブ『H』の出勤前に会って話しをしたいのですが宜しいでしょうか?」と言うのだ。
木嶋は、この日は、たまたま仕事が定時間で終わっていたのだ。
「うん、いいよ。待ち合わせ場所は…何処にするのかな?」はるかにOKサインを出しながら聞いたのだ。
はるかは、
「待ち合わせ場所…前に木嶋さんと入ったカフェレストラン『F』ではなくて、相鉄線の改札口近くに交番があるかと思いますが、交番を左手に歩きますと、ファーストフード店に当たります。そこを左に少し歩きますと、カフェショップ『Y』がありますので、そこを待ち合わせ場所にしたいのですが、分かりますか?」木嶋に伝えたのだった。
木嶋は、
「そこまで、場所を詳細に伝えられたら、分かると思います。判らないようならはるかさんに電話します。」はるかに答えたのだ。
はるかは、
「分かりました。なるべく、早くに行きますね。」と言いながら電話を切ったのだ。
木嶋は、指定された場所のお店に行き、ホットコーヒーを飲みながら待っていた。
店に入って10分ぐらい経ったのだろうか!
はるかが店に入ってきた。
「すみません。遅れました。」と、木嶋に言った。
「今、店に来たばかりだよ。」
はるかに、強がりを言うのだった。
はるかは、木嶋の前の座り
「木嶋さん、私と友達になって頂けませんか!」木嶋に言ってきたのだ。
すると、木嶋は、驚きを隠せずにいた。
「えっ、友達にですか…?いいですけど…最近は、陸上仲間との交流もないし、会社の女性しか知らない部分もあるからね。若い女性のことを知るにはいい機会だから…」はるかに、友達としての交際をOKするのであった。
はるかは、嬉しそうな顔をして
「本当ですか!」木嶋に尋ねた。
木嶋は、
「本当ですよ!」言葉を返したのだ。
店に出勤時間が迫り、はるかが、
「そろそろ、店に出勤しないといけないので、先に出て行きます。」言葉をいい残して、木嶋の元から立ち去って行った。
木嶋にしてみれば、短い時間の中で、有意義な会話が出来たと確信したのだ。だが、
「友達として交際していこうにも、どんな形がいいのか?」戸惑いがあったのだ。
なぜなら、木嶋は、交際経験が豊富ではなかった。
木嶋の勤務している会社では、年配の男性が多く、若い男女の世代が少なかったことも影響していたのだ。若い女性が入ってきても、年令が掛け離れているため、何を話していいか理解不能であった。
木嶋には、不安もあったのだ。
【若い人=ブランド品】のイメージが付きまとっている。
麻美との約束の日が近づいていたのだった。