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婚約破棄された公爵令嬢、のんびり牧場経営で成り上がり (旧:追放された公爵令嬢、隣国で成り上がって全てを見返す)  作者: 絢乃
番外編

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「今よ! ニーナ!」


「やっ! ――――あっ、ごめん」


「惜しい! 惜しいよ!」


 二人は厨房でオムライスを作っていた。

 料理の経験がないと言うニーナに、ペトラが作り方を教えている。


「これ以上は卵の過剰摂取になるから今日はおしまいだね!」


「既に過剰摂取になりそうだけど……」


 食堂のダイニングテーブルには失敗したオムレツが並んでいた。

 作った順に並べられており、次第に出来が良くなっている。


「ニーナ、貴方、料理のセンスがあるじゃない!」


「そんなことは……」


「あるよ! この調子なら次回は成功待ったなしだもん!」


「でも、ペトラは最初から失敗なんかしなかったし」


 ニーナは言った後に「しまった」と思った。

 彼女の言う「最初」とは、“完全な初挑戦”を指している。

 つまり、ポナンザ家の公爵令嬢として初めて料理した時のことだ。


「だって私はほとんど毎日料理してるもん!」


 ペトラはニーナの言葉を別の意味で捉えた。

 ニーナの言う「最初」を、彼女は“今日の初めて”と解釈したのだ。


「そ、そっか、そうだよね」


「そうそう! 料理は慣れが一番!」


 ニーナは心の中で「ホッ」と安堵した。


「メインはオムライス&大量のオムレツでいいとして、後は牡蠣だね! 牡蠣は鮮度が命だから今日中に食べないと!」


 ペトラがクライスからもらった牡蠣を取り出す。

 牡蠣は力強く殻を閉ざしているが、ペトラには関係ない。

 彼女はさながら漁師の如き慣れた手つきで殻を剥き始めた。


「すごい……」


「別にただ殻を剥いているだけだよ。ニーナもやってみる?」


「うん」


「教えてあげる! まず牡蠣をこうやって持つの。で、ここからこうやってナイフを入れて、こうガッガッガッてやってから、最後にこう!」


 ペトラが実演しながら説明する。


「ナイフを入れて、ガッガッガッで、こう!」


 ニーナが説明の通りに行った。

 すると、固く閉ざされていた牡蠣の殻がパカッと開いた。


「やった!」


 思わず声を弾ませるニーナ。

 初めてまともに作業ができて嬉しかった。


「ナイス!」


 ペトラがグッと親指を立てる。


「もう1個、殻を剥いていい?」


「もちろん! 手分けして全部の殻を剥くよ!」


「でもそんなに食べられるかなぁ……」


「大丈夫! 私は牡蠣ならいくら食べても満腹にならないから!」


「ペトラってそんなに牡蠣が好きなの?」


「大好きだよ!」


「そうだったんだ」


 ペトラが牡蠣好きであることをニーナは知らなかった。

 なぜならペトラは、公爵令嬢だった頃にその話をしていないから。


 これはペトラが、牡蠣というより生牡蠣が好きであることが理由だ。

 貴族が食べる牡蠣は、健康面の配慮から必ず加熱処理がされている。

 生牡蠣を食卓に並べた場合、調理担当者はお叱りどころでは済まない。


 その為、令嬢だった頃のペトラは、大して牡蠣を食べていなかった。

 彼女にとって、牡蠣に加熱処理を施すのは邪道なのだ。


「ニーナ、ここから自分の分を取って」


 大きな皿に生牡蠣の山が出来上がる。

 ニーナは小皿を手に持ち、言われたとおりに牡蠣を何粒か取った。


「私はこの牡蠣をテーブルまで運ぶから、ニーナは自分の牡蠣を加熱してから来てねー!」


 ペトラが牡蠣の山が盛られた大皿を両手で持つ。


「えっ、ペトラ、牡蠣を生で食べるの?」


「もちろん!」


「加熱しないと危険だよ」


「いいのいいの! 牡蠣で食当たりになることは慣れているから!」


「えええ……」


 ニーナは愕然とする。

 最初はペトラが冗談を言っているのだと思った。

 しかしすぐに本気だと分かった。

 ペトラが生牡蠣の山を眺めて涎を垂らしているからだ。


「生で食べても死なないの……?」


「死なないよ。でも、当たると最悪だよー! 下痢と嘔吐で凄いことになる! だからニーナは加熱して食べてね」


「…………」


 ニーナは迷った。

 牡蠣を生で食べるなんて想像したこともない。

 本当に大丈夫なのだろうかと不安になる。


 それでも――。


「私も生で食べる!」


 ――ニーナは加熱しないことを選んだ。


 これはペトラに対する対抗心からではない。

 ペトラに対して尊敬に近い感情を抱き始めているからだ。

 庶民が貴族の格好や所作を真似するようなもの。


(いつの間にか……いや、違うわね。私はずっと昔から、ペトラのようになりたいと思っていた。今になって、その気持ちを素直に認められただけ)


 ペトラは驚き、真剣な顔で言った。


「やめておいたほうがいいよ。この世界の生牡蠣は当たりやすいから」


「この世界?」


「あ、いや、この世界じゃなくて、この国って言ったの!」


 慌てて訂正するペトラ。


「それより生はオススメしないよ! 危険だって!」


「でも、ペトラは生で食べるんでしょ? しかもそれだけの量を」


「そうだけど」


「だったら私も生で食べる! 食べたい!」


「……どうなっても知らないよ?」


「覚悟の上だよ」


「そっか」


 ペトラがニッと笑う。


「だったら一緒に最高の生牡蠣を堪能して、そして明日は地獄を見るぞー!」


「おおー! 地獄は見たくないけど」


 こうして二人は生牡蠣を食べるのだった。

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