表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/67

046

「ペトラ・カーペンタリア、そなたの発明したデミグラス牛乳は、我がバーランド王国の食生活に革命をもたらした。その功績を讃え、ここにそなたを我が国の重要無形文化財に認定する」


 バーランド王国の王城にある謁見の間にて、ペトラは重要無形文化財の認定を受けていた。


 重要無形文化財は俗に「人間国宝」と呼ばれるもので、国で多大な功績を残した者が認定される。人間国宝になると、他国へ移動する際に追加の手続きが必要になる反面、国から特別年金が支給される等、文字通り国宝として扱われる。


 今回、ペトラの他にも、デミグラス牛乳の元となるデミグラスソースの開発者として、クライス・アレサンドロも重要無形文化財に指定された。しかしクライスは、自由に他国を往来したいという理由により、国からの打診を辞退。ペトラだけが認定されることとなった。


「今後も……ゲホッ、ゲホッ……我が国……ゲホッ……尽くして……ゲホッ」


 国王が玉座に座ったまま、跪くペトラに言葉を掛けようとする。だが、とめどなく咳が出るせいで、まともな言葉にならなかった。


「ゲホッ、ゲホッ」「ゲホッ、ゲホッ」

「ゲホッ、ゲホッ」「ゲホッ、ゲホッ」

「ゲホッ、ゲホッ」「ゲホッ、ゲホッ」


 咳はペトラの左右でも留まることなく起きている。国王以下、国の重鎮である大臣連中がこぞって咳き込んでいるのだ。

 この場で咳き込んでいないのは、国王の代理で認定の言葉を読み上げた官吏と、壁際に等間隔で配置された兵士達、それにペトラくらいなもの。


(大丈夫なのかしら……)


 ペトラは国王達の様子が気になって仕方なかった。


「ゲホッ!」


 国王が玉座の隣に立っている代弁の官吏に向けて手で合図する。

 官吏の男は終了の旨を告げ、ペトラに謁見の間を出るよう促す。

 ペトラは不安そうな顔をしながらも、静かにその場を後にした。


 ◇


「あの、すみません、よろしいですか」


 王城を発つ前、ペトラは適当な官吏を捕まえて尋ねた。

 国王達の容態はどうなっているのか、と。


「申し訳ございませんが、それについてはお答えできません」


 それが官吏の返事だった。

 官吏の他に、城内で働く給仕にも尋ねてみた。


「たしかに最近、陛下や大臣様を中心に酷い咳が見られますが……詳しいことは分かっておりません」


 給仕の返事も官吏と同じようなものだった。


(何かが起きているみたいだけど、私の出る幕ではなさそうね)


 ペトラには前世の知識がある。

 内容次第ではその知識が活かせるかも、という思いがあった。

 だが、現状では首を突っ込む余地がない。


 ペトラは用意された馬車に乗り込み、王都を発った。


 ◇


 バーランド王国の重鎮が謎の咳で揺れている頃――。


「ガハアッ!」


 ポロネイア王国の国王グラドン・ポロネイアは重篤状態にあった。

 先日まで元気だったのが急変し、かつてない高熱にうなされていた。更には吐血し、全身の毛穴からも血が出ている。純白だったはずのベッドが赤く染まっていた。


「父上!」


 グラドンに寄り添うのは、王子のルーク・ポロネイア。


「どうにかならないのか!?」


 ルークの怒声が響く。

 彼の周囲には、ポロネイア王国でも指折りの名医が集まっていた。


「駄目です。原因が分かりません」


 医師達は魔法を使ってグラドンの状態を解析する。

 しかし、どれだけ調べても異常が見当たらなかった。


「どうしてこんなことに……!」


「ルーク……」


 グラドンの虚ろな目がルークを捉える。

 口の端からは血がこぼれていた。


「父上!」


「無念だが……儂は……これまでのようだ……」


「そんな! 何を弱気なことを!」


 ルークがグラドンの手を握ろうとする。

 何があるか分からない為、医師達は慌てて制止した。

 病の中には、体液に触れることで感染するものも存在する。


「この国のことは……頼んだ……ぞ……」


「父上! 父上!」


「…………」


「父上ェエエエエエエエ!」


 ルークが泣き崩れる。

 その時、兵士が血相を変えてやってきた。


「大変です! 地下の独房から重要監視対象者の男が脱獄しました!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ