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041

 その夜、王宮の食堂で話し合いが行われることとなった。

 ぎこちない空気の中、皆で食事を楽しんだ後のことだ。


 人払いを済ませた食堂には5人だけが残った。

 ナッシュ、ルーク、ニーナ、ザイード。

 そして、ポロネイア王国の国王グラドンだ。

 席次は上からグラドン、ナッシュ、ルーク、ザイード、ニーナの順。


「国王陛下、王子殿下、お時間を作っていただきありがとうございます」


「気にしないで結構。こういった場を設けたということは、既にバーランド王国のほうでは何かしらのストーリーが完成しているのじゃろう。まずはそのことをお教えいただけるかな?」


 ナッシュは「いえ」と笑う。


「なーんにも考えておりません」


「「「「えっ」」」」


 ナッシュの言葉に全員が驚く。

 それまで抜け殻のような有様だったルークですら驚いた。


「この場に集まってもらったのは、こちらを見てもらいたいからです」


 ナッシュが懐から1枚の紙を取り出した。

 丁寧に畳まれたその紙を開いてグラドンに渡す。

 グラドンはそれを黙読すると、顔を真っ赤にした。


「こ、これは本当か!?」


「裏取りは済んでおります。なんでしたら、この場で証言させることも可能です。もっとも、その必要はないかと思いますが」


 ナッシュが渡した紙には、事の真相が書かれていた。

 王都で捕縛した連中から聞き出した全てである。

 噂だけではなく、幻術を使ったペトラの不貞行為に関することも。


「な、何が書かれているのですか? 父上」


「お主も読んでみろ」


 グラドンが紙をナッシュに渡し、ナッシュがそれをルークに渡す。

 紙を読んだルークの顔は、グラドン以上に赤く染まった。

 水を掛けたら一瞬で蒸発しそうな程に、その顔は熱を帯びている。


「ナ、ナッシュ殿、これ、この、この内容、真実だろうな?」


「間違いありません。私や私の兄、それに私の父にかけて断言しましょう。なにせ私達は直接聞いたのですから。パピクルス家が抱えている工作員から」


 この発言で、ニーナとザイードは察した。

 紙に書かれている内容について。

 二人の顔面は一瞬にして真っ青に染まる。


「ザイード、ペトラの不貞行為というのは、うぬらが仕組んだものだったのか? 賢者に依頼し、幻術をもって偽りのペトラを生み出し、不貞行為を演出した」


「な、なななな、何を仰っておるのか、さぱぱぱ、さっぱりでございます」


 ザイードは酸素不足の金魚のように口をパクパクさせる。


「白々しい。嘘か真かは魔法を使えば分かること。私が今から魔法を使って彼らに真実の自白をさせましょう」


 ナッシュが立ち上がる。

 そして魔法を発動しようとした時、ルークが制止した。


「ナッシュ殿のお手を煩わせるつもりはありません。魔法による自白の強要は私にもできる。必要であれば私が行いましょう」


 ルークがニーナを見る。


「ニーナ、何か言うべきことはあるか?」


「…………」


 ニーナは何も答えない。

 頭の中ではこの場を切り抜ける方法について考えていた。

 が、答えが見つからない。

 どれだけ考えても、切り抜ける方法が見つからないのだ。


「そ、そそ、そういえば、ニーナが賢者を雇ったと言っていました!」


 ここでザイードが保身に走る。

 全ての罪をニーナに被せて、自分は責任逃れをする腹だ。

 それに対して、ニーナは否定も肯定もしなかった。

 何を言ったところで結果が同じだと分かっていたから。


「残念だがザイード、その言葉は通用しない。お前の工作員から得た情報によると、お前達は親子で不貞行為の演出に関与している。バーランド王国で広められた噂についてはニーナの単独犯だが、それ以外はお前も絡んでいるはずだ。もしもその情報が間違っていると言うのであれば、魔法を使って自白を強要することとなる。知っていると思うが、魔法による自白の強要には副作用がある。脳を魔力で操作するのだからな。運が悪ければ廃人になるだろう」


「グッ……」


「それでも尚、お前は自分が無関係だと言うか?」


「それは……」


 ザイードは観念した。

 もはやザイードとニーナの頭に無罪放免の言葉はない。

 あるのはどうやって罪を軽くするか、というものだ。

 情状酌量の余地を認めてもらう術だけを考えていた。


「どうしてなんだ!」


 声を荒らげたのはルーク。

 彼はニーナを強引に立たせ、襟首を両手で掴む。

 彼女の体を激しく左右に揺らして、何度も「どうして」と叫んだ。


「お前はペトラの親友だろう! 唯一の親友だ! 俺の親友でもあった! なのにどうして! どうして裏切ったんだ! ペトラを嵌めて、更には今回の噂! いったい、なんでなんだ! ニーナ!」


 ニーナの目に涙が浮かぶ。

 それは演技ではなく、本気の涙だった。


「……ですよ」


「なんだって?」


「ルーク様が、私を見てくださらないからですよ!」


 涙を流しながらルークを睨むニーナ。


「私の方がペトラよりも先にルーク様に恋をしていた! 私の方が早くルーク様にアプローチしていた! 私はいつもルーク様のことを考えて、見てもらおうと努力していた! でも、ルーク様は私を見てくださらなかった!」


「ニーナ、何を……」


「だから嫉妬したのです! ペトラと親しくしていたのも、ルーク様との接点を増やしたかったからに他なりません。本当はペトラのことを好きと思ったことなど一度もない!」


「…………」


「どうして私じゃ駄目なんですか!? ペトラが追放された後も、ずっと尽くしたじゃないですか! どうして! どうしてなんですか!? 私はどうすればよかったのですか!?」


 ニーナは思いの丈をぶつけた。

 これで少しは刑が軽くなるかも、という思いはある。

 あるけれど、それはとても些細なものだ。

 今を逃すと気持ちを伝えるタイミングがない。

 そう判断したからこそ、彼女は胸に秘めていた言葉をぶつけた。


 誰もがルークに視線を注ぎ、次の言葉を待つ。

 実際には数秒なのに、悠久にも感じる沈黙が場を支配した。

 そして、ルークがおもむろに口を開く。


「君の気持ちに応えられなかったことは……申し訳なく思う」


 ルークはそこで区切り、「だが」と続けた。


「だからといって、君や公爵がしたことは見過ごせない。君を暴走させた原因が私にあるのは事実だろう。それでもだ。それでも、国家に対する反逆行為であることに変わりはない。その罪は償ってもらう」


 ルークがグラドンを見る。


「父上、明日の朝、緊急招集をかけましょう。二人の処遇はその時に決めるのが良いかと」


「そうじゃな――では、今宵はこれで解散とする」


 グラドンとナッシュが静かに食堂を出ていく。


「後悔のないよう、残り少ない時間を過ごすといい」


 そう言い残すと、ルークもその場を出て行った。


「お前のせいだぞニーナ! 全てが上手くいっていたのに! お前のくだらない恋心が台無しにしてしまった! このバカ娘が!」


 怒り狂ったザイードは、衛兵に止められるまでニーナを殴り続けた。


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