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037

 盗賊が館に侵入した時、ペトラとナッシュは館の二階にいた。

 正確にはペトラの寝室だ。二人共そこにいる。

 外の気配に気付いたナッシュは、少し前にペトラの部屋へ移動していた。


「やはり来たか。思ったよりも数が多いな」


「ど、どうすればいいの?」


 ペトラはベッドの上でビクビク震えている。

 今にも心臓が張り裂けそうな程の恐怖を抱いていた。


「大丈夫。連中は油断している。やりようはあるさ」


「油断しているとか分かるの?」


「迷わず中に入ってきたのがその証拠さ。家の中は狭いから、数の利を活かすのが難しいんだ。連中が油断していないなら、外から脅していたはずだ。出てこなければ館を燃やすぞ、とか言ってね。そうして出てきたところを捕縛する。これなら数の利を活かせるし、負傷するリスクを減らせる」


「たしかに……!」


 放浪王子として活動するにあたり、ナッシュは戦闘技術を身につけていた。

 そしてその技術は、こういった狭い場所での戦いでこそ活きるものが多い。

 住居に夜襲を受けることなど最も想定されるトラブルの一つだから。


「奴等はそろそろ上に来る。話は終わりだ。ペトラ、君はベッドの下に隠れていろ。賊は俺が返り討ちにしてやる」


「大丈夫なの? たくさんいるんでしょ?」


「大丈夫さ、たぶんね」


 ナッシュは腰に装備している鞘から剣を抜く。

 名匠によって研ぎ澄まされた刀身がキラリと光った。


「死なないでね」


「安心しろ。俺は強い。君の元婚約者よりもね」


 ペトラがベッドの下に潜るのを確認してから、ナッシュは部屋を出た。

 廊下をスタスタと歩いて行く。


「いたぞ! 放浪王子だ!」


「剣を構えてやがる!」


「王子様が俺達とやり合おうってのか」


「者共かかれ! 殺さない程度に痛めつけろ!」


 一階を捜索していた盗賊が続々と二階に上がってくる。

 既に二階にいる盗賊達は、仲間を待たずにナッシュへ襲い掛かった。


「お前達の敗因は俺の強さを見誤ったことだ!」


 ナッシュは盗賊の攻撃を軽やかに躱し、的確に反撃を繰り出す。

 一人、また一人と、彼の峰打ちによって盗賊が気絶していく。

 殺さずに済ますのはペトラの館を血で汚さない為だ。

 盗賊に対してではなく、ペトラに対するナッシュの思いやりだった。


「ひぃいいい!」


「なんだこいつ!?」


「なんで王子なのにこんな強いんだよお!」


 その後もナッシュは危なげなく敵を返り討ちにしていった。

 そして、最後に盗賊のリーダーを倒し、無傷の大勝利を収めるのだった。


 ◇


「今後はこの牧場に警備を最低でも20人は配置するように。館だけでなく家畜も守ってくれ。町の兵士だけで足りない場合は王都に要請して派遣してもらえ。その際は俺の名前を使ってくれてかまわない。それではよろしく頼む」


「「「ハッ! かしこまりました!」」」


 盗賊達は身柄を拘束され、衛兵に引き渡された。

 まだ夜明けだというのに、ペトラの牧場は騒然としている。

 多くの兵士がせわしなく動き回っていた。


「ナッシュ!」


 館の外で話すナッシュのもとに、ペトラが駆け寄ってきた。


「戦いが終わったらそう言ってくれないと! 外に出ていいのか分からなくてずっとベッドの下で震えていたんだけど!」


「いやぁ、悪い悪い。戦い自体は1時間以上も前に終わっていたんだが、その後の手続きに時間をくってしまってな」


「もう! 心配したじゃないの!」


 ペトラは素早くナッシュの全身を両手で叩いていく。

 まるで何かを隠していないか探るかのように。


「ペ、ペトラ、何をしているんだ?」


「怪我をしていないか調べているの! あれだけの数と戦ったんだから、無傷でピンピンしているなんて信じられないもの!」


「そんな心配は不要さ。見ての通り無傷だ。それに、もしも傷を負っていたとしても、戦闘が終わると同時に回復魔法で治しているよ」


 まだ何かを言いたそうにするペトラ。

 だが、ナッシュの「それよりも」という言葉によって、彼女は口をつぐんだ。


「予定を変更する。俺は今から王都に向かうよ。事態の収束は早ければ早いほうがいい。しばらくの間は兵士達が警備を担当するから安心してくれ」


「分かった。でも、少しくらい休憩しなくて大丈夫なの?」


「問題ないさ。俺の馬は王国で最も速いからな。昼には王都に着くだろう」


「それは凄いね。気をつけてね、ナッシュ」


 ナッシュは「おう」と頷き、愛馬のいる馬小屋に向かった。


 ◇


 朝が来て、昼になり、それも過ぎた。

 夜、王都の某所にて。


 そこには、大きな円卓があった。

 7つの席が等間隔に設置されている。


 円卓には6人の男が座っていた。

 彼らの漂わすムードはピリピリとしたものだ。

 互いに顔を見ることなく静かに座っている。

 最後の席を埋める者の到着を待っていた。


 壁際には大量の兵士がずらり。

 全方位から監視の目を光らせている。

 バーランド王国において、最も厳重に警備された場所だ。


「おっ、ちゃんと揃っていますね」


 そこに1人の男が入ってきた。

 6人の男を招待した主催者――ナッシュだ。


 ナッシュは空いている席に腰を下ろす。

 これで円卓を囲む席が埋まった。


「お前に声を掛けられたら断るわけにもいかないだろ」


「俺達の誰もがお前に支持してもらいたいと考えているからな」


「その通り。お前の支持があれば、次期国王の座は固い」


 円卓に囲む男達から、口々に声が上がる。

 彼らの正体は、ナッシュの兄――バーランド王国の王子達だ。

 王位継承権を持ち、次期国王の座を巡って争っている6人の王子。

 ナッシュを含めて全ての王子がこの場に揃っていた。


「お兄様方は話が早くて助かりますよ」


 ナッシュがにこやかな表情で言う。


「さっさと用件を話せ。雑談するほど我等は暇じゃない」


 第1王子が言うと、他の王子が頷いて賛同する。

 ナッシュは「分かっておりますとも」と笑顔で返した。


「では本題に入りますが――」


 ナッシュの表情が一変する。

 柔らかな笑顔が消え失せ、真顔になった。


「ペトラ・カーペンタリア。又の名をペトラ・ポナンザの件で話があります」

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