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 ルークは、失恋のショックを引きずりながら帰っていく。


 心の中は後悔の念でいっぱいだった。

 しかし、後悔というのは後からやってくるもの。

 どれだけ悔いたとしても、元に戻すことはできない。


 ポロネイア王国へ向かう馬車の中、ルークは放心状態だった。

 虚ろな目で客車内の天井を眺めている。

 半開きの口からは、小さな声がぶつぶつと漏れていた。


 その横で、ニーナは密かに笑みを浮かべていた。


 ◇


 ニーナは時間の許す限りを牧場の見学に費やした。

 牛舎、鶏舎、果てには牛乳機に鶏卵機まで。

 ありとあらゆるものをくまなく調べた。


 その結果、ニーナが得たものは何もない。

 既に知っている情報以上のことは得られなかったのだ。

 デミグラス牛乳の秘密は分からずじまいである。


 そのことには絶望した。

 てっきり牧場内を視察すれば何か得られると思ったからだ。


 そこでニーナは、思い切ってペトラに尋ねた。

 どうやったらデミグラスソース味の牛乳になるのだ、と。


 ペトラの回答は「分からない」だった。

 彼女の口から語られた製法は、ニーナが知っているものだった。


 ニーナはペトラのことをよく知っている。

 だから、ペトラの回答が嘘ではないと分かった。

 そうなると、ニーナにできることは何もない。


 結果、ニーナは諦めた。

 デミグラス牛乳の模倣品を作ることを。


 とはいえ、魔物牧場についてはこれまで通り経営する。

 一流の人材と設備が集まっている為、収支は余裕の黒字なのだ。

 今後の経営権を父に移譲し、伯爵家の経済基盤に加えることとした。


 少し前までなら、諦めるという選択肢はなかった。

 その選択が出来たのは、ルークがペトラに振られたからだ。

 ペトラの性格上、ルークと復縁することは二度とない。


 今後はじっくりと攻略していけばいい。

 ルークの傍に居続ければ、いずれ上手くいくはずだ。

 もはやペトラを意識し、彼女の上位互換になろうとする必要はない。


(他の女は近寄らせない。ルーク様は私が必ず……!)


 ニーナはそんなことを考えていた。


 ◇


 ルークが帰った日、ペトラは枕を濡らした。

 久しぶりに顔を見て、声を聞いたことで、ルークを思い出したのだ。


 ルークとやり直す未来も考えた。

 公爵家に戻り、ルークと婚約し、未来の王妃になる。

 この半年に及ぶ日々を無かったことにする道だ。


 それも悪くはない。

 貴族社会は息が詰まるけれど、誰もが憧れる華やかさがあった。

 自分の為に作られた煌びやかなドレスは、着るだけで心が弾む。


 そんな道を、ペトラは斬り捨てた。

 ルークに対して以前のような愛情は湧いていない。

 そういう感情が残っていたら、おそらくは公爵令嬢に戻っただろう。

 たくさん泣いたけれど、後悔はしていなかった。


 ペトラが歩むのは、カーペンタリア家の道。

 小さな魔物牧場をマイペースに経営していく地味な道。

 休むことが許されないブラック企業も真っ青の過酷な労働の道。


 それでも、ペトラはその道を選んだ。

 ペトラ・カーペンタリアとして生きていく道を。

 ペトラ・ポナンザは、もういない。

第1章はこれで終了です。

3月から第2章が始まります。

応援してくださると幸いです……☆

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