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002

 ニーナ・パピクルスは最高に幸せな気分だった。

 ペトラと対をなすような青く長い髪を揺らして王城内を歩く。


(まさか婚約破棄のみならず追放までされるなんてねぇ!)


 ニーナは長らくペトラのことを嫌っていた。

 公爵家の令嬢でありながら、権力に興味を示さない素振りがむかつく。

 それなのにもかかわらず、ちゃっかりルークと婚約したのもむかつく。

 2人の婚約が「真実の愛によるもの」などと言われているのもむかつく。

 それになにより、自分など眼中にないと言わんばかりの態度がむかつく。


 ――早い話が嫉妬だ。

 ニーナはペトラに嫉妬していた。


(ペトラが消えた今、ルーク様は私のモノ!)


 ニーナの容姿は、ペトラに劣らぬ美しさ。

 ペトラとニーナのことを「王国の二大美女」と呼ぶ者も多い。

 ペトラが消えた今、王国の美女と言えばニーナしかいなかった。


(容姿も地位も全ては私が頂点……! もはや私に敵う女などいない。やはり私こそがこの世界の主役なのだわ)


 リズミカルな足取りで、ニーナは目的地を目指す。

 彼女が目指しているのは、城内にあるルークの私室だ。


 トントン。


 扉をノックするニーナ。

 すると中から「入れ」という声が聞こえた。

 ルークの声だ。


「失礼します!」


 ウキウキで扉を開けるニーナ。

 中にはルークの姿があった。

 警護の騎士や側近の姿は見当たらない。

 二人きりだと分かり、ニーナの心が躍る。


「ああ、ニーナか、どうした……?」


 ルークの顔には疲労の色が浮かんでいた。

 ペトラと関係を断ち切ったことに深く傷ついているのだ。


 ルークにとって、ペトラは最愛の女性だった。

 この女の為であれば、自分は全てを差し出せると思った。

 だからこそ、彼女の不貞行為を許すことができなかった。


「今晩、お食事にでもいきませんか?」


 ニーナは満面な笑みで誘う。

 彼女の想定するルークの回答は、「いいよ」か「分かった」の二択。

 つまり、断られることはない、と踏んでいたのだ。

 しかし実際は違っていた。


「悪いがそんな気にはなれない。大事な女性を失ったばかりなんだ」


 ニーナは虚を突かれる思いがした。

 それでも、彼女は諦めずに食い下がる。


「ルーク様、それほど気に病むことはありませんわ。不貞行為を働いたペトラが悪いのです。どれだけ表面を取り繕ったとしても、不貞行為を働いたということが真実なのです。そんな女を思って心を痛める必要などありませんわ」


「そんなこと分かっているさ。それでも私はペトラを愛していたのだ。今でもあれはなにかの間違いだったではないか、と思っている。それほどまでに愛していたのだ。たしかにペトラは私の思っていた女性ではなかった。だからといって、今すぐに他の女性と食事をしようという気にはならぬ」


 心の中で舌打ちするニーナ。

 それと同時に、あんな女の何がいいのよ、と不満を抱く。

 もちろん、そんなことはおくびにも出さない。


「分かりました。では、本日はこれで失礼いたします。ルーク様の調子がよろしくなりましたら、私をお呼びください。私はペトラと違い、不貞行為などいたしません。ルーク様だけを想っております」


「想ってくれるのは嬉しいけれど、期待はしないでもらいたい。この心に出来た傷を癒やすには、膨大な時間がかかるだろうから。もしかすると、何年、何十年とかかるかもしれないから」


「…………失礼いたします」


 ニーナはくるりと身を翻し、部屋を出て行く。

 その顔は怒りに染まっている。

 何度も、何度も、ギギギギギと歯ぎしりをした。

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