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015

 魔物牧場を経営したいと申し出るニーナ。

 それに対して、父のザイード伯爵はネガティブな反応を示した。


「ペトラの国外追放以降、ポナンザ家には勢いがない。ゲンドウは愛娘を切り捨てることで自身の地位を保ったが、それでもツケが回ってきておる。目先の利益を追求するあまりコストカットを断行し過ぎたツケがな。奴が公爵の座から落ちるのも時間の問題じゃ。今は静観するのが良かろう」


 ニーナは納得できなかった。

 首を横に振り、強い口調で言う。


「お父様はそれでいいかもしれませんが、私は駄目です。何も得ていません。それに、ルーク様は未だにペトラを想っています。このままでは、私とルーク様が結婚することは出来ませんよ」


「たしかにお前とルーク王子が繋がれば、当家の力は揺るぎないものになるじゃろう。しかし、お前の話を聞いて、実際にこの目で見た限り、ルーク王子はお前のみならず、他の女ともくっつく気がないようだ。となれば、仮にお前がルーク王子と繋がらずとも、恐れるに足らん。他の貴族とも繋がらないのであれば、当家の圧倒的な優位性が揺らぐことはない」


 ザイードは冷静に状況を分析する。

 その分析は、鶏卵機の検卵よりも正確だった。

 ニーナもそのことは分かっている。

 分かっているが、認めることはできなかった。


「では言い方を変えましょう。私に協力してくださらなければ、私は国王陛下に全てを話します」


「なに!?」


「ペトラにしたことだけでも、私達は厳罰を免れません。法外な報酬で賢者に依頼し、幻術を用いてルーク王子を騙したのです。更にはルーク王子の婚約相手であるペトラを貶め、国外追放と婚約破棄に追い込んだのです」


「ニーナ、貴様……」


「まだあります。ペトラを極悪人且つ不埒な女に仕立て上げる為、国境の関所で働く兵長を買収しました。それに対しては失敗に終わりましたが、それでも、買収した事実は変わりません」


「それは貴様が……」


「関係ありません。お父様は知っていて協力しました。その時点で同罪、いや、伯爵なので私よりも遥かに罪は重い」


「娘の分際で儂を脅そうというのか!」


 ザイードが怒鳴る。

 何事かと慌てて飛び込んでくる使用人。

 ザイードは「失せろ!」と使用人に八つ当たりする。

 使用人が消えて執務室の中が2人になると、ニーナは言った。


「お父様、私とお父様は一蓮托生なのです。片方が何かをしたいと望めば、もう一方はそれに協力するしかありません。自分だけ上手くいったのでおしまい、とはいかないのです」


 ニーナは前に進み、ザイードとの距離を詰める。

 そして、上目遣いでニヤリと笑った。


「逃がしませんし、容赦しませんよ。たとえ相手がお父様でも」


「ぐっ……!」


 ザイードに断る術はなかった。

 ニーナの脅しが本気だと知っているから。


 ザイードは、ペトラの実父ゲンドウとは違い、ニーナを大事に育ててきた。

 貴族社会がなんたるかを教え、そこで戦う術も教え込んだ。

 なぜなら彼は、ニーナを政略結婚の道具で留まる器とは見ていないから。

 ニーナには、自分の後を継いで伯爵になってもらいたい、と考えている。


 その甲斐あって、ニーナはザイードの思った通りに育った。

 負けず嫌いで、欲しいと思った物はどんな手を使っても手に入れる。

 弱さを見せるのは家の中だけであり、外にでれば気丈に振る舞う。


 そんなニーナが、ルークを欲している。

 諦めろといって諦めることはない。絶対に。


(恋愛なんぞという庶民的なことをしやがって、顔だけのぼんくら王子が)


 ザイードは大きなため息をつく。

 ルークが女たらしなら、と心から思った。

 だが、そんなことを嘆いていても事態は変わらない。


「仕方ない……!」


「では、牧場の経営に協力してくださるのですね!?」


「そうするほかに道がないからな」


「ありがとうございます! お父様!」


 ニーナがザイードに抱きつく。

 ザイードは再び大きなため息をついた。


 こうして、ニーナは牧場経営に乗り出すのだった。


お読みくださりありがとうございます。

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