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文明の発達した星で区役所に行った

 拠点を持って数日、アセロスフィアの実家にはしばらく家を開けると伝えて、俺たちはミリスお嬢様の行ってみたい場所へゲートをつなげては観光を楽しんでいた。

 お嬢様のいるフォイエルバッハ領はエッセン王国という国にある。

 エッセン王国は今いる大陸の西側に位置し、東側は敵国であるカシム帝国が支配している。

 国力は五分五分といったところで、国境付近では小競り合いがよく起こっているそうだ。

 観光は主に、自国内で行ったことがないところへ行ってきた。


「行きたいところには大体行ったわね。しばらく留守してたから仕事が溜まってるわ。残念だけどしばらく旅行はお預けね」


 ミリスお嬢様は、将来フォイエルバッハ家を継ぐ立場なので、若いながらも小さな領地を与えられて将来のために政務を学んでいるそうだ。

 俺たちはさしあたりの恩返しが出来たと思ったので、拠点も出来たしそろそろ別の星へと行ってみようと考えていた。


 アカシックリングで環境がアセロスフィアと大体同じで、自分たちと似た姿の人が暮らしている文明のもっと発達した国で検索してみた。

 それにも何件かヒットしたので、そのうちの一つをアースツーと名づけてやすらぎの庭のメンバーでそこに行ってみることにした。

 行き先で換金する目的で精錬後のミスリルを一定量頂き、アカシックリングで、できるだけ平和な国を検索してそこにゲートをつなげた。

 行き先のカリン国は前世の日本と同じく島国で、隣国と国境が接していないため比較的平和であるということのようだった。


「うわあ、見たこともない街並みだわ」


 ソーラーパネルのようなものが設置されている屋根の家が多い。

 街路樹も綺麗に整備されており、人工物と自然のバランスも考えられているようだ。


「道路は青い石が敷き詰められているね」


 あれは前世にもあったコンクリートだろうか。

 ただ、道路交通法的なものを示す光る石もコンクリート上に見かける。

 すると、前からこの星の住民と思われる人が歩いてきたので声をかけてみることにした。

 万能言語能力を意識して声をかける。


「こんにちは」


「はい、こんにちは」


 茶髪で茶色の虹彩を持ったほとんど俺たちと同じ見た目の女の人が挨拶を返してくれた。

 

「私たちは旅のものなのですが、この宝石を換金出来る場所って近くにありますか?」


「あらまぁ、綺麗な宝石ね。国民ICカードは持っているかしら。現金を扱っているところは少ないわよ」


「国民ICカードというのはどこでもらえるのですか?」


「区役所でもらえるわよ。あなたたち、どこの国の人かしら?ここらではあまり見ない顔立ちね」


「信じてもらえるかはわかりませんが、私たちは別の星からやってきました」


「冗談がお上手ね、変わった恰好をしているから信じてしまいそうだわ」


「冗談ではありません。アースワンという星のエッセン王国からやってきました」


 アセロスフィアはここからは異世界にあたるのでアイテムボックス内にある星を名乗ることにした。


「何言ってるの。そんな星聞いたこともないけど、言葉が通じてる時点で冗談だとわかるわよ」


「言葉は私が神様に与えられた能力なんです。他の3人はまったく言葉はしゃべれませんよ」


「神様?なに、宗教の勧誘?それなら間に合ってるわよ。さようなら」


 おばさんはそういうと足早に去っていった。


「この国はうちらでいう冒険者証みたいなものにお金を仮想的に入れて管理してるみたい。区役所で国民ICカードというものがもらえるらしいから今からもらいに行こう」


 アカシックリングで区役所の場所を調べ、歩いていける距離にあったのでゲートは使わずに歩いて行くことにした。

 区役所に着くと、入り口は自動ドアだった。


「うお、扉が勝手に開いたぞ」


 カイが自動ドアに驚いている。


「感知能力をもったアーティファクトがあって、それで誰かがきたかがわかるようになっているんだよ。俺の前世にもあった仕組みだ」


「そ、そうなのか。吃驚したぞ」


「カウンターに並ぼう。携帯PCを持ってない人はここで整理券をとる必要があるみたいだな」


「携帯PCって何なんだ?」


「俺もよくはわからないけど、おそらく計算や通信ができるアーティファクトだと思ってもらえばいいと思う。アカシックリングの機能縮小版みたいなものだろう」


「なるほど、なんかよくわからんがすごそうだ」


 俺たちは25番の整理券をとった。


「これは25番と書いてあるだろ?あそこに今21って書いてあるから、あの数字が25になったら順番がくるんだと思う。あ、数字も読めないか。まぁあと4,5人まってればいいってことだ」


 俺たちはしばらく順番を待った。先に待っていた人達がはけていく。


「すみません、国民ICカードを発行して欲しいのですが」


「外国の方でしょうか。発行は初めてですか?」


「はい、そうです」


 別の星から来たというとややこしくなりそうなので話を合わせることにした。


「携帯PCはありますか?」


「持ってないです」


「では、こちらの脳波測定器で必要事項は読み取りますので、ここに頭を近づけてください」


「ちょっと待ってください、先にトイレに行かせてもらえませんか」


「仕方ないですね、トイレはあちらです」


 トイレに向いながら、アカシックリングで脳波測定器について急いで調べる。

 氏名、年齢、住所など基本的な情報を読み取る装置のようだ。

 必要以上のことを読み取るのはプライバシーの侵害にあたるので禁止されているようで少し安心する。


「みんな、ちょっとトイレに行くがせっかくだからこっちのトイレにもなれておいた方がいい」


「すいません、この外国の女の子2人はこっちのトイレ初めて使うので使い方を教えてやってくれませんか」


 トイレの前にいた人は親切にもお願いを聞いてくれた。

 俺はカイをつれてトイレに行く。


「こっちは小のほうで、個室が大のほうだ。小の方はここにするだけだからわかるな」


「ああ、って、立っただけで水が流れたぞ。これもアーティファクトなのか」


「そうだ。個室の使い方を説明するからこっち来て」


「わかった」


「えぇと、トイレットペーパーはあるな。まずここに座って用を足すんだが、最初にこのペーパーをとってここで殺菌成分の入った液体をシュッとつける。そして座るところを拭いてから座って用を足せ。用を足したらまたこのペーパーをとってお尻をふいて最後にこのボタンを押して流すこと」


「このボタンは何なんだ?」


「そこは、説明を省いたところだが、水流でお尻を流してくれるボタンだ。その隣のボタンが停止ボタンになっていて流し終わったら押すように。その隣は乾燥ボタンだ。興味があるなら一度使ってみると良い」


「トイレのほうがお前に向って小便をするのか、すごいなこの星は」


「まぁ小便じゃなくて綺麗な水だけどな。まぁゆっくりしていてくれ。俺は登録に戻る」


「わかった」


 俺はカウンターに戻った。


「すいません、途中で時間あけてしまって」


「いえいえ、漏らされても困りますからね。ではここに頭を入れてください」


 俺は脳波測定器に頭を入れた。


「ケイ・リーフノートさんね。年齢は16歳。住所は」


 俺はアセロスフィアではなくエッセン王国のほうを思い浮かべた。


「えっ、エッセン王国?聞いたこともない国ね。データベースにもないわ」


「信じてもらえるかはわかりませんが、実は私たち、別の星からやってきたんです」


「えええぇぇぇ!!宇宙人ってこと!?えっ、カリン語をしゃべってるけど何で?」


「私は神様に、いろんな国の言葉を操るギフトを頂いているんです」


「神様!?神様がいらっしゃるの?それじゃメカリン語でおはようは何て言う?」


「「おはよう」です」


「それじゃ、スダチ語でこんにちはは?」


「「こんにちは」です」


 こんなやりとりを10ヶ国ほど続けた後、受付嬢は信じてくれたみたいだ。


「すごい、まさかこんな人がいるなんて。でも不思議ね、宇宙人にしては私たちと姿がほとんど同じだわ」


「姿形が自分たちとほぼ同じ星を検索してから来ましたからね。それは当たり前のことなんです」


「宇宙船はあるの?どうやってこの星へ?」


「宇宙船はないですが、私の魔法で来ました」


「魔法!?もしかしてあなたは神様か何かですか!?」


「魔法も神様から与えられたものです。それよりも国民ICカードは作れるのでしょうか」


「カード、ああ、そうだったわね。ちょっと上とかけあってくるから待っててください」


 受付嬢は興奮気味にカウンターの奥へと向って行った。

 しばらくしてアリス、カイ、メグがトイレから戻ってきた。

 

「何よアレ!アセロスフィアとは違いすぎるわ」


「びっくりしたよー。あとおばさんもすごいやさしく教えてくれたわ」


「その話は後で聞くから重要なことを言うよ。この後この機械に頭を入れてもらうことになるんだけど、住所を聞かれたときはエッセン王国のフォイエルバッハ領を思い浮かべてね。じゃないとややこしいことになるから」


「わ、わかったわ」


「カイもメグも頼むな」


 そうしていると、もっと年をとった上の立場の人と思われる人がやってきた。


「にわかには信じられんが、宇宙人というのは君たちか」


「はい、そうです。何なら私たちの星と魔法でつなぎましょうか?」


「そんなことができるのか、出来るもんならやってみてくれ」


 俺はフォイエルバッハ領の拠点へとゲートをつないだ。


「こちらを通って頂ければ私たちのいる場所にいけます」


 受付嬢と上司の方がゲートをくぐった。


「おい、GPSが無反応だ、そっちはどうだ?やはり別の星なのか?」


「こっちのGPSも無反応です」


「動画撮影しておけよ。こんな経験はなかなか出来ないだろうからな」


「わかりました。ちなみにこの星と私たちの星は何光年離れているかわかりますか?」


 俺はアカシックリングで検索してみた。アースワンとアースツーの距離はっと。


「500光年ぐらいですね」


「500光年!何てことだ」


 この後、一旦ゲートからは戻ってもらった。


「私たちはこの星をアースツー、我々の星をアースワンと呼んでいます」


「そちらの3人も別の星の出身なんだよな」


「はい、そうです」


「わかった。特別製の国民ICカードの発行を許可する!」


こうして、諸々の手続きをへて、俺たちは国民ICカードを手に入れた。



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