フォスの街、そしてダンジョン
俺たちはフォスの街へとやってきた。
トライの街へ入ったときと同じく街の門の入場待ちの列に並び、冒険者証を見せてから入場した。
街の規模は王都セブンスに近づくにつれてだんだんと大きくなっている。
フォス、ゴバン、クスーシの街は隣接していて、トライの森などの街と街の間に存在する森のようなものはない。
街と街を結ぶ街道とは垂直な方向に森や山、草原地帯、ダンジョンなどが存在する。冒険者たちはそこで活動しているらしい。
そうこうしているうちにフォスの街のギルドに到着した。
クエストボードを見てみると、捕獲依頼は存在しないみたいだったが、フォスのダンジョンの調査という依頼が存在した。
俺たちが受けられる依頼は3FまでがランクD、6FまでがランクCの依頼として存在した。
「ダンジョンの調査、受けてみる?」
「一度は経験しておきたいわね」
「3Fと6Fまでがあるけど、3Fまでのほうでいいよね?」
「そうね、6Fまでだと泊りがけの調査になるだろうしまずは簡単なほうからでいいと思うわよ」
「あたしもそれでいいよ、兄やんもそれでいいよね?」
「ああ、無理はしないでいこう」
意見もまとまったところで依頼表を持って受付へと向かう。
「すみません、この依頼を受けたいんですけど」
「ダンジョンの調査ね。ここ最近フォスのダンジョンで魔物が普段より多く見つかっているの。また、本来その階にいない魔物も出現しているみたいだから、どの階にどんな魔物が出たかを調べて欲しいというのが依頼の内容ね。根本的な原因の調査はもっと上のランクの依頼で対応するから、あなたたちにはどういう魔物が出現したかを記録して帰って欲しいの。依頼の期限は1週間、報酬は10万セリスよ」
「わかりました。元々出現する魔物のリストなどはありますか?」
「ええ。これが資料。3Fまでの地図も描いてある。3FまではEランクまでの魔物しか出ないはずだけど、今は状況が変わっているからDランクの依頼になってるわ。気をつけて」
「ありがとうございます。準備ができ次第向かいます」
もらった資料を眺めてみると、1Fはケイブバット、2Fはそれに加えてフォスラット、3Fではさらに加えてフォスもぐらが出現するらしい。4FからはDランクのブルーウルフ、5Fでコボルドが出るようだからこれらのモンスターも出現するかもしれないと頭の隅にでも入れておくとしよう。
街でアリスと二人分だった野営道具を予備も含めて6人分揃え、マジックライトの魔道具を買い、非常食として街の食堂の料理を1週間分スロウボックスに入れた。
また、ポッポーは今回やくに立てないのでアリスの実家に置いてきた。
「初めてのダンジョンってわくわくするわね」
ダンジョンに向かいながら、アリスが少し興奮した様子で言う。
「ケイのアイテムボックスのおかげで荷物が少なくてすむのがいいね」
「ケイが荷物を持つからケイを守る陣形で攻略していこう。一応各自最低限の食料と水は持つことにして、前衛はカイ、中衛はケイとアリス、後衛がメグでいこう」
カイが提案してくれる。
俺もそれが妥当かなと思ったので頷いておいた。
南端のジマリーノの街から王都セブンスまでは南北に伸びた街道が走っており、フォスのダンジョンは街の東側にある。
話をしているうちにダンジョンに到達した。
ダンジョンの入り口には警備の人がつめている場所があって有事に備えるのと、ダンジョンに入っている人の管理もしているようだ。
「すみません、ダンジョンの調査の依頼を受けてきたんですけど」
「ああ、ギルドから話は聞いている。4名だな、気をつけていって来い」
受付の警備の人に見送られてダンジョンに入っていく。
マジックライトの魔道具は、魔石を使うか魔力をこめておくと一定時間光ってくれる道具だ。
ダンジョンが真っ暗だったときのために準備してきたが、ダンジョンの壁にはヒカリゴケとでもいうべきコケが光を放っているのでライトはなくても大丈夫そうだった。
「キキー!」
天井付近からコウモリのようなモンスターが襲ってきた。あれがケイブバットだろう。
「ソードエンチャント、ファイア」「クロックアクセル3」
カイが剣に炎を纏わせる魔法を使ったようだ。かぶせるようにして加速の魔法を唱えた。
一瞬で3体のケイブバットは葬り去られ静寂が訪れる。
すぐに俺はクロックアクセルを解除した。
ケイブバットはスロウボックスに放り込んだ。
「びっくりしたけどそんなに怖くはないな」
「引っかかれる前に退治できたね、兄やん」
「少々引っかかれてもまぁ大丈夫だけどな」
ダンジョンは1辺が100mぐらいの正方形に近い形をしており、南の入り口から入って北東に階段がある。
俺たちは俺の空間把握とキューちゃんの索敵が出来るので最短路を進みながら索敵をして新しい敵がいないか調べながら移動した。
「ケイブバットしか出なかったねー」
「この階ではまだ異変はないみたいね」
「次の階へレッツゴー!」
メグが元気だ。
地下2Fへの階段を下りると索敵に新たな反応があった。
「この先の曲がり角の先に多分フォスラットとフォスもぐらがいる!」
「キューちゃんの索敵じゃ、フォスもぐらはわからないみたいだわ。気をつけて」
フォスラットは噛み付き攻撃と体当たり、フォスもぐらは地面からの引っかき攻撃をしてくる魔物だ。
どちらも弱いがフォスもぐらは不意を付かれると危険だ。
「カイ、頼む。クロックアクセル3」
「任しとけ。ソードエンチャント ファイア」
曲がり角にカイが先行していく。
フォスラットはすぐにカイに切り伏せられたが、フォスもぐらは地面に潜っていてなかなか出てこない。
カイがわざと後ろを向き隙を見せると地面がモコモコっとしてフォスもぐらがひっかき攻撃をしてきた。
後ろにも注意を向けていたカイが、一閃。
フォスもぐらを一刀両断した。
「フォスもぐらは本来3Fから出る魔物だよな。注意していこう」
その後もフォスもぐらとはエンカウントしたが、加速したカイの敵ではなかった。
「いよいよ3Fだな。一通り回ったら帰ろう」
3Fになるとケイブバットは出現しなくなり、フォスラットとフォスもぐらの他にブルーウルフも現れた。
やはり本来よりも下層の魔物が出現するようだ。
「ブルーウルフが3体こっちにやってきてる。全員で迎え撃つよ。テイムはどうする?」
ブルーウルフは大体グリーンウルフと同じ強さの魔物だ。
グリーンウルフのほうが攻撃力が高くブルーウルフのほうが敏捷性が高い。
「テイム、試してみよっか。1匹は捕まえて」
「わかった。クロックアクセル5」
クロックアクセルの後の数字はおなじみ倍率だ。今回は5倍速で俺、カイ、メグにかけた。
カイがすばやく2体を攻略し、俺とメグは最後の一体を捕まえにかかる。
突進してきたブルーウルフを横にかわし後ろ足を捕まえて上に持ち上げた。
メグが噛み付かれないようにメイスで牽制している。
「汝、我が呼び声にこたえ、我と同じ時を歩まん。テイム!」
アリスがテイムの呪文を唱えた。俺たちは加速しているので低い声でゆっくりと聞こえて来るのでちょっとじれったい。
逆さづり状態のブルーウルフの下に魔法陣が現れるとブルーウルフは少し大人しくなった。
「ほらー干し肉だよ。美味しいわよ」
ブルーウルフは干し肉を食べると魔法陣が収束していった。
「わふ!」
「そうね、君は今日からウーフよ。よろしくね、ウーフ」
アリスは従魔の証であるリボンをウーフの首に結んだ。
これを最後に、俺たちはダンジョンの来た道を戻り、フォスのギルドに報告しに行った。
ダンジョンはやはり異常事態が発生しているそうだ。
でも俺たちは深入りはしないことにした。王都が待っているからな。
今回、一度はダンジョンも経験しておきたかったから調査依頼を受けたが、やはり生き物をやっつけるというのはなかなか慣れない。
今後も出来るだけ生き物を殺さないで済む依頼を受けたいものだと俺は思ったのだった。




