幻の天使の軌跡
―――とあるテストパイロットの話
ああ、あのパイロットの話か……
そう懐かしげに語る彼は元空軍のエースパイロット――元敵国のだが
彼と出会うまで、彼があのパイロットと交戦したということを知るまで長い時間が必要だった。
この話は前の戦争の最終局面、首都防衛戦の真っただ中鋭い飛行をする形式不明の謎の戦闘機のを見たという子供の話から始まる。
最初この子の話を聞いたときは興奮で記憶が書き換わっているだけだろうと思っていた。
しかし、その時首都にいた人々と話す機会があるとかならずその話を聞くことになった、見たこともない丸みを帯びた戦闘機が天使のようにひらりひらりと舞い踊り敵機を落としていく、たった一騎で戦況を覆してしまうのではないかという思いを抱かせた戦闘機の話しを。
まず私が初めこの話を信じなかったのは子供が言うことというのもあるが、その戦闘機の外観が滑らかな曲線によって形成されていたと話していたからだ。
というのもこの国の戦闘機は今も昔も柔らかい見た目ではなく、平面によって構成された、カクカクとした武骨な見た目が特徴だからだ。
話を聞いていくうちにこれだけの人々を魅了する戦闘機、そしてその機体を操っていたパイロットの魅力に私も引き込まれてしまった。
それから少し経ち戦時機密文書が公開され、私は軍関係の機密文書を読み漁った。
そうしていくうちにある気になる文書を見つけた。
ただの受領証であったがその品名が問題だった。
――陸軍向試作戦闘機
その文字を見つけた時心が躍った。
戦時中空軍の試作戦闘機が設計されているという話を聞いたが結局完成されることはなく終戦を迎えた。
その中極秘のうちに設計、製作され完成された陸軍戦闘機があったなんて。
とはいえその戦闘機の引き渡し日は終戦の数日前、焼け石に水だ。
その戦闘機に関することは本当に最高機密であったようで、添付されているはずの設計図や受領検査証を見つけることはできなかった。
確かに陸軍の作った戦闘機なら今までの戦闘機とは全く違う特徴を持っていてもおかしくはない。
もし本当にあの日首都防衛戦に加わっていたなら航続距離を考えると陸軍飛行場からの出撃は考えにくく首都近郊の空軍基地を間借りしてそこから出撃したはずだ。
空軍の知人に頼み込み、当時その基地で働いていた兵士を探してもらった。
数週間後友人から連絡があった。偶然一緒に仕事をした人が、当時その基地所属だった飛行隊で整備兵をやっていたらしい。すぐに連絡すると偶然近所に住んでいるらしく、数日後バーで会う約束を取り付けた。
その元整備兵と話す日が来た。彼はかなり年老いていて戦争の時も退役寸前だったが退役させてもらえずに働かされたといっていたが、話を聞いていると仲間が心配で軍をやめることができなかっただけのようだった。
数杯酒を飲み交わし話も弾んできたところで例の試作機について聞いてみた。
彼は数舜思いを巡らせるよう目をつぶったあとゆっくりと口を開いた。
「その試作機っていうのは丸っこくて見たこともない形をした陸軍さんのかい?どこで聞きつけたんだいそんな情報」
いままでの経緯を話すと。
「熱心なこった、当時は最重要機密らしく口外厳禁の命令が下っていたんだがまぁその軍も一回潰れて新しくできたようなもんだしもういいだろう。」
「あの機体は首都決戦の2日ぐらい前に基地に来てな、当時まったく見たこともない機体に空軍の試作機だとか、鹵獲した最新の戦闘機だとか基地中話題になったんじゃ。」
「夕食の時偶然その機体のパイロットと一緒になって話を聞いてみたんじゃが、なんとその試作機を設計した本人だったらしいんじゃ」
設計者がパイロット?聞いたことないぞ
「やつは相当飛行機が好きだったらしく、元々空軍のパイロットだったんじゃが辞めて自ら戦闘機の設計を始めたらしい。」
「知り合いに飛行機メーカー勤めがいたらしくその設計図を持ち込んだところめでたく採用、試作されたらしい」
今まで聞いたこともない話だ。
「奴は本当にその機体が好きだったらしく次の日その機体に招待され、隅から隅まで説明された」
「あの機体のラインは本当になめらかで美しかった、内部の機構も今まで見たことのないものばかりだった」
「飛んでいた姿は最後のあの日だけだったが本当に美しかった天使が飛んでいるようだった」
そう彼はしみじみと、心の底からそう言った。
その後とある人物の連絡先をらった。
その人物とは元敵国のエースパイロット……
以前戦後交流会で偶然出会ったらしい。
先に連絡を入れておいてもらえるらしいので数日開けて連絡を取ることにした。
その数週間後元エースパイロットと彼の家で会うことになった。
それが冒頭部分。
彼はその機体についていろいろ語ってくれた。
機体形状は自国の戦闘機でも見たことがないような特異な形状だった。しかしその姿は一度見たら忘れられないような天使のような姿だったと。
その機体が戦闘空域に進出してきた数分後、気が付くと何機もの味方機がやられ戦況がひっくり返されそうになったこと。
そうして彼はその機体と戦うことになったらしい。
「確かにあの機体はクレイジーだった、ひらひらと天使が舞うように射線をかわし、少しでもミスをすると悪魔のようにけつを狙ってきやがる、機体を理解し機体と一体となってないとできない奴だ」
「長い戦闘歴の中でも一番苦戦した戦いだったのに一番楽しかった。一生忘れられない思い出だね。」
それでもあなたはその機体を倒したんでしょう?というと
「あれは俺の勝ちじゃねぇ奴が勝手に落ちたのさ、試作機ならそんなことがあってもおかしくはねぇ無理に戦線投入したならなおさらだ」
相手のパイロットを見たかと聞くと、そんなもんみえるわけがねぇといわれたが笑っているのが見えた気がしたともいった。
彼が知っているのはあの機体の機動と最期の原因だけ、それ以上は彼は何も知らない。
その後も何人かに話を聞いたがこれ以上の話を聞くことはかなわなかった。けれども誰の口からも語られる彼らは美しく人を魅了しているという点だけは一致していた。
あの戦闘で墜落するその機体からパイロットが脱出したのも、墜落した瞬間も誰も見ていない。
パイロットがだれだったのか、今生きているのかも誰も知らない。
あの機体はどんな機体だったのか。パイロットはどんな気持ちで飛び、墜落していったのか……
その見た目と機動で人々を魅了し、消えていった。
その軌跡は人々の心の中を飛び続けるのだろう。
久しぶりの一次創作
思い付きで書いたうえ推敲も何もしていないので分はぐしゃぐしゃですが読んでくださりありがとういございました