草いきれ
人の血を吸った草木はとうの昔に枯れた。
わたしらはなにも知らぬ。若葉のころよりただ風に吹かれるままに、この世はいかに狭いものだろうと周囲を見回しておった。
人が来て、悠久の草木だなどと感慨にふけるが、わたしらはさほど長く生きているわけでもない。そういうものもあるにはあるが、奴さんはなにも覚えていまい。人の血を吸った想い出など、あの馬鹿でかい根っこを伝って、とうの昔に土へと消えたにちがいない。
それでも人がここへ来て、みないちように兵どもの夢を見ては去っていくのだから、この世はいかに狭いものだろうと感じさせる。
今日もひとり、すべてを知りつくしたような悠久の人間が、風に吹かれるわたしらを眺めて詩を詠んでいったよ。