047出港
まだ出来て新しいのか、2隻の船は立派で頑丈そうに見えた。カイザ王子が口笛を鳴らす。
「これは乗り心地が良さそうだ。ではジョナサン殿、ありがたく頂戴するとしよう。皆、半分に分かれて乗るんだ。まずは橋桁を架けるように」
ジョナサン総督が進み出た。
「お待ちください、カイザ王子。これらの船は我がマンプク王国が保持する財産です。勇者として魔王を倒しに行くのは良いのですが、目的を果たした如何にかかわらず、ゲップ国王陛下と共にご返却くだされねばなりません」
「ふむ。それは当然だな」
「従いまして、もし王子殿下がお許しくださるのであれば、このジョナサンと部下2名――オヨグとミズカクも国王陛下に随行させていただけませんでしょうか。殿下一行がもしもの場合、陛下と片方の船だけでもこの港町ポートに帰還できるように」
勇者カレイドが割って入った。
「そんなこと言っておめえら、俺たちの帰りの足をなくす気じゃねえか? おめえらは魔王の側と通じているしな。信用できねえ」
ジョナサンはあくまで低姿勢で、承諾が得られるまで引き下がろうとはしないらしい。
「この港町は商人の街です。王都で何があったか存じませんが、魔王一派とここの人々とは無関係です」
巨漢のウーザイも話に入ってきた。
「ヒロが言うには、首都の警備隊隊長エライングは蜘蛛の化け物に変身して襲いかかってきたそうだ。あんたもそうした『魔人』の1人なんじゃねえのか?」
「そうでないことを証明することはできませんが……。もしその場合は私たちを殺してくださって結構です」
カイザ王子が手を叩いた。
「もう良い。ゲップ国王は魔王のダンジョンまで人質として連行する。ジョナサン総督らはついてきたければついてくるがいい。ただし上陸後は船の中で待機してもらう」
若き海軍指揮官とその部下たちは、うやうやしく一礼した。
「ありがとうございます。では日が暮れる前に出港しましょう」
馬は数頭だけ船に乗せた。馬車は捨て、ジョナサン総督が急いでかき集めた食料と水を積み込む。どうやらこの世界に六分儀はないらしく、航行の目印は月や星の位置と島影だけのようだった。
カイザ王子と勇者カレイド、それぞれの船に均等に人員が配置される。
前者にはゲップ国王と広院、戦士イナーズ、狩人シトメールやマンプク王国海軍のオヨグにミズカクが。
後者には俺やアクジョ、探検家カパラウや僧侶ナオス、戦士ウーザイ、ジョナサン総督が。
それぞれ他の冒険者や従者たちと共に乗り込んだ。総督の話では、風にもよるが、だいたい半日ほどの航海で魔王の大陸にたどり着けるという。先にカイザ王子の船が、後ろにカレイドのそれが続く形で、月明かりの中出港した。
「あなたは外で寝なさい」
「へっ?」
思わず変な声がもれる。アクジョは同室の床で眠ろうとした俺に、即時の退去をうながした。俺は反発して、敷きかけた布を手に抗議する。
「何でだよ。この前まで『あなたは私の従者であり所有物なのよ。物が欲情したりしないでしょ? だいたいこの状況で男も女もないじゃない』――とか言ってたじゃないか」
「うるさいわね」
アクジョは頰を赤らめて詰め寄ってくると、俺の襟首を掴んで無理矢理立たせた。
「1人で眠りたいの。あなたは、そうね、船室の前で見張り代わりに雑魚寝してなさい」
「何だよそりゃ」
「いいから早く。私は疲れ切っているのよ」
俺は彼女に押し切られ、扉の外に閉め出された。ご丁寧にかんぬきもかけられる。俺が何度かドアを叩いて抗議しても、一切応答はなかった。
「ちぇっ、何だよ、アクジョの奴……」
俺はぶつくさ言いながら布を抱えると、寝床を求めて船内を探索する。さすがに女装で――周囲に女と思われている状態で、廊下に寝られるわけもなかったのだ。
俺はさまよい歩いて甲板に出た。微風の中、勇者カレイドとジョナサン提督が船首寄りの位置で何やら喋り合っている。舵を受け持っているのは冒険者『船乗り』のアヤツル――女版ウーザイと言うべきか――だった。前方にカイザ王子艇が見える。
広院は王都での救出劇ですっかりカイザ王子との仲を深めた。今頃は彼とよろしくやってるんだろうな、我が妹は……。
「うええええっ」
突然の異音に驚いて視線を向けると、真横でウーザイが船外へ吐いていた。船酔いしたらしい。
「大丈夫か? ウーザイ」
俺が声をかけると、「何、これぐらいへっちゃら……」とまた派手に戻した。こいつは海には向いていないな。
「では、私は先に休ませていただきます」
勇者カレイドに辞去の礼を告げ、ジョナサン総督は船内に引き下がっていった。俺は代わりにカレイドに話しかける。
「どうですか、首尾の方は」
「ああ、ヒロお嬢ちゃんか。さっきジョナサンと話してたが、あんまり風がねえんでノロノロ進まねえって愚痴を言い合ってたところさ。……どうした。眠れねえのか?」
「いや、寝床がないもので……」
「何だそりゃ。お前、アクジョの従者じゃなかったのかよ」
「そうなんですけどね」
ふと、俺は尋ねてみた。
「カレイド様は勇者ですが……そもそも勇者っていうのは一体何なんでしょうか? 冒険者ギルドの試験をパスしたから勇者?」
無精髭の男は笑った。
「正確には違うな」
そして彼は語り出した。




