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第2話 姉さんが捕まった

後半にリリー目線があります

「はぁっ!」

 姉さんは槍の石突きの辺りを逆手で持ち、左足と右手を同時に出して、こっちに突っ込んできた猪の首辺りを突いて今日三頭目をしとめた。

 相変わらず力任せが多い。二人しかいないのに三頭。どうするんだろう? まぁ、町に帰る時に出会っちゃったから仕方ないけど。

「ミエル。槍もって」

 そう言って僕の方に石突きを向けて、槍を渡してきた。

「これ重いんだから、重心を考えて渡してよね」

 渡されて掴んだけど、穂先が地面に結構深くめり込んだ。重いし鋭いしで、本当見た目より恐ろしい槍だよなぁ。

 そして血の出てない一頭を首に、マフラーみたいに巻き、さっき倒した一頭は足を掴んで引きずり出した。相変わらず母さんやお爺ちゃんみたいに馬鹿力だよなぁ。

 僕なんか父さんに教えてもらった、一人で獲物を運ぶ方法でなんとか運んでるのに。



「ミエルー。ギルドの討伐依頼の通行書を出して」

 町の門に着き、姉さんがそう言いながら背中を向けてきたので、右上についているポーチから通行書を取り出す。

 本当、背中側に付けるって発想がすごいよなぁ。後ろにいる味方が自由に取れる様にって事らしいけど、壁に寄りかからない限り邪魔に感じないし。遠出するつもりもないから、荷物はあまり背負ってないから取りやすい。

 父さんはどこからそんな発想が出てきたのか……。根本的な所が違うんだろうな。


「ゴブリンみたいな、畑とかを荒らす弱い魔物退治じゃないのか? なんで猪なんか」

「ゴブリンの鼻はありますよ。ただ、帰り際に出会っちゃっただけで」

 僕は腰に付けていた袋を外し、ポーチから通行証を出して姉さんの分も一緒に出した。

「確かに。討伐ご苦労。そいつを肉屋に売れば、久しぶりに猪の肉が食えそうだ。あそこに売っちまえよ。そうすれば隣の食堂が買って、明日の夕食には俺の胃の中だ」

「そうね。門の近くの肉屋って、こういう時に便利よね。先行ってるわよ」

「はは、じゃあ失礼します」


 こんな感じで町の周りで魔物狩りをしたりして、一定のお金が貯まったら日持ちする食料を買い、移動するを繰り返した。

「あー、この村父さんが言ってた村だね。特徴がそっくりだ。何かあったら麦をかなり安く売るから、この村は食べる分の麦だけで、何か果物でも育ててくれってなったんだっけ?」

「そうね。ベリルと似たような近隣の寒村の開拓とか、井戸掘りなんか手伝ってたって言ってたし。なんか頑固な人が一人だけ猛反対してて、ひと悶着あったとか寝る前に話しててくれたわね。それにしても本当に広いわね」

 馬車で移動中に幌の外を見ると、もの凄く広い果物系や野菜の畑がずっと続いていて、麦もあるみたいだけど極端に少ない。

 自分達の村の分だけ育てて、もし足りなかったらベリルから買い、果物関係は町や近隣の村に売り歩き、かなり裕福な村になったとか。


「あ。多分だけど、あれって蒸留所じゃないかしら」

「そうだろうね。大きさも形も似てるし。リンゴとかブドウでベリル酒を作ってるって言ってたね。風味とか香りが違うんだって」

「嬢ちゃん達。良く知ってんな。口振りからしてベリル村出身か?」

 姉さんと話していたら、乗り合ったおじさんが話しかけてきた。

「えぇ、そうなの。ついこの間旅立ったばかり」

「へぇ、そいつは……。冒険者かい? そんな事しなくても、あの村は豊かだろうに。ずいぶんと威勢がいいんだな」

「子供の頃からの夢だったのよ。おじいちゃん達も冒険者だったし、話を聞くのも好きだった。だからかしら?」

「けど父親は開拓手伝いって感じで話してたけど、良く反対しなかったな。畑を守れとか言われなかったんか?」

「反対はしてましたが、子供の夢は極力かなえたいって言ってた人でしたので。結局僕達の良き先生ってな感じで、生きる術をどんどん教えてくれました。本当に感謝してます」

 僕は軽くナイフの鞘をさすり、なんだかんだで嫌々稽古に付き合ってくれた、父さんの事を思い出した。


「ずいぶんと心の広い親父さんだねぇ。俺の親父もそんなんだったら良かったんだけどよ。ちまちま開拓して手に入れた畑を守れだの広げろだの。まぁ、お前達のオヤジさんがこの村に来なかったら、俺は一生貧しい生活してただろうな。ここで止めてくれ! へへっ、アレが俺の家だ。最近採れる量が増えたブドウを売ったり酒にして、貯まった金で家をこの間建て替えたばかりなんだよ。今じゃガキだって三人もいる。町に行って買い物してきたんだ。ガキにみやげも買える余裕って奴だな。もし生きて帰れたら、お礼でも言っておいてくれ。猛反対してた頑固な人ってのは俺のオヤジだ。今じゃ酔う度に、あいつの言ってた事は正しかったって言ってんだぜ? 粘り強く説得してたのを若い時に見てるからわかるが、目の色と目元がそっくりだ」

 そう言っておじさんは馬車の後ろから飛び降り、軽く手を挙げて見送ってくれた。



 そして何日か馬車で移動して、夕方にテフロイトと言う大きな街に着いた。何でも僕達が産まれる前まで人族と戦争してて、最前線から一番近い街って事で軍人関係の人が多く、門の警備の人も厳しく、そして見た目が怖かった。

 なんか雰囲気が違うんだよなぁ。やっぱり人族とか殺した事があるんだろうか?

 けど父さんも殺してるはずなんだけどなぁ。なんでこんなにまで違うんだろうか?

 しかも門の前で軍隊が隊列を組んで訓練していたし、戦争が終わっても準備だけはしっかりとしているみたいだ。

 規律とか訓練の違い? だから威圧感が凄いんだろうか?

「姉さん。ギルドの場所を調べてくるか、宿の部屋を取るの、どっちがいい?」

「なんでいちいち私に聞くのよ……」

 姉さんは目を細めて、呆れた様に言ってきた。

「いや、どっちも血の気の多い人が多そうだし。姉さんはそういう人達から喧嘩とか買いそうだから、僕が一言言ってから選んでもらう。二人で行動すると非効率でしょ? ギルドは場所を見てくればいいけど、なんか狩りから戻って来た冒険者が通りに多い。そして宿屋は、部屋を取ったら奥の食堂で待ってる時に、ちょっかいを出してきそうな男をあしらう事ができるか」

「ならギルドね。面倒なのは嫌いだから」

「なら僕はあそこの宿にいるから、荷物は……持てるかな?」

 僕は宿屋を指し、姉さんから荷物を預かり、リュックを体の前後で持つようにして宿屋に向かった。



 僕を女だと思って、ちょっかいを出してきた男をあしらう事数回、男だとわかって声をかけてきた、女性の誘いを断る事十回ちょい。門の近くで大きいし、兵士さんも冒険者も多い。

 姉さんにギルドの確認に行ってもらって助かった。何回も声をかけられたら不機嫌になるし。

「この宿屋にミエルという男はいるか!」

 そして姉さん遅いなーと思い始めた頃に、なんか鎧を着た犬系の獣人族の兵士さんが入って来て、一階の酒場と食堂が一緒になっている場所で叫んだ。

「僕がミエルです。何かありましたか?」

 お酒を飲んで騒いでいたり、夕食を食べていた人達が一瞬で静かになったが、ため息をついてから立ち上がって要件を聞いた。

「……確かに特徴は合っているな。お前の姉と名乗る女が、ギルド前で騒ぎを起こした。悪いが罰金刑だ、それと身元引き受けを頼む」

 僕は盛大にため息を吐き、額を押さえる。

「ちなみに罰金はいくらでしょうか?」

「しょっぴかれた者は、一律で銀貨五枚か五日の留置だ。むしろ金を払って引き取って欲しいのが本音なんだが……。金はあるか?」

「理由をお聞きしても?」

 なんで兵士さんが、引き取る方を強く進めてくるのかがわからない。理由が知りたい。僕としては反省して欲しいから、五日くらい入ってて欲しいんだけど。


「素手で五人相手に無傷で勝利。変に落ち着きがあり、素直で小慣れてる感じがして気分が悪い。ああいうのは牢屋内で騒ぎを起こす前に引き取って欲しい。ちなみにまだギルド前で抑留(よくりゅう)しているのでこう言っている」

「あぁ、僕が来なかったりしたら牢屋と……。わかりました、財布を持って来ますので待っていて下さい」

 僕はもう一度盛大にため息を吐き、財布を取りに戻り、大勢の人に見られながら鍵をカウンターに預け、兵士さんについて行った。


 そしてギルド前に着くと、通りには屈強そうな男達が四人倒れていた。血は出ていないみたいだけど……。やり過ぎじゃない?

 そして槍を向けられたまま壁を背にして、大人しくしている姉さんがいた。本当に落ち着いていて妙に怖い。

 ってか目が小刻みにずっと動いていて、ちょっとした兵士の動きや、遠巻きに見てる冒険者の動きを見ているみたいだ。

 あと一人はどこだ? 五人って言ったよな? あー、ギルドの中で倒れてる。

 アレが五人目か……。むしろ一人目なんだろうなぁ……。

「確かに姉か? 別人ではないな?」

「えぇ。誠に残念ですが姉です。他人であって欲しかった」

 僕は大きくため息を吐き、財布から銀貨五枚を取り出し、既にある程度書かれていた書類にサインをして姉に寄っていく。

「まぁ、言い訳もあると思うけど、とりあえず違反金は払ったし宿に帰ろう」

「そうね。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

 そう言って自分の槍とナイフを左手で受け取り、向けられていた槍を右手で軽く払いのけ、笑顔で人混みの中につっこんで行くと、自然と人が避けていった。何したんだよ姉さん……。

 そんな中を僕は、少しだけうつむき気味について行った。


□ リリーside


 私はミエルと一度別れギルドに向かうが、街ってなだけあって賑わっていた。

「角の生えたお姉ちゃん、串焼き安くしておくよ」

「ごめんなさい。人を待たせているの」

 露店の人に声をかけられたらこんな感じでかわし、ギルドの場所を確認したので帰ろうと思ったけど、ちょっと仕事の質や内容が気になるわね。ちょっとだけ覗いてみようかしら?

 そう思ったらもう足が動いており、ミエルとの約束はちょっとだけなら平気だと思ってギルドの中に入り、壁に掛かっている仕事の内容を確認する。


 街なだけあって仕事は多いけど、塀の中の雑務が多過ぎるわね。私は狩りや討伐の仕事がしたいのよねぇ……。

「嬢ちゃん新顔だね、なに、一人? 俺達のパーティーに入れてやろうか? ……おい、無視か――」

 そんな声をかけられ、無視して出入り口に向かうが、肩に手を置かれたので右側に振り向きながら肘で手を払い除け、そのついでに顎先を狙って頭を揺さぶるようにし、裏拳を入れたら男はそのまま気絶した。

 思ったより弱かった。

 そして一瞬で騒がしかったギルドの中が、静かになって全員が私を見ていた。

「あら、ごめんなさい。肩に手を置かれたからつい手が出ちゃった。それにしても……。見た目と違って――」

 全部言っちゃうと挑発してるように聞こえるし、そこで言葉を区切って出て行こうと思ったけど、ここまで言ったなら全部同じよね。

 少しだけ反省しつつ、そのまま出て行こうとしたら、殴った人の仲間だと思う人達が、怒ってこっちに走ってきたので振り向き、出入り口に背を向けたまま下がる様にして外に出る。


「てめぇ。俺の仲間に暴力振るっておきながら、詫びの一つもねぇのかよ! ってか声をかけて手を置いただけじゃねぇか」

「女性にいきなり触るのは無礼だと思うわよ? そういう男には容赦するなってお母さんとお婆ちゃんに教わってるの」

 そのまま振り返らずに、向かいのお店とお店の間の壁に背を向けつつ男達と対峙するけど……。五人と野次馬か。まぁ、なんとかなるわね。

「今謝るなら、一晩可愛がってやるだけで勘弁してや――」

 私は足下に落ちてる瓶を軽く男に蹴り上げつつ素早く近寄り、腕で振り払って利き腕が伸びている瞬間に掴み、手前に引きながら足をかけて転ばせる。

「私を力でどうにかしたいなら、多少の覚悟はしておいた方が良いわよ? こいつみたいに」

 私は仰向けに寝てる男の顎先を軽く蹴って、脳を揺さぶって気絶させる。


 そんな事をしていたら男達が引きつった笑いになるが、こっちに来る気配はないので、ため息を吐きながら宿屋の方に歩き出すと、後ろの方にいた大柄な男がこちらに歩いて来た。

「嬢ちゃん、俺は一応そいつ等とは顔見知りで、知ってると思うがこの家業はなめられたらお終いなところがある。恨みはないが多少痛い目にあっ――」

 そんな事を近くで言い出したので、喋っている間にポケットに手を入れて、買い食い用に入れてある銅貨十枚を全部つかんで思い切りそいつの顔に投げつける。

 そして顔を押さえている、男のふくらはぎの辺りを思い切り振り抜くように蹴ると、その場で回るように舞い、地面に頭をぶつけて白目になって気絶した。

「なに? ここの男は全員酔ってるの? 私はさっさとご飯を食べて寝たいんだけれど?」


 別に挑発する気はなく、本当の事をそのまま言ったら仲間の二人が襲いかかってきたので、足の速い方のお腹を前蹴りで吹き飛ばし、殴りかかってきた奴の拳を右手で掴んで少し力を入れる。

「襲いかかってきた奴は、一応敵って事で処理するようにしてるんだけれど。一人だけ仲間外れは可哀想だと思わない?」

「い、いや。そんな事はねぇぞ? は、ははは。申し訳なかった。ゆるし――」

 握っていた拳を外にひねりながら引っ張っると、男は左手で右手を掴んで耐えていたので、手を離して払う様に顎を軽く殴るとそのまま仰向けに倒れ、周りから歓声が聞こえだした。


「そこの貴方、真っ先に一緒に出てきたから仲間なんでしょ? ヤるならさっさとして、それかこいつ等の処理をお願い」

 倒れてる男達を指してそう言うと、凄い勢いで頭を縦に振り出したので、銅貨を拾ってその場を離れようとしたら、兵士さん数人が槍を向けてこちらを睨んでいた。

「女! その武器を捨てて手を上げろ!」

 村では経験がなかったけど、これが牢屋の一歩手前ってやつかしら? ここで逆らうと面倒くさいってお爺ちゃんが言ってたわね。

 とりあえず言われた通り、私は左肩に担いでいた槍を置き(・・)、銅貨は諦めて数歩下がって手を上げる事にした。


「大切な槍なの。捨てるんじゃなくて、置かせてもらったわ。待って」

 一応説明はするが、直ぐに武器を取り上げようと兵士さんが近寄ってきたのでソレを止め、私は背中側の腰に付いているナイフを逆手で抜き、刃の方を持って兵士さんに向ける。

「はい、ナイフよ。刃こぼれはしないと思うけど、大切な物だから投げたくはないのよ」

 余計な事はあまり言わず、とりあえず無抵抗を主張しておき、従ってればある程度穏便に進むし、面倒事は減らせる。だったかしら? 本当お爺ちゃん達は、どのくらいこんな経験をしたのかしら?


「おもっ!?」

 ナイフを受け取った兵士さんが、槍を拾う時にそんな事を言い、他の人と同じくらい下がっていった。

「まず名前だ、そのまま動かずに言え」

「リリー。名字はないわ」

「証明できる物は?」

「腰のポーチにギルドカードが入ってるわ。出す? それとも取りにくる?」

 一応向こうは、優位に立ちたいから高圧的になるって話は本当ね。ソレを聞いてなければイライラしていたかも。

「取り出してナイフみたいに前に出せ。肘打ちされたらたまらん。疑わしい動きはするなよ」

 あぁ、そういう警戒もするのね。確かにこのまま肘を下げればそうなるわね。

 そう思いながらも、私は右手でポーチに手を入れ、カードを摘むようにして前に出す。


「確かに。……ランク4!? ほぼ新人!? 嘘だろ? なのにこいつを気絶させたのか!?」

 兵士さんがそんな事を言うと、辺りがザワザワとし始め、なんか一気に騒がしくなった。なんか有名な人なのかもしれないわね。

「パーティーを組んでいるとか、一緒に行動している者は? いないなら宿泊先を教えろ」

「正門から入って直ぐの宿屋よ。ミエルって名前の弟がいるわ。特徴は長い白髪で三つ編み、私より少し背が高くて、同じ赤い目をしているわ」

 兵士さんは隣にいた人を顎で使っていた。この人が隊長さんかしら? あーあ、またミエルにため息つかれちゃうわね。

 そう思いながらも、とりあえず囲んでいる奴等の足の動きや重心の位置を見続け、ミエルを待つ事にする。


「少し聞いて良いかしら? もし弟が来なかったら、私はどうなるのかしら?」

「牢屋行きだ。そして相応の罰を受けてもらう」

「何もしてないのに!?」

「こいつ等に暴力を振るっただろうが」

「先に手を出したのはそいつらよ? ちゃんと攻撃を確認してから反撃もしたし」

 手を置かれただけで殴っちゃったけど、一応手を出された事になるわよね?

「過剰過ぎなんだ。少しは手加減しろ」

「軽く殴っただけなのに、気絶する方が悪いと思うんだけれど?」

「お前は軽く殴ったかもしれんが、気絶してる事実は事実だ。実力差くらい考慮しろ」

「いきなりこうなったのに……。理不尽ね」

「世間ってそんなもんだ」

 隊長さんが槍を向けたまま、ずっと重心を落としているので、かなり警戒されているんだろうなー。腕を上げ続けるのって、思っていた以上に結構だるいわね。


 そして睨まれ続けて、少ししたらミエルがやってきた。

 向こうで兵士さんに何かを聞かれてるし、なんか変な目でこっちを見てお金を渡していた。罰金ってやつかしら?

 そして隊長さんに書類を渡して、少しだけ書き物をしている時に、今ならかなり無防備だなーと思っていたら解放された。

「まぁ、言い訳もあると思うけど、とりあえず違反金は払ったし宿に帰ろう」

「そうね。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

 それだけを言い、武器を受け取って向けられていた槍を払うと、人がどんどん避けていった。こういうのは少しだけ恥ずかしいわね。


「で、言い訳は?」

 宿屋の部屋に帰り、槍を置くとミエルにそんな事を最初に言われた。

「仕事の確認だけしようと思って中に入りました」

「場所の確認だけでいいって僕言ったよね? こうなると思ったから言ったんだけど、やっちゃったものは仕方ないし、これ以上はその事に関しては何も言わない。けど、多分次からは声はかけられないと思う、これだけは収穫かな? 問題はしばらくはパーティーに誘われない事だと思う」

「弱い奴はいらないわ。なんだかんだで共同住宅にいた先輩達より弱かったし」

「姉さんが女だからって油断してただけでしょ。突っかかってくるなら、そいつ等だけかな?」

 ミエルはカップを取り出し、粉末にしてあるお茶を入れ、魔法で出したお湯を注いでスプーンで軽く混ぜた。

「はい。まだ街に来てから一息入れてなかったでしょ?」

 あぁ、それは私用だったのね。ミエルが飲むのかと思ったわ。

「ありがとう。確かにそうだったわ」

 ミエルは笑顔でお茶を出してきたので、私はソレを笑顔で受け取った。ネチネチしてないのはお父さんに似てるのよね……。

「対人戦闘なら多分ミエルでも通じるわよ?」

 お茶を一口飲み、そう言ったらミエルは苦笑いしていた。あの顔は知っている。呆れて何も言えない時の顔だって……。

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