人間って怖い…
次の日の朝俺は学校に行こうと玄関のドアを開けた。
「ふぁあ」
「とぼけた顔ね。朝から嫌なもん見たわ」
「はぁ?ってなんでお前が家の前にいるんだよ!」
目を開けた先には優希雪奈が立っていた。
「べつになんでもいいでしょ!」
「なんなんだよ。朝から…」
前日の出来事の後
「え?あいつと一緒に学校に行く…?嫌よそんなの」
「まぁそうだろうな。しかしこれをやれば一ついいことがある」
「いい…こと?」
「あぁいい事だ。しかしそのいい事は今教えん」
「なによそれ!リスクが高すぎるわ!」
「そうか…」
ヒラッ 先生のポケットから一枚の紙が落ちる。
「あ、いかん」
先生は急いで拾おうとする。
「ん…?」
今、たしかに「一緒に学校に行ったら、今回の件はちゃら」と書いてあったわよね?
「先生!私やります!」
「おぉ。そうか。じゃあのよろしく頼むぞ…。これは彼の住所が書いてある紙だ。……ふっやっぱちょろいな」
「おい見ろよあの女の子。めっちゃ可愛くね?」
「ほんとだ。彼氏さん羨ましいなー」
俺は顔が赤くなる。こんなやつの彼氏だなんて、俺は優希の方をむく。
2人とも目が合った。
「何こっち見てるのよ!」
「お、お前こそ!」
2人は顔をさらに赤くしてそっぽをむいた。
「で、一緒に学校に行くなんてどんな目的があるんだ?」
「実はね、昨日の放課後先生に一つお題見たいのを出されたの」
「お題?」
「うん。それでね一緒に学校に行きなさい、みたいなことを言われて」
「なんでそんなの断らなかったんだよ」
「なんか先生が持ってた紙に、このお題をやったらこの件はなしにする、って書いてあって」
「おぉ!まじか!」
ってことはこれをクリアすればこんなやつと一緒にいなくて済むってわけか。よしっ!
「そんなに喜ばれるとこっちも反応に困るわね。まぁとりあえず学校まで我慢よ」
「おう!」
学校までの我慢だ!これは勝ったな。あの先生も以外に優しいとこあんだな。
「よぉし。学校に着いたー」
やっと解放される!やっと高校生を満喫できるぞ!
「職員室で先生に報告してって言われたから行くわよ」
ガラガラッ
「新川先生いますかー?」
先生は手をあげこっちを確認してから、向かってきた。やっぱ顔だけ見れば美人だな。考えることはひどいけど。
「先生、彼と一緒に学校に来ました」
なんか俺、ちょっと彼氏っぽいな。こいつの彼氏なんてゴメンだがあんまり悪い気分ではないな。
「ほぉ。お疲れさん」
「それでいいこととは何ですか?」
彼女は先生に聞く。先生は一度机に戻り何かを取ってきた。
「じゃじゃーん。いいこととはこれだー!」
「なんですか?これ」
「あめ」
先生は真顔で答える。
え…?は?あ、あめ?飴を貰えるのがいい…ことの正体?
「先生!どうゆうことですか!」
「なにが?」
「なにがじゃないですよ!いいことって飴を貰えることだったんですか!?」
優希は先生の胸ぐらを掴みそうな勢いで先生に駆け寄った。
「そうだけど?」
先生はとぼけた顔で顔をちょっと傾けた。
え、ちょっと可愛い。
「ふざけないでください!私がなんのためにあんなやつと学校に来たと思ってんですか!」
優希が本気の本気で先生にキレている。最近の女子ってやっぱ怖いなぁ。
「なんの為って、あなたがやるって言ったんだろ」
「そうですけど…じゃああの紙は何だったんですか」
「紙?あー、あれはこうすればお前がやってくれるだろうという演技だよ」
「演…技…。そんなの騙してるようなもんです!」
やばいやばい。このまんまじゃほんとに優希が先生を殴ってしまいそうだ。もし殴っちゃったら、優希の高校生活が終わってしまう。
それもちょっといいんじゃねと思う自分もいるがそんなことしたら俺の人間性が疑われる。
よしここは止めに入ろう。
「おい、優」
「うるさい!」
怖ぇ…!女って怖ぇ。名前すら呼ばせてもらなかった。怖ぇ。
だが先生は続けて言う。
「そんなのあなたが勝手にそれだと信じたのが悪いんでしょ」
「で、でも…!」
やばい、ほんとにやばい。この状況どうすればいいの!?俺に喧嘩を止める能力とかがあればいいのに…!そんな能力あったら争いなんて起きてないか。
「ちょっと、おふたりさんそこまでにしようよ」
「ん?」
そこに立っていたのは高身長でとても整った顔の青年。いわゆるイケメンだ。
「こんな皆の前で喧嘩なんて、おふたりの美しい顔が汚れちゃうよ」
うわぁ…すげぇ…。世の中にこんなゲームみたいなセリフを現実で言える人がいるなんて…。
こんなイケメンを見たら流石に喧嘩なんて辞めるだろう、と思っていた。先生の方は見とれていたが、優希はそのイケメンを見て
「何よこのナルシスト」
「ナ、ナルシスト…!!だとぉ!?」
こんなイケメンを見たら、普通の女子ならドキドキキュンキュンしちゃう。俺が男だったら惚れてた。あ、女だったらか。
「ナ、ナルシストなんかじゃない!俺は…自分がかっこいいと思うからやっているんだ!」
「それをナルシストって言うのよ」
なんだこの男。もしかしてバカか?まぁまだ顔がイケメンだからいいか。俺がこんなこと言ったら、人生バットエンドだ。ほんと世界って不平等。
「ってか、あんた誰よ」
「僕かい?キランッ 僕はね キランッ」
「その変な喋り方やめて。ムカつくから」
いちいち、「キランッ」なんて言う人初めて見たぞ。ものすごく疲れそうだな。
「僕はね キランッ」
「だからキモいからやめて」
やば。優希の威圧感半端な。流石にあのイケメンをちょっと後退りしてるよ。
「というか、先に名を名乗るが常識ってもんじゃない?」
男は小声で「キランッ」と付けた。
「それもそうね。私の名前は滝下海斗よ」
「なんで俺の名前!?」
「だって、こんな不審な人物に個人情報教えたくないでしょ」
「人の個人情報ならどうでもいいのかよ」
こいつほんとにやることが酷い。俺に対しての優しさとかってのはないの?まだあいつ俺に嫌な事しかやってないよ?」
「そうか、君の名前は滝下海斗って言うんだね。タッキー、でいいかな?」
え、何そのセンスないあだ名。流石の俺でも反応に困るわ。
「僕の名前は、田中凡太朗。よろしくね キランッ」
え?田中…凡太朗?ふっw笑ってはいけないことがわかってても笑ってしまう。一方、優機の方はというと
「凡太朗ってww」
腹を抱えて大爆笑している。
こいつほんと失礼なやつだな。まぁ笑っちゃうのもわかるけど…!
「お、おい!何を笑ってるんだ!僕の母上様が考えてくださった素晴らしくかっこいい名前を!!」
「かっこいいってw」
有希の笑いは収まらない。あれ?そういえば、誰かの存在を忘れてる気がするな。えーと、誰だっけ。
「あなたたち?私の存在忘れてない?」
あ、そうだ。先生のこと忘れてた。
「そうだ!」
先生は手を叩いて、ひらめいた!みたいな顔をしてる。やっぱ顔だけ見れば可愛いな。いい絵になりそう。
「あなたたち2人も仲が悪いわね」
え?もしかしてだけど、こいつを…?
「田中凡太朗君、君も部活に入りなさい」
「は?」
「は?」
予想的中。
俺と優希は声を合わせて言った。いつもなら喧嘩しているが、この状態だと2人とも声が合ってることに気づいてない。
「こいつを部活に入れる?嫌よそんなの!ただでさえこいつといて嫌なのに、さらに嫌な思いしなきゃいけないわけ?私はもっといい子を入れたいの!」
「先生、部活とは何のことです?」
そうか。こいつはまだ部活について知らないのか。
「説明していなかったね。これから君たちは同じ学校としての仲間なんだ。だから、仲良くなってほしいんだ。だから私は部活を作ろうと思ってる。どんな部活でもいいぞ」
「ふむ」
男は少し考える仕草を見せた。
「僕やります!」
男から思いがけない返答が帰ってきた。
「嫌よこんなやつ!」
「まぁいいじゃないか、こんなイケメンが近くにいるんだよ?」
え、それ自分で言っちゃう?まぁイケメンなんだけどさ。いいな。俺も1回でいいから言ってみたいな。
「嫌よ!近寄んないで!」
「優希それ以上反論したらどうなるか分かってるかな?」
先生は何やら紙を取り出した。成績表の紙だ。
うわ…!えげつないこの先生。流石に引くレベルだぞ。
優希は下を向いたあと先生の方を向いて、ものすごい目付きで先生をにらんだ。
こいつ怖すぎ。先生、絶対死後に呪われるやつ。
優希は怒りをなんとか抑えた。しかし納得はしていないようだ。もちろん俺も納得なんてしていない。こんな男と一緒の部活なんてまっぴらごめんだ。
しかし、そんなことも知らずに男は
「これからよろしく!キランッ」
と言って俺に手を差し伸べた。俺は苦笑いを浮かべながら握手をした。
優希の方はというと、紙にシャーペンを刺しまくるというサイコパスなことをして、ストレスを発散していた。最近の女子怖っ…。凡太朗はそれを見て握手しようとするのをやめた。
そして、チャイムが鳴りみんな教室へと消えていった。