未完成な15分間
仕事帰り一人で映画を見た。 もう終電しかなかった。だけど、お祭りがあったせいか人が多い。
かまわずホームを目指し、もう停車していた電車に乗り込んだ。すでに乗客している人もいたが、幸いなことに席は空いていた。
ドア付近の席を陣取り、今度受験する資格の勉強をしようと思って持ってきてた本を開いた。
じょじょに席は埋まっていくが私の隣はまだ空いたままだ。 こういうとき、私は臭いんだろうかとか、見た目が変なのだろうかと心配していまう。
けれど、少ししたら私の隣も埋まった。どかっと座った隣の人は狭いと思ったのか少し身じろぎをし、その二の腕だか肩だかが私に触れる。私は避けれるだけ端に寄り、場所を少しだけ空けてあげた。足元をちらりと見る。 ズボンから筋肉のついたふくらはぎが見え、先程当たった体の一部分から察するに、男性だと思った。 ズボンの丈も短かったので高校生か学生ぐらいだと思った。
電車が発車し、隣の人の年代がどうしても気になり、その人の後頭部の窓を見る振りをして斜め後ろを振り返った。 短い髪。少し頭皮が透けて見える。
あ、おっさんか。
おっさんでもなんでもいいや。 来月に迫った試験のために勉強に集中することにした。
電車に揺られながら勉強して、時々隣が目にはいる。 暇なのかスマホをたまに弄っては止めて手遊びをしている。
私が自分の腕時計に目をやれば、隣のおじさんも自分の腕時計に目をやった。
少ししたら隣から「なんの勉強してるんですか?」と声をかけられた。
隣を見ると二重まぶたの40代ぐらいのおじさんだった。
私が資格名を言うと少し声が小さかったのか、私側に体を寄せてきた。 肩が触れる。
そしていろいろと話しかけられた。 「なんの職業なんですかー?」とか、「僕がわかれば教えれたのに」とか、「いつ試験なんです?」「頑張って下さい」挙げ句には結構距離を縮めて私の本を覗き込み文を読み上げながら、途中を隠し、クイズ形式に問題を出題してきた。正解すると「おぉ~、ばっちりですね」と言ってくれた。
少し楽しくなって笑ってしまった。 何回目かの停車でおじさんが「今ここどこですか?」と聞いてきた。
「さっき○○駅だったので△△駅ですよ」
「あ、ここで降りないと。 降ります?」
私の降りる駅はまだ先だから首を振った。 笑顔でお互い会釈して、おじさんは降りていった。
ここで私も降りますと言っていたらもう少し話せたのかな。
ふとそう思った。 単純すぎる、自分でそう思った。
あまり感じたことのない家族とは違う他人の体の温かさを知ったしまったからかな。
言葉にできないけど、近くにいてくれる人がいれば感じることが出来るんだろうと思う心地よさ。
酔っぱらっていたのかもしれないけど、電車に乗ったら思い出してほしい。
そんなわがまま。
何も始まらないし、完成もしていない15分間。




