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出来損ないの探偵物語  作者: Ⅾeka
4/7

悲しいエンドマーク

西ノ浦高校


「おはよう! フォード!」


夏も終わりかけ、涼しくなってきた頃


教室にいた僕<蒼井 和斗>は、とても眠そうに教室に入ってきたフォードこと<家村 英司>に挨拶をした。


「あぁ・・・おはよう」


そんなフォードも目をこすりながら答えてくれた。


「今日は、やけに眠そうだね」


「あぁ、この本を読んでいたら、徹夜してしまってな。あまり寝てないんだ」


そう言いながら、フォードは自分の机の上に『Schelling Ford』と書かれた彼の愛読書を取り出した。


ただし、中身は全て白紙である。


「前から思ってたけど、それ白紙じゃん。何が読めるって言うのさ」


「フッ。お前にはわからんさ」


「なんだよ!それ。感じ悪いなぁ~」


そんな会話をしていると・・・。


バンッ!


教室に入ってくるなり机を強く叩いて向ってきた、小倉 亜里咲のその顔は、とても怒っている。態度にもそれが出ていた。


「ど、どうしたの小倉さん。藪から棒に」


「そうだぞ。少し落ち着け」


僕らが彼女をなだめると彼女は少し落ち着いて、話を始めた。


「聞いてよ!朝からね、お母さんが「自分の棺桶にはこれ入れて」とか「自分の部屋にもしもの事があった時のために色々用意してるから」って言うんだよ。だから私、怒れてきて「今からそんな話しなくてもいいでしょ!」って言ってそのまま来ちゃったの」


「それはまた、奇妙な会話だね・・・お母さんは病気か何かなの?」


「うんうん。この前健康診断に行った時も、異常なしって言われてたらしいし」


「それはたぶん終活だな」


僕らが困惑していると、フォードは横から静かに喋りだした。


「就活?お母さんは働きにはでないわよ?」


小倉さんはフォードの発言に、首をかしげていた。


「そっちじゃない、人間いつ死ぬかわからないだろ。そんなもしもの時のために荷物を整理したり、家族にそのことを話したりする活動を終活というんだ」


「なるほど・・・終わりにむけた活動ってことか」


「な~んだ!そういうことだったんだ。なら家に帰ったらちゃんと母と話し合おう!」


小倉さんは、フォードの言葉に納得して、顔に笑顔が戻っていた。


「なら、早く帰ることをお勧めするよ。今日は19時頃から雨が降るから、部活で遅くまで残ってると、雨に濡れるよ」


「そうなの!?ならそうしよ!」


そういいながら、小倉さんは笑顔で席に戻っていった。







雲に隠れた月が光る夜空の下。


そこに、冷たくなって横たわる少女が一人・・・その近くに一つの影が。





翌日


僕とフォードは、土井警部に呼ばれて、西ノ浦高校の近くにある生嶋中学校を訪れた。


早朝、ここで一人の女子生徒が遺体で見つかったそうなのだ。


「おはようございます」


「おぉ!英司君。ごめんな!ちょっと頭抱える事件で」


そう言って、案内されたのは四階の教室。鑑識さんや刑事さんが所狭しと動き回ってる現場だった。


「ここで亡くなられていたのは、<犯田 瞳(はんだ ひとみ)>ここの中学の二年生だ。彼女はこの教室で、胸にナイフが刺さった状態で発見されたんだ。状況から他殺が疑われてる」


「て、ことは被害者は刺殺ですか?」


「いえ、それが頭部強打した転落死っぽいんだよ」


「「転落死!?」」


土井さんの言葉に、僕らは驚いた。


高い物がないこの部屋で、転落死・・・もしこの窓から落ちたとしても何故教室にいるのか・・・。



「この教室の下を調べたのですが、血液反応が出ているので恐らくここから下に落ちたのですが、何故この教室に戻っているのかは、わからなくて。犯人がつれてきたんでしょうが一体何故・・・」


「死亡推定時刻は?」


「昨夜の19時~21時の間です」


「第一発見者は?」


「ここに来た生徒です。朝早く教室来たら、遺体を見つけたそうなんです」


「警部!」


土井さんを、教室の片隅から呼ぶ声がしたのでその場所にいくと、若い刑事さんが袋に入った黒い手帳を見せた。


「遺体の近くにこんな物が」


「これは・・・生徒手帳?」


渡された生徒手帳には、<陸田 人志(おかだ ひとし)>と書かれていた。


「この少年が事件の鍵を握っている可能性がある・・・すぐに話を聞こう」


そう言って、土井さんはこの場を離れていった。


「・・・」


「どうしたんだ?フォード」


「いや、俺たちは彼女について調べよう」


「おう!」


そう言って僕たちもこの場を離れた。



刑事の話を要約すると、


・現場は校門に近い校舎の四階。


・被害者は教室の真ん中に横たわっていた。


・被害者の胸にはナイフが刺さっていたが、直接の死因は胸部を強く打ったことによる転落死らしい。


・この教室の真下に彼女の血痕があったそうだ。


・彼女に近くには、生徒手帳が落ちていたそうだ。





多目的室


ここは、亡くなった彼女がいた教室の隣。


ここには、現場となった教室の生徒たちが待機していた。


「亡くなった彼女について聞きたいんだが」


フォードは来て早々 一人の女子生徒を見つけて話を聞きだした。



「彼女、あまり私達と関りが無いって言うか、ずっと本を読んでたり寝てたりしてて」


「うん!正直きもい感じだったよね」


「ね~! しかも教室で死ぬなんて」


「それにさ、最近は人体に関する本とか読んでて、さらに気持ち悪かった~」


「あっ、あとさ!あいつ、陸田と言い争いしてたんだよね~!あいつらお似合いだっのに(笑)」


その子は、小馬鹿にするように言った。


「「えぇ!」」


他の二人が、意外そうに声を上げた。




「・・・。そうか、ありがとう」


それだけ聞くと、フォードはその場を後にした。


僕も何とも言えなくなり、その場を後にした。






「酷いや、人が亡くなったって言うのにあんな言い方して」


教室を後にした僕は、前を歩くフォードに胸のモヤモヤをぶつけた。


「彼女たちにとっては、なんともおもわない事なんだろう。他の生徒に聞いたら、さっきの彼女達は被害者にいじめをしていたようだ。教師もそれを黙認していたそうだ」


「何だよ!それ!余計許せない! 人が一人亡くなってんだぞ!いじめられて殺されて彼女が可哀想だ」


「だが、彼女達のおかげで、有力な情報もあった」


「それって、陸田君が、犯田さんと言い争ってるって話?ということは、彼が彼女を!」


「まだわからない・・・・。とにかく今は陸田君に話を聞くとしよう」


そう言って僕らは土井さんを探しに行った。






美術室


現場から少し離れた位置にあるこの教室で、陸田君の取り調べを行っていた。


僕らが、土井さんと別れた後に判明したそうなのだが、被害者の衣服から彼の指紋がでてきたそうなのだ。その指紋がついていた場所からして彼が彼女を教室に運んだとされている。


「僕はなにもしていませんよ。塾の帰り、教室に忘れた教科書を取りに行けないかなと学校に近づきましたけど、入ってはいません。彼女が死んでいたなんて知りませんでしたよ」


「じゃあ、なんで生徒手帳が現場にあったんですか?」


「そりゃ、ありますよ。僕の教室でもあるんですから。とにかく僕が彼女を刺して殺すわけ無いじゃないですか」


「でも、彼女の衣服から君の指紋がでてきたんだぞ」


「そんなの、何時ついたかわからないじゃないですか。それよりも、彼女をいじめてた奴らを調べてくださいよ!絶対あいつらの誰かがやったんだ」


そんな会話を聞いてると、フォードは口を開いた。


「単刀直入に聞こう。君は彼女に好意があったんじゃないのか?」


フォードの問いに、少年の顔が一瞬曇った。


「その顔は図星だな」


「・・・そうだよ、俺は彼女が好きだった。彼女は自分だっていじめられてるって言うのに、席が隣ってだけの俺にいつも優しく勉強を教えてくれたりした。うちの学校、置き勉が禁止で、だから彼女は俺に勉強を教えるために その日授業がない教科書まで持ってきてくれたりして・・・。そんな彼女が好きだった」


彼は泣きながら、自分の思いを泣きながら話しだした。


「でも、君は彼女と言い争ってなかった?」


僕がふとそう言うと、彼は僕を睨みながら答えた。


「そうだよ!俺が告白したら、「もう遅いよ」って涙を流して言うから言い争いに…だからって!俺は殺してないぞ!」


「そうか・・・最近、彼女に変わった様子は?」


「最近は、いじめが激しくなっていて。彼女はいつも暗い顔を・・・なのに俺は何もできなかった」


「そうか、ありがとう」


そう言って、フォードはこの場を後にした。





「英司君、どうだった? 彼の話を聞いて」


「まだなんとも言えません・・・それに・・・」


「それに?」


「いえ。ところで土井さん、被害者の家を見に行きましたか?」


何かを言いかけたフォードは、それを辞め、土井さんに問いかけていた。


「はい。どうやら彼女は、事情により親と暮らせず一人暮らしだったようで、部屋はつい最近、大掃除したようで物が少なくこれと言って収穫がありませんでした」


「そう・・・ですか。僕はもう一度現場を見てきます。行こうワト」


こうして僕らは、土井さんの元を後にした。






―現場―


「ここに来て、何をするっていうのさ」


「陸田君の机を見たいんだ」


そう言って、彼は机の中を見たが、そこには何もなかった。


「置き勉禁止なんだから、何もないでしょ」


「被害者の机は、彼の席の隣だったな」


「同じだよ、何も見つからないよ」


「どうだろうな」


そう言いながら、フォードは彼女の机を見つけて、そこを探し出した。


「ん?これは・・・」


そういってフォードが取り出したのは、ノートだった。


「彼女のノート?でもなんで・・・」


「・・・」


僕のそんな言葉を聞きながら、フォードはノートを読んでいた。


そして、そのノートを閉じた。その時の目は、とても悲しそうな眼をしていた。


「どうしたんだ?フォード」


「この事件(物語)は・・・もうおしまいだ」



フォードの言葉とともに、静かな時間がそこに流れた。




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