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そして何かの気配を感じてベランダを見ると、そこに男がたっていました。
アロハシャツを着た、長髪で目つきの悪い男でした。
私の部屋に男が立っているだけでもただ事ではないのに、さらにただ事ではないことに、男はベランダの外に立っていたのです。
前にもいいましたが、私の部屋は九階なのですから。
動くことも出来ずに男を見ていると、男がいいました。
「くそっ、強い守護霊がついてやがるぜ。とても勝てねえ」
そう言うと男の姿はかき消すように消えました。
次の日私は、新しい下宿が決まらないままに、大家にあの部屋を出て行くことを告げました。
あれからしばらくして、私の後にあの部屋に入った人がベランダから飛び降りて死んだことを、風邪の噂で聞きました。
どうやら私と同じ大学に通う学生のようですか、全く知らない人でした。
刹那私は、私があのままあそこに住んで入れば、その人は死なずにすんだのではないのか、と思いました。
しかしわたしはすぐにこう考えました。
一日に世界中でいったいどれだけの人が死んでいると言うのか。
私が会ったこともない人があそこで死んだとしても、私が気にやむ必要はないのだと。
そして三人目の自殺者が出たのかどうかは、私は知りません。
今では地元に帰って就職し、結婚もし、去年長女が生まれました。
大きな目のとても可愛い女の子です。
終