24、聖女の嘆願
時は少し遡る。
ファルナが脱出した後のセルシニアお嬢様一行は今も宿で立ち往生していた。
「やはり 見つかりませんか?」
「はい・・お嬢様。
冒険者たちにも要請して町中を探しておりますが」
「そうですか・・。しかたがありません。
今日一日捜索してダメなら明日の朝には出立いたしましょう」
「はい。・・ですが、それでは」
「領主である父の様子を見ていたでしょう。
あの急ぎかたはただ事ではありません。私たちも急ぎもどります」
「かしこまりました」
2人の世話役である侍女のシャルナは急なセルシニアの変化に心の動揺を隠せず戻っていく。
宿の貴族用応接室に残るのはセルシニアお嬢様、そして護衛の冒険者であるアレクト達三人である。
セルシニアの聖眼によって正体を見破られたアレクトレウスはすっかり開き直っていた。
「さて お嬢さん。
御家とファルナリーアとの出会いは聞いた。
まだ色々と腑に落ちない点は有るが、あの子を保護してくださった事には感謝しよう。だが、我々の事が分かったとたん行方不明になるなど納得いかないのでな」
「あら、私共が隠したとでもおっしゃりたいのですか殿下」
「今だ身を偽っている立場、殿下は止めてもらいたい」
「そうですか・・。
では 冒険者殿。実は私たちの方が彼女を見失って一番困っていますのよ。隠すなどありえませんわ」
「理由を聞かせていただきたいですな」
「本気で言ってますの?。
でしたら 恐ろしく強固な情報操作がされておりますのね。
私の父が慌てた理由を話しても宜しくて?、魔術師のお爺様」
2人の視線が魔術師トゥルゲルトに向かう。
そこには 秘密がばれた困り顔を隠せない老人がいた。
「驚きましたな・・。ほっほっほ。
聖女の力とは斯くも凄まじいものでしたか。
とても幼子とは思えぬ智謀ですぞ」
「トゥルゲルト、何を隠している」
「やれやれ、仕方がありませんな。
影どもが伝えてきた話を簡略に申しますとな、皇王陛下の一声により皇国軍が隣国のフロステス王国に侵攻し、ほぼ全土の制圧を終了したとの事でございます。
言うまでも無く、国軍の侵攻目的は皇女さまの捜索でございましょう。
辺境伯たる領主殿が急遽戻られたのは皇国軍がこの国に侵攻するのを恐れてでございましょう」
「宿に滞在している商人達も噂していましてよ。
彼らは敏感ですからね、国境である我が領地に向かう行商人は激減することでしょう。大損害ですわね」
まさに、大人顔負けに口が立つ幼女のセルシニア。
その弁舌を持って皇国の賢者とも言えるトゥルゲルトと対等に国の趨勢に関わる交渉を行っていた。
その変貌の理由として前日に聖女としての能力が覚醒したのだと説明している。それは今後 彼女が普通の子供として生きられない事を意味していたが野望を持つセルシニアにとって今更な話でしかない。
先日までの幼女らしい可愛い姿が消えた事にショックを受けたアデリーナは今も呆然としているので静かだ。
「父上・・早まった事をしてくれる」
「くすっ、冒険者殿がそれをおっしゃいますの?。
その様子では大方ファルナを探しに飛び出していらしたのでは?。統治者としては早計にすぎますわね」
「聖女と言えど親の気持ちまでは分からぬか。
后が無残に殺され 幼い娘が誘拐されたのだ。
それも厳重に警護された城の中でだ。
城中に居て何が出来る。現にあの子を見つけたのは我々で隣国を蹂躙した軍では無い」
自分の娘ほどの幼いセルシニアの生意気なセリフに感情的に答える皇太子殿下。
どっちが大人か分からない姿である。
「ですから困っているのですわ。親の気持ちはともかく、ファルナはここで見つかった。
今頃はその情報が走っている事でしょう。
皇国に情報が伝わった後にファルナが行方不明になったと知ったらどうなるか」
「なるほど、次はこの国が狙われるな」
「何をのん気な。貴国は賊から逃げていた姫を保護していた我が国に仇成すのですか?。恩知らずですこと」
「・・返す言葉も無い。しかし、確かにまずいな」
自分以上に孫のファルナを溺愛していた皇王である。
此度の出兵もファルナリーア捜索に痺れを切らした結果であろう。ならば、他の国で目撃されたならどうするか。確かに子供でも予測が出来るというものだ。
「影の者共も姫の姿を見失ってございますのぅ。
数名の護衛を付けていたにも関わらずです。
かの者どもを欺くなど並みの手足れではありませぬな」
「書置きの通り、あの子は自分で出て行ったのですわ。
聖眼を失ったと言っても聖女なのです。人知れず出て行く能力が有っても不思議ではありませんもの」
「聖眼を失った?。
・・片目を隠していたのはそのためだったのか」
「理由は分かりません。私と出合った時にはすでに」
一同言葉も無く静まりかえる。
幼い姫が受けた残虐な仕打ちを思い殺気すら漂いだす。
セルシニアは姿勢を正してアレクトレウスに向き合う。
「かく言う理由でございます。皇太子殿下には急ぎ国に戻られて事情を話して頂きたく願いますわ。
ファルナリーア皇女殿下の事も、殿下御一行が発見して一度は保護したけれど記憶を失った姫が逃げた、とすれば我が国に対して侵略する意味も薄れましょう。無益な争いを止めてくださいまし。父は厳格な武人ですから最後の一人になっても戦うでしょう。私の親をお救いください」
前日にファルナと話していた男言葉のセルシニアとは別人のような見事な演技である。
彼女の前世はあの新興宗教の教祖。体を乗っ取られ無意識のうちに人を殺しまくり死刑に処された男だ。
男は一代で教団を立ち上げ、育て上げた弁舌を持つ。
この程度の人を欺く手練手管は造作も無いことだった。
勿論 彼女にとって父親ですら野望の為の大事な足がかりに過ぎず、今は絶対に失う訳にはいかない駒だ。
つくづくファルナとは悪縁の深い人間であった。
セルシニアの実体はともかく、端から見た彼女の行動は正に聖女らしい平和の使者であった。
この聖女の嘆願を聞き入れたアレクトレウスは皇太子の立場に戻り、護衛2人と共に急ぎ祖国を目指して馬を走らせる事となった。
奇しくもその道のりは国境の砦を目指し、結果としてファルナの後を追う事になるのである。




