21 、お・ま・え・も・か・・・
さて、女湯乱入騒動もケリが付いた次の日、領主一行は宿場町から出発していた。まぁ、当然である。
件の男の子、転生者アステリアが名残惜しそうに見送っていた。
領主様との話し合いの後、彼が何気にファルナを意識していたのは気が付いていた。
話しかけようとしているのも態度を見れば分かる。
だが絶対に関わりたくない。
宿に居る間は常に誰かの近くに居て彼との接触は完璧に避けていた。仕事以上に疲れたよ。
下手に会話をして自分も転生者だとバレたら色々と面倒なのが分かりきっているからね。
向こうがファルナを気にする理由は何か?。
復讐かな・・蹴られた事を根に持っているようには見えなかったけど、貴族のプライドを傷つけたのは確かだ。
まさかね、前世の恨みとか・・は無いか。
年齢的にまだ色恋の問題とも思えないし。
自分の姿は少し髪が伸びてきて多少はマシになったとはいえ片目だし今も貧相な子供でしかない。
無いな、うん。
しかし、あいつがドMで蹴られてから何かに目覚めたとか。
・・・・・・・・・・
想像するの止めよう。頭が変になる。
領主様御一行はその後二日は何事も無く無事に進んでいた。今 通過しているのはレミングレイ領。
フォルカス領と王都のだいたい中間の位置にある。
そう、やっと半分だ。馬車の旅は過酷である。
「それでは、せーの!」
「これ何?。えっとイモムシ」
「こっちはカニでした。イモムシよりカニが強いからファルナが有利です」
「えっと・・お助けカードひくもん」
「えーっ、ここでお助け使うんですか?お嬢様」
「使う。えいっ」
「なっ・・騎士のカード!!」
馬車のなかでセルシニアお嬢様と遊んでいるのは初歩的な対戦型カードゲームなのです。
日本のそれみたいに複雑なルールが有る訳ではなくジャンケンの手数が増えたような単純なものだ。
カードとは言うけど同じ形のうすい木札。
宿場町で意外と安く売っていたので30枚ほど買っておいたもの。
伝言などのメモみたいに使われるらしい。
その木札にシンボル的な絵と文字を魔法で焼き付けて消えないように作りました。
遊びながら文字の読み方が憶えられる優れものです。
ただし、木目が有るので何度も使っているうちに何のカードかバレてしまうだろうね。対策が必要です。
本当は王様やお后さま、王子様や王女様をキャラに入れて作れば少しは複雑なルールも出来たんだけど・・先輩のシャルナさんに全力で阻止された。
王族をそんな事に使ったら本気で首が飛ぶらしい。
馬車に酔ったのかゲームの途中でセルシニアは「気持ち悪い」と私の膝枕で寝てしまった。
やれやれと一息つくと今度はもう1人の子供が騒ぎ出す。
『ファルナよ、我輩は退屈である』
『んなこと言ったって、馬車の旅なんて退屈に決まってるんだよ』
今もファルナに憑依している謎生物コロタンが念話でダダをこねはじめた。
馬車に限らず乗り物での旅は退屈なものだ。
どうにもならんよ。
前世に存在した豪華客船なら多少はマシだろうけどね?。
乗ったこと無いから疑問形です。
『何かトラブルでも起こればのう・・』
『よせ・・』
ほら、そんな事考えるから 外が何やら騒がしいぞ。
あーあ・・馬車も停止した。
「何事かね」
「ただ今確認してまいります」
領主様は座った姿勢のまま一言。
大きな声でも無いのに御者席に居る執事さんには届く。
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「はぁー、すごいねー」
「ファルナ、言葉がおかしくてよ」 ぷっくく
「あっ、失礼致しました。お嬢様」
お嬢様とメイドごっこは今も続いている。
セルシニアお嬢様は自分の澄ましたセリフに吹き出しているのでマナー的には減点かもしれない。
でも良いのだ。
無理をして矯正するのと違い心労は無いはず。
楽しそうで何よりだ。
馬車が止まったので2人で外に出てみると前方の街道には人の川が出来ていた。彼らは武装しているので素人の自分にも分かる。
見渡す限り続く人の列は軍隊。
騎士隊を中心とした混成部隊と言ったところだろう。
それもかなりの大部隊だね。
こちらが領主一行という事もあり部隊の指揮官らしき騎士の人がやって来て領主様と話をしている。
「ざっと見て千人ほどかのぅ」
「何かあったのか?・・ここまでの道中でキナ臭い気配は感じなかったが」
護衛の冒険者である三人も様子を見ている。
「ルゲルトさん、カード楽しかったよ。作ってくれてありがとー」
「ほっほっほ、そうかそうか、お安い御用じゃよ」
うん、木のカードに魔法で絵や文字を焼付けしてくれたのは魔法使いのルゲルトさんです。
自分はそんな器用な事はできません。
カードに下手な絵を描いていたのを見たルゲルトさんが手を貸してくれたのだ。子供らしく素直に笑顔でお礼を言うと彼も嬉しそうに答えてくれる。
まさに優しいお爺ちゃんだ。
そんな様子を大男のアレクトが羨ましそうに見ていた。
やはり、この男・・ロリ?。
なるべく近寄らない事にしよう。
そうこうしていると、領主様が戻ってくる。
その顔は厳しく、戦いを前にした武人のものだ。
「セルシニア、私は急ぎ領地へ帰らねばならなくなった」
「はい・・父様」
「セルシニアはこのまま王都のフレネリアの所に行きなさい」
『却下です』
「ん?、何かね」
「えっと、私も父様と帰りたい・・」
ファルナには分かる。
遠慮がちに言ってはいるがお嬢様の意思では既に帰る事が決定事項なのだ。しかし、問題はそこでは無い。
今、確かにセルシニアは日本語で『却下です』と言った。
ファルナが呆然としているうちに話は進み、やはりセルシニアお嬢様も引き返す事となった。
領主様は詳しい事情は話さずに執事のヨーゼフさんに後の事を任せ、自らは数名の護衛と共に馬を駆り走り去ってしまった。
自分たちも3台の馬車を何とか方向転換させる。
馬車の方がわずかに早いので軍の隊列より前を進む訳だ。
護衛の数も少なくなったので彼らと行動を共にしたほうが安全に見えるが、純粋な騎士団とは違って傭兵や気の荒い冒険者、あるいは仕事にあぶれた食いつめ者の混成部隊では何が起こるか分からないらしい。
ちなみに騎士にもゴロツキは居るが名誉という足枷がある事で部隊の中に居れば良い子ちゃんで通すので多少はマシ程度である。高潔な騎士など絶滅危惧種なのかもね。
領主様が抜けた自分たちの馬車には世話係としてシャルナさんが乗り込んでいた。
自分とセルシニアお嬢様はこれまでと同じく並んで座っているが何とも言えない緊張感がある。
『ファルナ、お前 日本語分かるだろ』
耳元に顔をよせてヒソヒソと可愛らしく話し掛けるセルシニア。
だが、その言葉もまさしく日本語でファルナに衝撃が走る。
『2人きりになったら詳しい話しを聞かせてもらうからな』
向かいに座るシャルナさんには何を言っているか分からず、幼女がじゃれているように見えるだろう。
しかし、現実はそんな生易しいものでは無い。
えーーーーーーーーっ、セルシニア、おまえもか・・
しかも、まごうことなき男言葉だ。




