19、この不埒物がぁぁぁ
まだ夜も明けきらぬ薄暗い中 多くの人々が出発の準備に追われている。
自分、ファルナも例外ではなく、セルシニアお嬢様の日用品や衣類などをバッグや箱の中に収納して馬車に積み込む作業を急いでいた。
それは良いのだが・・
「・・・・・どうしてここに?」
「ふおっほっほっほ。わしはこれでも冒険者でな。仲間と共に護衛の依頼を受けておるのじゃよ」
『スキルの使用を見抜く』という特殊な能力の持ち主であるルゲルトさんが馬車の近くで待機していた。
眠気も吹っ飛ぶ再会である。
さり気なく領主様の近くにはメイドのシャルナさんがピリピリと空気を纏っていた。
先日の事を覚えていたらしく ルゲルトさんをメチャメチャ警戒している。
そして、さらに・・・・・
「ん?。よぅ、また会ったな」
先日出合った酔っ払いの大男までいた。
何で こいつまで居るんだ?。
パーティですか・・そうですか。
野郎は すっごい嬉しそうに片手を上げながら一度しか会っていない幼女の自分に向かって挨拶してくる。
その姿はまるで長年付き合っている恋人に対するようだ。
やはり、この大男・・そっちの趣味なのか?。
最大級の警戒をして逃げるべく一歩引いておく。
すると今度は大の男が泣きそうな顔に変わっていく。
何なのこいつ?、気持ち悪い奴。
「だめじゃないアレクト。小さな子が恐がる・・・わ」
今度はお約束の美人が来た。
綺麗なベージュ色の髪を後ろに編み込んでいるので活動的に見えるが、動きには隠し切れない気品がある。
背中には作りの太い強弓を装備している。
カッコイイけど、あの細腕で引けるのだろうか?。
そんな彼女は自分を見たとたん絶句している。
またですか・・そんなに私のこの姿は変かね。
まぁ、幼女が片目に眼帯してる時点で変だけど。
「耐えろ、アデリーナ」
大男が美人のアデリーナさんの肩を抱いて連れて行く。
しばし 呆然のファルナ。
いや、何それ。酷すぎるだろ。
いくら何でも他人の顔を見て「耐えろ」とか言う?。
ふん、まぁ普通ならショックで泣き出すだろうけど、この程度は前世の扱いに比べたら楽なものさ。
なにせ、両親が犯罪に走った挙句に自殺したおかげで残された俺がどれだけ酷い事を言われたか・・。
正義の味方面したマスコミの記者たちが犯罪者相手にしているが如く言葉の端々で嫌味や批難をして来るのにはウンザリしたものだ。俺自身も被害者とは誰も見てくれなかったな・・。嫌な事を思い出したぜ。
ともあれ、急に領主一行が出発する事となった。
他にも多くの商隊が慌しく出発準備をしている。
昨日、王都側の隣町から商隊の馬車が沢山やって来て「道中には何の危険も無かった」と伝えた事が発端だ。
足止めで腐っていた人々はその情報で生き返った。
最大の原因だった謎生物コロタンは今もファルナの中に居候しているから何事も無いのは当然の事ではある。
彼?は憑依能力を得て入り込んだ人間社会の物珍らしさに はまり込んでしまったらしく離れようとしない。
幸いな事に憑依している間は対象の状態に依存するらしく、大食のコロタンなのに空腹にはならないのだ。
自分も使ってる能力なのにそんな事知らなかったよ。
これから進む道は途中で野営しなくてはならない難所という事で護衛の冒険者を雇って同行する事となる。
領主家の護衛たる騎士達も居るが魔物相手の戦いになるかもしれないので専門家を入れるというわけだ。
そんな訳であの三人が追加の冒険者らしい。
めちやめちや不安だ。
準備が整った商隊から順次出発していくのだが、今までの時間を取り戻そうと思う気持ちは同じなので隙間無く商人たちが進む事となり、まるで一本の帯のように街道を馬車の列が連なっていく。
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そんな訳で、今は出発してから5日後の宿場町にいる。
えっ、飛ばすな?
いやいや、道中は特にアクシデントも無いし。
ダラダラと文字を増やしてページを稼ぐ「クソラノベ」は嫌いなので飛ばしますよ。うんうん。
この宿場町はすでに隣の領地であり、距離的にはけっこう進んだけど目的地の王都まではまだまだ遠い。
えっ、何故そんな途中の事を言ってるのかって?
「お嬢様、入る前に体にお湯をかけて清めてから入るのがマナーですよ」
「そうなの?」
「あらっ、入浴のマナーを知っていたのですねファルナ」
この会話で御理解いただけた事だろう。
宿場町の売りは旅の疲れを癒す天然温泉なのです。
ちゃんと男女の浴場が別れていて安心だ。
セルシニアお嬢様の健康と安全が第一なのだ。
もしも賊が侵入した場合 たとえ風呂場でスッポンポンであろうと、自分とシャルナさんが命がけでお嬢様を守らなくてはならない。
まして 貴族の淑女は醜聞には気を付けなくてはならない、とラノベにも書いてあったしね。
ともあれ、その様な理由から使用人ではあるがお嬢様と一緒に入浴できる。
別にウハウハなんてしていないよ。
自分と同じ物を見ても楽しくない。
勿論、男の裸など見たくも無い。
「はぅ・・」
「暖かいねーファルナ」
湯船は3メートル四方くらいの広さで幼女な自分には充分に広い。
なので、ついつい平泳ぎなどをしたくなる。 スイー
「ファルナ、すごーい。何したの?」
うん、期待通りお嬢様は泳ぐのを初めて見たらしい。
子供らしいキラキラした目で見ている。 スィー
ペシーッ☆
「はしたないですよ、ファルナ」
いたー。尻を叩かれた。
シャルナさんが居たのを忘れていた。
うーん・・。
セルシニアお嬢様に水泳を教えるのは今は無理だね。
今は・・
と、平和?な入浴はここまでだった。
「いた・・♡」
「ひぃっ、アデリーナ!、こっち来るな」
「ファルナちゃん、セルシニアちゃーん」
ヒタヒタ、ドパーン☆
冒険者の女性アデリーナが湯船に飛び込んで来た。
入浴前のマナーは守れよ。
自分が言うまでも無く、プチッと切れたシャルナさんに捕まって懇々と説教されている。
そう、出発前にファルナの姿を見て彼女が耐えていたのは『可愛いものに飛びつく衝動』だったのだ。
可愛いもの大好きという前世の地球にも存在した性癖を持つ彼女は当然のように幼い容姿の自分とセルシニアをターゲットにした。
おかげで護衛からお嬢様を守るという変な仕事が増えてしまった。仕事が増えても追加料金は出ないんだぞ。
「「「!!」」」
入り口から新たな人の気配がする。
お嬢様以外の3人は同時に警戒態勢に入る。
宿を貸しきりにしている訳では無いので自分たちだけで入浴するわけではない。だからこそ護衛もこなせるメイドは今回の旅に必要不可欠とされる。
アデリーナとシャルナさんが戦闘態勢になった。
同行している他のメイドは領主様の給仕などをしているから交代の時間までこの場に来るはずが無い。
つまり相手は知らない他人だ。
「若様、いけません。ここは邸とは違うのです」
「気にするな、ボクが許す。いつも一緒に入っているではないか、苦しゅうない、苦しゅうない」
バターンと勢い良くドアが開き入って来たのはメイドであろう女性たちを引き連れた小さな男の子だった。
そう、男・・
「この不埒物がぁぁぁー」
「はぎゃー」
アデリーナとシャルナさんがお嬢様を背中に隠しているお陰で自由に動けた自分、ファルナが相手の顔面に渾身のドロップキックをくらわせた。
一瞬たりとセルシニアの裸は見せないぜ。
その代わり 自分は色々と見られただろうけど気にしない。
たぶん 蹴られたショックで記憶が飛んだ事だろう。
「・・・ひぃぃ、お坊ちゃまぁぁ」
「おのれ、不届き者。いずれの手のものか?」
「おっと」
マッパの女性たちが鬼の形相で襲いかかって来るのをヒョイヒョイとかわす。
会話を聞く限り相手も高貴な身分なのだろう・・
だがしかし、正義はこちらにある。
ほどなく本来の護衛であるアデリーナさんが参戦。
女子プロレス真っ青な女の大乱闘に発展しましたとさ。
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「どうしたのだ・・その姿は」
「少々 アクシデントがございまして」
「やれやれ・・そなたの嗜好には困ったものじゃの」
「ちっ、違いますよぅ。これは護衛仕事によるものです」
宿の一室。護衛として同行する冒険者三名が打ち合わせをしていた。
風呂場での護衛を全うしたアデリーナの艶姿は普段の行いが祟ってか あらぬ誤解を受けている。
「まぁ良い、それよりじゃ。確認できたかの?」
「はい、それは抜かり無く」
アレクトレウスとトゥルゲルトにとって待ち望んだ情報であった。護衛の立場では温泉という場以外に確認する方法が見つからなかったからだ。
「有りました。あの子のお腹に・・あれは皇家の紋章に間違いありません」
「「おおっ」」
アデリーナの乱入には意味が有った様だ。




