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17、ファルナリーア

「さぁ、一緒に食べようかの」


そう言って自分(ファルナ)に串焼肉を手渡すのは執事みたいな雰囲気のお爺さん。

服装などは一般人のそれなのだが醸し出す知的な所作は隠しきれていない。ヨーゼフさんと同じ匂いだ。

整えられた白いヒゲが似合っている。


「あの・・どうして?」


「あの場ではいらない人目を集めてしまいますでの」


あの不良警邏が一般人の男たちに袋叩きにされている現場には人がどんどん集まって来ていた。

確かにそんな中で老人が子供を捕まえていれば注目されるだろう。

逆に言えば幼女な自分が騒げば助かる事を意味する。


だけど、この老人は自分が憑依能力を使って女性を助けた事を知っていた。その話をあの場でする訳にはいかない。

衆目が集まるほど危険なのは自分なのである。

例え老紳士の言葉を信じる人が居なくても「そんな能力が有る」と思われるだけで バレるのが恐くてそれ以後何も出来なくなる可能性が高い。


そんな理由から老人に逆らわず広場まで来てベンチに2人並んで肉を食べている。これなら他人から見れば「祖父と孫が一緒に居る」くらいにしか見えない訳で誰も注目する事は無い。

渦中の自分的には中々シュールな状況ではある。


とは言え、これは自分にとっても都合が良い。

老人の真意を確かめ、場合によっては憑依して口を塞ぐ場合も想定しなくてはならないからだ。


「ふむ、屋台の食事も悪くないのぅ」


「・・・・・・・」


「お嬢さん、ずいぶんと変わったスキルを持っておるのぅ」


「スキル?」


「そうじゃよ。魔法とは違う特別な能力はスキルと呼ばれとる」


うはーっ、スキルかよ。ずいぶんとゲーム臭い単語が出てきた。

多分あれだな、この世界の意味としては少しニュアンスが違っているんだろうな。

大事なのはこの世界でも特殊な能力者は一定数が存在するという事だ。貴重な情報を得られた。


「そしてのぅ、そんな中には わしのように他人がスキルを使うのを感知できる者も居るのしゃよ。無闇に人前でスキルを使ってはならぬぞ。危険じゃからの」


「っ、うん、そうする。・・ありがとう」


「ほっほっほ。良い子じゃ、良い子じゃ。しかし、あの娘さんを助けたのは偉かったぞ。あの男たちも今後は何も出来まいて」


この老人が理解ある人で助かった・・のかな。

しかし、この爺さん凄いやっかいなスキル持ってるな。

自分みたいな人間にとって天敵と言えるかも知れない。


どうやら今回の件は見逃してくれるらしい。

自分が片目なので同情してくれたのだろうか・・。

最初に顔を見た時 もの凄く驚いてたんだよな。

そう言えば、昨日の酔っ払いの大男も驚いてたな。

自分はそんなに恐い顔なのかな?。

少しだけ傷つく


とりあえず注意だけされて老紳士ルゲルトさんとは別れた。思わぬアクシデントではあったけど結果的にはラッキーだったかな。色々と情報も得られてし、お金の使わずにお腹一杯になった。





訂正しよう、大変にアンラッキーであった。

ただいま自分は両方のホッペを抓られて引き伸ばされている。もの凄い拷問である。


「いひゃひゃー、こみぇんなひゃい」


「サボっていたのは・・とりあえず良いとしましょう、ファルナ。

しかし、領主家の侍女たるものが知らない男性に付いていくとは何事ですか!。あまつさえ食事を与えられて喜ぶなんて危険極まりない事です。分かりますか?!」


先輩メイドのシャルナさんがゲキオコでした。

どうやら老紳士と歩いている所から心配して見ていたらしい。

今の自分は幼女だし、言われてみれば確かにそうだ。

何より恐い顔で怒っているシャルナさんからは本気で心配してくれているのが分かるので反論の余地など無い。


自分の悲惨な過去を暴露したあの一件以来シャルナさんは何かと親身になって気を使ってくれている。

今回の長旅も過酷なのを承知でシャルナさん自ら志願したのはお嬢様に同行しなくてはならない自分を心配してくれたからだろう。

この後もお嬢様が目を覚ますまで懇々と説教が続くのでした。



***********




「良かった、無事に戻られましたか。アレクトレウス様」


「ああ、ただいま。トゥルゲルト」


昼にファルナが出会った老紳士は室内ではその立ち居振る舞いがさらに洗練され礼服を身に付けていなくても彼の本職が伺えるものだった。その老紳士が出迎えたのは先日ファルナが恐怖した大男アレクトである。



「アデリーナが護衛ですのでスクランタごときは大丈夫でしょうが、魔物よりは暗殺者の方が心配ですのぅ」


「ふっ、何を言うか。どうせ二桁にも及ぶ影が守っているのだろう。でなければトゥルゲルトも同行したであろうが」


「ふぉっほっほっ」


一見すると普通の家屋に同居しているのはアンバランスな三人。もしその家を魔法に長けた者が見れば驚愕するほどのセキュリティがなされている事に気付くはずだ。当然防音においても完璧である。それに安心しているのか、大男アレクトこと アレクトレウスはその口調まで普段とは変わっていた。


「オレが無事な理由は簡単だ。群れで襲って来る予定だった魔物のスクランタが全く居なかったからな」


「冒険者の群れに恐れをなしましたかの」


「それも違う。

問題になっていた峠には食い散らかされたスクランタらしき頭やら足やらが散乱していた。潅木も麦畑を踏み荒らしたように倒されていた。何が暴れれば峠があんな酷い荒れ方をするのか見当も付かん」


「なんと!」


「同行した冒険者たちもさすがに恐ろしかったらしくてな、死体の処理を済ませた後は逃げるように帰ってきたのさ。勿論オレもだけどな。あんな惨状を作り上げる相手とは出会いたくも無いぞ」 ははは


アレクトは無理やりおどけて楽しそうに語るが彼ほどの猛者をしても顔が引きつるのを隠せなかった。



「後ほど影共から詳細な情報を聞きだしましょう。

貴方様に何か有れば一大事ですから、確認されるまで危険には近づかないでくだされ」


「やれやれ、冒険者になったのに過保護な事だ。

心配しなくても良いぞ。こんな仕事をしてるのも娘を探す為だ。冒険したい訳じゃ無いさ」


知ってはいても確認しなくては安心出来ないのはトゥルゲルトの人柄ゆえである。口ではまともな事を言っているアレクトレウスではあるが、家から離れてのびのびと冒険を楽しんでいるのも間違いでは無かった。



「そう言えば、昼ころにお嬢様と瓜二つの少女に出会えましてのぅ、久々に心底驚きましたぞ。私めの顔を見ても分からないようですし・・他人のそら似という奴ですかのぅ」


「それならオレも出会った。娘と同じ顔で他人の態度を取られたのはキツいものだったぞ」


「たしかに、少しばかり話をしてみましたが性格も話し方も別人のソレでしたのぅ。屋台の肉串を美味しそうに食べておりました」


「そうか・・」


「ですがのぅ。これはあくまで老人の推測でしか有りませんが、あの方はお嬢様かも知れません」


「なん、だと・・。何故そう言える?」


振り向いたアレクトレウスの顔は鬼気迫るものに成っていた。トゥルゲルトが推測と言っているが彼は稀代の魔術師である。その魔力はすさまじく、単なるカンや予測でも高い的中率を持つのは知られている。

今回の旅で彼に同行を願い出たのはそんな能力を当てにした事も大きい。



「まずは 声が同じでしたのぅ。あれだけ似ていて声まで同じなのはいささか出来すぎでございましょう。

そして、一番の理由ですが あの子の目です」


「!、そう言えば片目を布で隠していたな」


アレクトは自らもその点を思い出し部屋を飛び出さんかの勢いで立ち上がった。

彼の娘の目は少しだけ色違いのオッドアイ。そして隠されていた方の目は聖眼という特殊なものであった。


「アレクトレウス様、急いてはいけませんぞ。

我等を覚えていないのは嘘や演技ではありませんでしたからのぅ。何かしら理由もありましょう」


「っ、・・ああ、そうだな。確証が得られるまでは名乗り出る訳にもいかんか・・歯がゆいものだ」


「焦らずとも その機会は必ずまいりましょう。

疑いようの無い印をお持ちなのですからのぅ。

既に影の半数はそちらを護衛しておりますし、今までのように手探りで捜索して居た事に比べれば何ほどもございますまい」


「手回しが早いな。既にそこまで考えていたのか。

ふっ、オレよりも気が急いているのではないのか?」


「当然でございますとも。あの目によって城の腹黒いジジイどもは皆そろって嫌われておりましたのに、私めにだけは孫のように接してくだされました。あの笑顔をもう一度見られるならこの老いた命など・・。

明日にはあの方の今の情報も入ります。それによって我々の今後の行動も変わりましょう」


宮廷魔導師の筆頭という立場の彼が主の頼みとは言え、当ても無い旅に同行していたのは仕事だけの理由では無かったらしい。


「あの方がリリセンティア皇国のファルナリーア皇女殿下である印を確認出来ましたなら、その時こそ身分を明かして親子であると名乗り出るのがよろしいでしょう」



ファルナの知らない所で彼女を巡る歯車は慌しく動き出していたのでした。








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