14、平穏を望むはトラブルのフラグ
その後の旅は何事も無く順調だ。
命の危険が有るイベントがそう有っては堪らない。
しかし、個人的には平穏とは言えなかった。
「のぅ、チッコイの。退屈である、何か話せ」
「なーにぃ・・コロタン?。私は今ねむいの・・」
そう、あの謎生物のコロタンが退屈なのか寂しいのか知らないけど唐突にしかも時間を選ばずに念話で話しかけてくる。お嬢様と違って聞き分けが無いからしつこくて とてもウザイ。まるで お世話する子供が増えたみたいだよ。あの子はモフモフモだったし犬みたいに懐かれたのだろうか?。ちなみに今は真夜中である。
コロタンの種族は今も分からない。
ひょっとしてフェンリルなのかと思って聞いたら
「フェンリルだと?。高貴な我輩をあんな子犬と一緒にするな」
と言って機嫌を悪くしてしまった。
そういえば唯一の存在だと言ってたから本当に一匹しか居ないのかも知れない。それなら種族名なんて有る訳が無い。強いて言うなら最初につけた名前が種族名になるかも・・種族コロタン・・ぷぷっ。
とりあえず寝よう。
せっかく宿場町の宿でベッドを使えるのだ
ここで疲れを取らないと道中バテてしまう。
何よりお嬢様の癒しの抱き枕の仕事は重要なのだ。
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「領主様、ギルドに護衛依頼を出してまいりました」
「ご苦労だった。依頼料に色を付けてあるから明日にも引き受ける者が決まるだろう。明後日には出発する」
「それなんですが・・出発を延期したほうが良いかもしれません」
「・・・・どうしてかね?」
使いに出ていた護衛の騎士はかなりの手練れである。
剣技は勿論、格闘術から簡単な攻撃魔法すら使う。
ギルドでトラブルが起きたとしても並みの冒険者など相手に成らないだろう。だからこそ領主は彼の提案理由に興味を示した。
「近頃この先の峠でスクランタの群れが出るそうです」
「なるほど・・スクランタか」
スクランタとは魔獣の一種で、牛のような体躯にオオカミのような攻撃性を持っている。極端に言えばバッファローの体にオオカミの頭を取り付けた姿に似ていた。
「一匹であれば自分1人でも勝てますが群れとなるりますと騎士隊のような近接戦闘員だけでは対処できません。最低でも専門の魔法使いや弓の名手が数名は必要に成ります。この街の冒険者にそれを期待するのは難しいかと。条件が揃ったとしてもギリギリ撃退できるかどうかになります」
「だが、長くは待てんぞ」
「現在ギルドで討伐隊の冒険者を募っております。二三日中には結果が出るものと思います」
「その者達に露払いをさせるのか・・」
「大変遺憾ながらそれが最善かと・・。全てを討伐できずとも残された数なら今の護衛でも撃退できます」
騎士がこう言うのもいたしかたないだろう。
スクランタは獲物の弱いところから狙いを付ける。
戦えない馬や御車が一番に狙われるだろうし、気付かれれば馬車の中の娘たちが最も危険な状況となる。
守りながらの戦いでは実力も出せないだろう。
護衛する立場からすれば最悪といえる魔獣なのだ。
「仮に我々が討伐に参加しても冒険者とは足並みが揃わず連携が乱れるでしょう。不本意ながら彼らに任せるしかありません」
平穏な旅といかないのはファルナだけでは無いらしい。
そして朝が来た。
何時ものようにお嬢様のお世話をして出発の準備をしていたのだが急に延期となった。何日かこの街で休養するとのこと。
護衛達はその間暇になるがメイド達はこの期に色々な準備をしなくてはならない。まずは貯まっていた下着などの洗濯から始まり、食料品の補充や馬の食料である飼葉の補充も重要だ。
ただし、怒涛の動きに付いて行けない幼女のファルナにはその仕事が適用されない。
と言うわけで自分ファルナは急に出来た時間を有意義に使う。もちろんセルシニアお嬢様のお世話は完璧?にこなす。運動させてお昼寝させた後は街に出かけて馬車の道中で使える暇つぶしのネタを探す。
他の町が見たい訳じゃ無いんだからね。
普段仕事で着ているのはお嬢様の古着とは言え上等なドレスなので街に出るには問題が有る。最初に手に入れた街娘の服を捨てずに持っていたので着替えて出掛けた。
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この世界の冒険者ギルドにもお約束の酒場が併設されている。利益目的なのも勿論だが雑談によって得られる情報が彼らにとって重要な意味を持っている事も無視できない。良くも悪くも冒険者の野郎共は少なくない時間をここで過ごす。
「お、おれは情け無い奴なんだ・・・そうだろ。大切な家族を守れなかったんだぞ、分かるか?んん」
「あーあ、アレクトの奴また悪い癖が出てきたな」
「あんなになってても喧嘩になったら誰も勝てねぇんだから始末が悪いぜ」
「ははは、馬鹿なよそ者が先日もぶちのめされたらしいぜ。ギルドを出た後でアレクトの装備を狙ったらしい」
「ああ、その話は聞いたぜ。路地裏で襲ったらしいが逆にボコボコにされたらしいな。アレクトはそのままフラフラ帰ったらしいが そこがスラムの近くだったらしくてな 気を失っている隙に全員身包み剥がされたそうだ。装備が無くなったら冒険者は廃業だな」
「「「「ぎゃははははははは。バカだねー」」」」
今日も酒場では1人の男が噂話という酒の肴を皆に提供していた。
「あの酒癖さえ無ければ女にモテモテだろうに」
「ちっ、その話は止めろ。酒が不味くなる」
冒険者アレクトはまだ若いが頭角を現した注目のルーキーだ。身形は冒険者のそれだが身奇麗にしていて品が有り女性たちからも注目されている。しかし、致命的に酒癖が悪かった。
「リリィちゃーーん、勘定ここに置くよー、ひっく」
「またな、アレクト。気をつけて帰れよ」
「ああっ、またなー」
一見するとグデクデに酔っ払っているようだが最低限の警戒心は捨てていないのだった。酔っても緊張感から逃げられないと表現したほうが適切だろうか。
そんな彼がギルドのドアを開けて出たとたん立ち尽くしてしまう。
目の前の路上には串に刺さった大き目の肉を齧りながら歩く幼女ファルナが居た。
「・・・・ルナ・・?」
「ほぇ?」
肉串を両手に持ったままファルナも立ち尽くした。
急に横の建物から出てきた大男が自分をガン見しながら変な声を出しているのだ。大人でも竦んでしまうかもしれない恐怖だ。
チビらなかったのは男?の意地なのだろうか。
ルーキーでありながらアレクトが先輩冒険者に一目置かれるのはその恵まれた体躯にあった。
2メートル50の身長に均整の取れた引き締まった筋肉は容易にその実力を見せ付ける。喧嘩を仕掛けたとして自分も無傷では済まない事が確実なため割に合わないのである。
幼女のファルナと大男のアレクト、デコボコな2人はしばし硬直したまま見つめ合った。
瞬き一つしないまま自分を見ている男に恐怖を感じるファルナではあるが衆人環視の中で憑依能力は使えない。
異様な雰囲気に道行く人々も立ち止まって様子を見ていて その場だけが静かな空間を作っていた。
「えっと・・食べる?」
緊張に耐えられなくなったファルナがまだ手を付けていない方の肉串を差し出して幼女らしく無邪気なポーズでその場を誤魔化そうとした。まずは笑顔で始まりを平和的に印象付ける日本的な行動かもしれない。
ファルナのパフォーマンスは効果絶大であった。
危ない雰囲気を何事かと見ていた人々の目に 男が子供の食べているものを狙っていると勘違いさせた。
その瞬間から全ての人々の目が氷点下を思わせる冷たさで男に刺さっていく。
さすがに酔ってはいても自分を見る人々の目が無視できずアレクトはグッタリと肩を落とす。
「脅かして悪かったな、お嬢ちゃん。君がオレの娘に似ていただけなんだ。気にしないでくれ」
トラウマになるような事をしておいて気にするなとか言うな、と内心では思うファルナだが事なかれ主義の処世術を発揮して場を流す事にした。問題が大きくなってさぼっているのを先輩に知られたくなかったとも言える。
「そうなんだ。わかったー」
と子供らしく?その場から立ち去っていく。
何事も無かった事で街は普段通りの喧騒を取り戻していた。
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「アレの居所は常に掴んでおけ。個人的な衝動で突っ走るなど皇家としての自覚が足りん」
「はっ、常に数名の影が捕捉しております」
とある大国の宮殿にて宰相すら知らされない情報がもたらされている。
「にしても・・影の総力をもってしてもあの国の神殿までしか足取りは掴めぬか・・。荒事は避けようと手を尽くしてきたがここに来ては是非も無い。午後の会議にて勅令を出す。開戦じゃ」
近年無かった大戦が決定した瞬間であった。




