12、旅はノロノロ、その後に
あれから7日ほど経った今日、とうとう王都に向けて馬車が動き出した。
それだけ時間が必要なほど準備するのが大変だったわけです。
セルシニアお嬢様はまだ小さいので衣装は少なめで済むのだが それでも大き目の箱一つ分有る。しかも これは道中の分で王都の別邸にはそれ以上の衣装が用意されているらしい。お嬢様が年頃になった時の旅を思うと気が遠くなる。
そんな訳で馬車2台で足りるわけも無く、大きな荷物用の馬車が追加されて3台の馬車で出発となった。
本来ならもう一台使えるはずだったが、先日の山賊に壊されたため少なくなったらしい。
そのせいで騎士や男性の使用人たちが馬に騎乗しての同行となった。
使用人だけでも男性10人、女性3人の大所帯である。
少ない?。
そうとも言えるが、本来この領地は治安が良くて魔物も弱いのでこれでも過剰なほどらしい。先日の山賊が不自然極まりないのだ。王都までの途中には危険な場所もあるのだが手前の町で護衛を増やす手はずとのこと。
「ファルナぁ・・たいくつぅ」
そして自分は一番恐れていた事態に直面している。
お嬢様が馬車に飽きてきた。
出発してからまだ数時間しか経っていない。
違うか・・幼い子供にしては持ち堪えた方だ。
しょうがない、ここで秘密兵器その1をバッグから取り出す。
「ファルナ、これなーに?」
「これは、オテダマという玩具です。お嬢様」
いや、これでも色々考えて苦心したんだよ。
携帯ゲーム機もスマホも無い世界での暇つぶしなんて考えた事も無かったから思いつかないし。
最初に思いついたのはやはりトランプ。
ラノベの定番ですしね。
リアルでそれを実行しようと考えて思ったよ。
手作りでトランプ?絶対に無理。
材料からして存在しない。
見分けが付かないほど同じ質と大きさのカードに使われる技術って凄いんだよ。夢が無い?、無いんだよ。
はっ、いかん。妄想と討論してしまった。
男だった前世では勿論こんな遊びはしたことが無い。
存在だけは知っていた。親戚の子供が祖母からお手玉を作ってもらったのに興味を持たなかった場面が哀愁に満ちていて妙に記憶に残っていただけなんだけど。
よもや異世界で役に立つとは思わなんだ。
メイドの嗜みとして針と糸の使い方を習っている途中だけど小さな袋くらいは何とか作れる。
本当は玉に近い形に作るらしいが時間も無かったので諦めた。中に入れるのは本来は小豆のような小さなマメが良いみたいだけど遊び道具に使うのに豆をもらえなかったのでイガラシのタネを入れている。
イガラシは先日作った香辛料の名前。唐のからしだから唐辛子、異世界のからしだから異辛子。
ネーミングセンス?自分が後で分かりやすければ良いのです。
「これはですね、こうやって使うのですよ」
「ははっ、何でどうして」
取りあえず三つのお手玉を適度に上に投げ上げてシンプル?なお手玉の遊び方を見せた。
単純な動きだけどセルシニアお嬢様はご機嫌だ。
「ファルナ・・娘を大道芸人にするつもりかね?」
「ほぇ?」
そうでした、同じ馬車には領主様も乗っているのです。
最初は自分も使用人たちと同じボロ馬車に乗っていたんだけど、普段は子育てに関わらない領主様が娘のあつかいに困って、とうとう使用人の自分を同乗させる事にしたのだ。
「これは子供の遊びですよ」
「そうか?。しかし馬車の中では静かにしてくれんか」
うは、クレームが付いた。無理も無いか。
大人からしたら子供がはしゃぐ声は耳障りだしね。
お手玉をしまうと今度はお嬢様が泣きそうな顔に成る。
むむ、最早ご機嫌とりの秘密兵器その2を使うのか。
取り出したのは輪になったヒモ。そうです、アヤトリです。
荷物にならず メイドの仕事でも使うから手に入りやすい物で用意でき、それでいて子供でも遊べる優れもの。
これは男だった自分も何度か遊んだ事がある。
「セルシニア様、両手をこうやって」
「???」
そうだった。この遊びは見れば簡単に覚えるけど、何も知らない人に1から教えるのは難しいんだった。
「こうやって指に糸を架けていくとこんな形になります」
「??」
「そこに私が指をかけてこうすると、ほらっ、形が変わりましたね」
「えっ、どうして?」
「ほうっ。面白い事をしているな」
不思議そうに目を輝かせているお嬢様は狙い通りだけど、オッサンなのに領主様も興味を持ち出した。
そう言えばオッサンにはパズル系の知的ゲームを好きな人が多かった気がする。
ならば、徹底的にやる。
都合良いから領主様も巻き込んでしばらくの時間を綾取りで遊びましたよ。やれやれ。
馬車を止めて食事や休憩の僅かな時間を使って出来るだけセルシニアに運動させる。最初はそんな姿に領主様も渋い顔で見ていたけど、その後の馬車で疲れた幼女達が静かに眠っている姿を見て何も言う事は無かった。
特別なアクシデントも無く、旅はノロノロと続いていく。
いや、イベントなんて望んでません。安全第一ですよ。
馬車で1日移動した距離に宿場町が点在し、野宿しなくてはならない区間が難所という事になるらしい。
うん、旅が大変なほど地方にお金が落ちて助かるよね。
高速道路が出来るほど地方がさびれた日本はその逆。
そのくせ政治家は地方活性とか言ってて笑える。
商人も行きかう宿場町はそこそこの大きさで活気も有る。いわゆる護衛の冒険者?も多く居て夜も騒がしい。
宿ではセルシニアお嬢様と2人で一部屋なので馬車では使えなかったお手玉で遊ばせる。このまま夜更かしさせて次の日は馬車で昼寝してもらおう、と企んだけど頓挫した。自分も幼女の体で睡魔には勝てなかったのだ。
朝は何時ものように先輩メイドは領主様の、自分はお嬢様のお世話をしてから食事にありつく。
旅先で料理を楽しむという日本での常識はここには無い。
宿の料理もやはり薄味だ。
スープかシチューか分からない煮込み料理にこっそりイガラシを入れてみると何とか食べられる味になった。
よしよし。
しかし、これが良くなかった。
もじもじ、もじもじ・・
「りょ、領主様、失礼します!」
走ってる馬車から飛び出して草原を走る。
ラノベのおかげで知る事になった言葉、お花摘みである。
料理を辛くしたせいで知らず知らずに水を多く飲んでしまったらしい。ひょっとして宿の料理が薄味なのは意図的なのだろうか?。
男だった時はこの程度は我慢できたのに今は無理。
どんなに恥ずかしくても馬車の中で粗相する訳にもいかない。先輩達が地獄だと言ってた訳が分かった気がする。
大きな葉っぱを洗って乾燥させた紙?で後始末。
終わって振り向くと馬車隊は止まって待っててくれた。
心底ありがたい。
体力無しなので走って追いつくのは大変なのだ。
馬車に戻ると領主様が苦笑いで迎えてくれた。
丁度良いから馬車を止めて小休止するらしい。
セルシニアお嬢様も用を足したいらしく世話を任された。
周りを見ると先輩メイドたちも嬉しそうに馬車から離れていく。皆が私の頭を撫でてくれて「よくやった」という無言のメッセージが伝わってきた。
皆も我慢してたんですね。
大人の女性は幼女と違って草原の草程度では隠せない。
そこで魔法を使える人が土を迫り上げて簡単な壁を作って衝立代わりにする。大をしたい時には穴まで掘ってくれる。
魔法は素晴らしいな。男の時だったら「そんな魔法の使い方は間違っている」とか思ったかも知れない。
そんな感じで5日ほど馬車が進んだ頃、草原の中にポツンと小山が有るのが見えてきた。
その姿は地球のへそと呼ばれていたエアーズロックを小さくしたように見える。
街道はその横を迂回する形で延びていた。
徐々に近づくと何となく違和感が有る。
「あれは『古の棺』と呼ばれている街道の目印のようなものだ」
自分が窓の外をガン見しているのを気にしたのだろう。
領主様が教えてくれた。ちなみに お嬢様はお昼ね中だ。
しかし、棺とは気味の悪い名前を付けるものだ。
「変な名前ですね。古のへそ なら良いのに」
「ふっ、そうだな。記録には無いが、言い伝えでは昔の魔法使い達が何かを封じ込めたとも言われている」
ほほう、封印したのですね。
テンプレ的には魔王の娘とか、呪われた武器とか色々と夢がありますねー。大人になったら発掘しようかな。
普通は言い伝えなんて信じないけど、近づくにつれて強くなる違和感があの場所に何か有ると伝えていた。
「うううっ、だめ・・こないで」
「お嬢様!?」
「いやぁぁ、こっちにこないでーー!」
これはただ事じゃない。
今まで昼寝をしていたセルシニアがいきなり魔力暴走寸前まで高ぶっている。
何かが来ている?、いや違うか。馬車が移動してこちらが近づいているのだ。あの棺と呼ばれる小山に。
「馬車を止めてください。急いでー」
外に居る御車に向かって全力で叫んだが遅かった。
大きな地響きと共に山がひび割れて崩れだす。
「イベントなんていらないのにぃぃぃぃ」




