006「パッション」
「サラダとスイーツで、腹が膨れますかって話よ」
「そうそう。特に男子校育ちは、女に夢を見すぎてるわ」
ビールを入れた紙コップを持ちながら、梢と櫁が赤ら顔で管を巻いている。
「タンパク質を摂取しなければ、人間は生きていけないのである」
「その通り。良いこと言う」
「しかるに、女も男と同じだけの肉を食べねばならない」
「そう。ごもっとも」
そう言うと二人は、紙コップの中身を干し、めいめいに紙皿と割り箸を持ってコンロに近付く。コンロの側では、トングを持った椿が、網で肉を焼いている。椿は、めんどくさそうに横目で二人を見ながら言う。
「来たな、酔っ払いども。アル中に食べさせる肉は無い」
「タンメンみたいに言わないで」
「そうよ、そうよ。依怙贔屓だわ」
二人が食って掛かると、椿は二人のほうを向いて文句をつける。
「ピーチクパーチクうるさいな。櫁といい、柳瀬といい、楓といい。焼けた肉を食べるだけで、自分で焼かないから、俺もそうだけど、桜や松井が食べる分が無くなるじゃないか」
「こういうのは、早い者勝ちよねえ、櫁ちゃん」
「そうよねえ、梢ちゃん」
「くっ、このハイエナどもが」
「ハイエナとは何よ。私たちは、気高いライオンよ」
「そうよ。百獣の女王なんだから」
「燃えてるな」
「もちろんよ。男に負けず、前へ前へ出て行かなくちゃ」
「積極的に、行動的に、情熱的に」
「違う、違う。櫁の割り箸だ」
「え?」
「あら、本当」
箸先が焦げた割り箸を見る二人をよそに、椿は二人の紙皿にトングでウェルダンに焼けた肉を置くと、カチカチと威嚇するようにトングを鳴らしながら言う。
「肉は焼いても、箸焼くな。ほら、これやるから、さっさと向こうへ行け」
「はいはい、退散しますよ、焼肉奉行さま」
「カスタネット星人!」
素早くその場を立ち去る二人に向かって、椿は怒鳴る。
「肉返せ、コラー!」