020「レインコート」
「よし。そこの切り株で休憩しよう」
「すみません。足を引っ張ってしまって」
活力あり余る楓と、疲れ気味の梓が、並んで切り株に腰を下ろし、斜面の向こうに広がる眺望を見ながら会話を交わす。
「ドンマイ、ドンマイ。適当にリフレッシュしておかないと、保養所に戻る前にくたばってしまうからな。フー。良い天気だな」
「本当。よく晴れてますね」
「だけど、山の天気は変わりやすいからな。雨具は持ってるか?」
「はい。折りたたみ傘と、レインコートを入れてあります」
「用意周到だな。俺は、いま腰に巻いてるジャケットを笠にしようと思ってたところなのに」
「備えあれば患いなし、ですよ」
「結構なことだ。でも、備えすぎて、荷が重くなってるんじゃないか?」
「ウフフ。それは、言えてます」
「だろうな。心配性なところは、桜と一緒だ。相性が良いよ」
「そう、だと良いんですけど」
「オイオイ。そこは断言しようぜ。『桜が好きだ―』って、向こうに叫んでみろよ」
「嫌ですよ、恥ずかしい」
「じゃあ、こうしようか。まず、俺が『梢が好きだ―』って叫ぶから、あとに続いてくれ」
「駄目ですって。――あら?」
手のひらを上に掲げ、梓が天を見上げると、楓は、腰に巻いたジャケットを外して梓に被せ、手を引いて立たせる。
「降ってきたな。あと少しだから、走るぞ」
「あっ、はい」
*
「あのとき、桜さんが楓くんに傘を貸さなかったら、私たち、こうならなかったですよね」
「そうですね。あのとき、僕が梓さんと一緒の傘で帰らなかったら、違う未来が続いていたんでしょうね。そう考えると、些細な出来事の積み重ねで、ここまで来られたことになりますね」
「あの。……本当に、私なんかで良いんでしょうか?」
「それは、僕のセリフですよ。六歳も年上の僕で良いんですか?」
「フフッ。相性がいいですね」
「気が合いますね。ハハッ」




