019「ハイキング」
「バテるのが早いわよ。ファイットー」
「や、柳瀬さんのペースが、早すぎるんですって」
元気溌溂としている梢と、体力ゲージが限りなくゼロに近い桜が、丘の小道を歩いている。
「もう。同い年なのに、だらしないわよ」
「まったくです」
二人は、近くの平たい岩の上に腰を下ろして一息つき、会話を続ける。
「柳瀬さんは、楓くんとペアを組んだほうが良かったですね」
「そうね。楠見くんも、梓ちゃんと一緒のほうが、もっと張り切ったんじゃなくて?」
「それは、どうでしょうね」
「ちょっと、ちょっと。そこは嘘でも、そうだと言い切りなさいよ。安心できないじゃない」
「何が不安なんですか?」
「楠見くんが、本当に梓ちゃんのことが好きかどうかってことよ。私の口から言わせないで」
「すみません。察しが悪くて」
「で、どうなのよ、実際のところは?」
「どう、とは?」
「だーかーらー。楠見くんは、梓ちゃんのことが、どれくらい好きなのかってことよ。結婚対象として真剣に考えてるのか、それとも友だち感覚で遊びとして付き合ってるだけなのか、ハッキリしなさいよ」
「い、いきなり、そんなことを言われても」
「返事に困るっていうの? うかうかしてると、誰かに取られちゃうわよ? 四十や五十になってから後悔したって、遅いんだから」
「それは、お互い様な気もしますけど」
「まあ、そうね。私も、三十過ぎてまで独身でいるとは思わなかったわ。だいたい、大学院に進学するとは考えてなかったもの」
「そうですね。社会人としてのスタートが、あの二人より六年遅い」
「早けりゃ良いってものではないけど」
*
「入社した年の忘年会でハンカチを借りてから、結構、遠回りをしてしまったな、梢」
「そうね。いい加減なようでいて、意外と律儀な性格をしてるのよね、楓くん」
「貸し借りはチャラにしないと、気が済まないんだ」
「両辺で勘定が合わないと、帳簿として不備があるものね」
「そういうこと。いやあ、率直な気持ちを聞けて良かった」




